力学のエネルギー保存則はよく知られている.また,これまでの自然科学の学習の経験か
らエネルギー保存則はどのような場合でも成立することは分かっていると思う.ここでは,
力学と電磁気学を含めた系でもそれが成立することを示す.
エネルギー保存則については,完全に教科書に沿って説明しよう.電磁場中での運動方程
式も教科書に沿って
![$\displaystyle m\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{v}}{\mathrm{d}t}=q(\boldsymbol{E}+\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B})$](img27.png) |
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とする.相対論的補正は加味されていないが,それを入れても同じ結果が得られる.
電磁場中に2つの電荷があったとする.それぞれの電荷量を
と
,質量を
と
とする.それぞれの運動方程式は,
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![$\displaystyle m_1\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{v_1}}{\mathrm{d}t}=q_1\boldsymbol{E}+q_1\boldsymbol{v_1}\times{\boldsymbol{B}}$](img32.png) |
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![$\displaystyle m_2\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{v_2}}{\mathrm{d}t}=q_2\boldsymbol{E}+q_2\boldsymbol{v_1}\times{\boldsymbol{B}}$](img33.png) |
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となる.このての方程式を積分するときは,両辺に
![$ \boldsymbol{v}$](img34.png)
の内積を乗じるのが常套手段
である.そうすると,
![$\displaystyle m\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{v}}{\mathrm{d}t}\cdot\boldsymbol{v}= \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\left[\frac{1}{2}mv^2\right]$](img35.png) |
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となる.本当にそうなるかは,
![$ v^2=\boldsymbol{v}\cdot\boldsymbol{v}$](img36.png)
に注意して,右辺を微分してみれ
ば分かる.したがって,先の運動方程式は
となる.ここでは,
![$ \boldsymbol{v}$](img43.png)
と
![$ \boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B}$](img44.png)
は直交することを利用した.この式
は,磁場
![$ \boldsymbol{B}$](img45.png)
は電荷にエネルギーを与えることが出来ないと言っている.左辺の括弧
内は運動エネルギー
![$ T$](img46.png)
を表している.両辺を積分すると,
![$ dT=q\boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{r}$](img47.png)
となり,運動エネルギーの変化は電場と変位の内積となる.
運動エネルギーに磁場は全く寄与しないのである.それならば,発電機はどうなっている
のか?と言う疑問が湧くであろう.これについては,前回の授業で述べたはずである.こ
こでは,運動エネルギーについてのみ述べたが,ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)
を含めても同じことが言える.
系全体の運動エネルギーの変化と電磁場の関係を考察するために,先ほどの2つの運動方程式
を足しあわせよう.この操作をするときに,荷電粒子は大きさを持つものとし,その電荷
密度を
とする.したがって,電流密度は
となるので,これを
考慮すると,
![$\displaystyle \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} \left[\frac{1}{2}m_1v_1^2+\frac{1}...
...right] =\int_V(\boldsymbol{j}_1+\boldsymbol{j}_2)\cdot\boldsymbol{E}\mathrm{d}V$](img50.png) |
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となる.当然,積分領域は考えている系全体である.
次に,マクスウェルの方程式の式(4)を使う.すると,
![$\displaystyle \boldsymbol{j}_1+\boldsymbol{j}_2=\nabla\times \boldsymbol{H}- \i...
...bol{D}}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{D}}{\partial t^{1}}\fi$](img51.png) |
(17) |
となる.教科書には,この式の右辺は2粒子の作る場と書いてあるが,それは場の一部に
すぎない.この式は,右辺のように電磁場を微分するとそれは電流密度
になると言っているだけである.その電磁場は当然,2粒子が作るものも含まれるが,ほ
かの理由により存在する電磁場も含む.この式を使うと,2粒子の運動エネルギーに関す
る式は
![$\displaystyle \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} \left[\frac{1}{2}m_1v_1^2+\frac{1}...
...al^{1} \boldsymbol{D}}{\partial t^{1}}\fi \right)\cdot\boldsymbol{E}\mathrm{d}V$](img52.png) |
(18) |
となる.この式の左辺は運動エネルギーに,いっぽう右辺は電磁場に関するものである.
だんだんと,力学的なエネルギーと電磁場のエネルギーの関係に近づいたことが実感出来
るであろう.
さて,
![$\displaystyle \div{\left(\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{H}\right)} =\boldsymbo...
...\cdot\nabla\times \boldsymbol{E}-\boldsymbol{E}\cdot\nabla\times \boldsymbol{H}$](img53.png) |
(19) |
のようなベクトル恒等式がある
4.これを用いると,
となる.左辺は粒子の運動エネルギーの変化を表している.右辺第一項は電磁場のエネル
ギーの変化である.第二項は,エネルギーの流れを表している.この辺の事情については
後で述べることにする.この式は,
と書き改めることができる.それぞれの項は,
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![$\displaystyle \frac{1}{2}m_1v_1^2+\frac{1}{2}m_2v_2^2$](img62.png) |
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粒子の運動エネルギー
![$ \mathrm{[Jule]}$](img63.png) |
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![$\displaystyle \frac{1}{2}\boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{H}$](img64.png) |
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磁場のエネルギー密度
![$ \mathrm{[Jule/m^3]}$](img65.png) |
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![$\displaystyle \frac{1}{2}\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{D}$](img66.png) |
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電場のエネルギー密度[
![$ \mathrm{Jule/m^3]}$](img67.png) |
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![$\displaystyle \boldsymbol{E}\times\boldsymbol{H}$](img68.png) |
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単位面積あたりのエネルギーの流れ
![$ \mathrm{[Watt/m^2]}$](img69.png) |
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を意味している.運動エネルギーについては,力学で学習したとおりである.電磁場のエ
ネルギーに関しては静電場での話と同じである.最後の項のみここで追加されたことにな
る.エネルギー保存則を満足させるためには,最後の項はエネルギーの流れ
![$ \mathrm{[Watt/m^2]}$](img70.png)
となる必要がある.
![$ \boldsymbol{E}$](img71.png)
と
![$ \boldsymbol{H}$](img72.png)
の単位から考えるとエネ
ルギー密度の流れになっている.本当にエネルギーの流れになっているかは,
実験で確かめる必要がある.いろいろな実験の結果,この式がエネルギーの流れを表して
いることが確かめられているのである.このエネルギーの流れのベクトル
![$\displaystyle \boldsymbol{S}=\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{H}$](img73.png) |
(22) |
は,発見者の名から,ポインティングベクトルと呼ばれている.
これらのエネルギーの関係は,図1のように表すこと
ができる.
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Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年7月26日