どのようにして、この考えに至ったかは分からないが、電流を流すと方位磁石 は力を受けて、方向が変わると考えた。磁石は力を受けて、電流と同じ方向、 あるいは反対の方向に向くと考えた。これはもっともなことで、電線に流れて いる電流が、磁石の北の先端が受ける力は、対称性から考えて、右や左である わけがない。電流と同じ方向か、その反対である。そこで、学生の前で、図 1のように、磁石と電線を配置して、スイッチを入れた。 結果は、期待に反して、磁石は動かなかったのである。これは、磁石の方向と 電流が作る磁場の方向が一致していたために動かなかったのである。ここで、 電流を反対にすれば、磁石が180度回転して、それはドラマチックなことが起 きたはずであるが、なぜかエルステットは、反対に電流を流していない。それ にしても、1/2の確率でエルステットは運がなかった。
しばらく、自分の考えがうまくいかないことに、悶々としていたエルステット は、何を思ったか、あるいは実験を間違えたか、磁石と電線を同じ方向に向け て、電流を流した。そうすると、磁石が90度回ったのである。これには、エル ステットも驚いたに違いない。対称性から考えて、どうしてもありえないこと が起こったのである2。 1820年の春のことである。エルステットはなかなか納得がいかなかったが、実 験を繰り返し、その事実を認めた。そして、その発見について、その年の7月 に報告書を書いた。
この報告書が他の研究所に届くや否や、多くの実験が行われ、新たな発見が相 次いだ。