1 真空中の静磁場

問題4.1

[問] 1本の直線電流のまわりの磁場を、例題ではベクトルポテン シャルを直接計算することによって求めた。別解として、一本の直線上に一 様な線密度で電荷が分布しているときの、電位の計算と対比させることによっ ても、いまの磁場が求められることをしめせ。



電場のスカラーポテンシャルが満たす微分方程式は、

$\displaystyle \nabla^2\phi=-\frac{\rho}{\varepsilon}$ (1)

である。一方、磁場のベクトルポテンシャルの場合は

\begin{equation*}\left\{ \begin{aligned}\nabla^2A_x=-\mu_0j_x \nabla^2A_y=-\mu_0j_y \nabla^2A_z=-\mu_0j_z \end{aligned} \right.\end{equation*}

である。スカラーポテンシャルもベクトルポテンシャルも同じ微分方程式であ る。微分方程式が同じならば、その解も同じ形である。

まずは、単純なスカラーポテンシャルを計算する。線密度$ \sigma$で電荷が一 様に分布している無限に長い線を考える。ガウスの法則を使うと、電場は

$\displaystyle E_r=\frac{\sigma}{2\pi\varepsilon r}$ (3)

となる。次にポテンシャルを計算する。この場合、無限の電荷があるので、無 限遠点を基準電位にできない。$ r_0$の位置を基準電位とする。すると、ポテンシャルは

\begin{equation*}\begin{aligned}\phi(r) &=-\int_{r_0}^rE_rdr &=-\int_{r_0}^r\f...
...) &=constant-\frac{\sigma}{2\pi\varepsilon}\log r \end{aligned}\end{equation*}

である。微分方程式が同じなので、この結果は直ちにベクトルポテンシャルに 応用できる。その結果、

$\displaystyle \boldsymbol{A}=constant-\frac{\mu_0\boldsymbol{I}}{2\pi}\log r$ (5)

となる。これが、無限に長い直線電流の磁場を表すことは、各自確かめよ。

問題4.2

[問] 次のベクトルポテンシャルは、同一の磁場を表している。そ の磁場の磁束密度を求めよ。次に、一つの磁場を表すのに、このような複数 のベクトルポテンシャルがあってもよい理由を述べよ。

$\displaystyle \boldsymbol{A}$ $\displaystyle =(0, Bx, 0)$ (6)
$\displaystyle \boldsymbol{A}$ $\displaystyle =(-By/2, Bx/2, 0)$ (7)





まず、それぞれのベクトルポテンシャルが表す磁場を考えてみる。ベクトルポ テンシャルと磁場の関係は、 $ \boldsymbol{B}=\nabla\times\boldsymbol{A}$なので、式 (6)の表す磁場は、

\begin{equation*}\begin{aligned}\boldsymbol{B} &=\nabla\times(0, Bx, 0) &=(0, 0, B) \end{aligned}\end{equation*}

となる。同様に、式(7)の表す磁場は、

\begin{equation*}\begin{aligned}\boldsymbol{B} &=\nabla\times\left(-\frac{By}{2}, \frac{Bx}{2}, 0\right) &=(0, 0, B) \end{aligned}\end{equation*}

となる。これら2つのベクトルポテンシャルは、同じ磁場 $ (0, 0, B)$を表し ている。

なぜ、ベクトルポテンシャルは異なっているのに、同じ磁場となるのか?。こ れは、ベクトル恒等式

$\displaystyle \nabla\times\boldsymbol{A}=\nabla\times(\boldsymbol{A}+\nabla\phi)$ (10)

から説明できる。即ち、異なるベクトルポテンシャル、 $ \boldsymbol{A}$ $ \boldsymbol{A}^\prime=\boldsymbol{A}+\nabla\phi$、であっても、同じ磁場を表すことがで きるのである。これは、ちょうど、通常の関数に定数項を加えても、その微分 は同じであることに対応する。

それでは、 $ \boldsymbol{A}=(0, Bx, 0)$ $ \boldsymbol{A}^\prime=(-By/2, Bx/2, 0)$として、そ の関係を調べてみる。それぞれの差は、

\begin{equation*}\begin{aligned}\boldsymbol{A}^\prime-\boldsymbol{A} &=\left(-\f...
...2}, 0\right) &=\nabla\left(-\frac{Bxy}{2}\right) \end{aligned}\end{equation*}

である。したがって、 $ \boldsymbol{A}^\prime=\boldsymbol{A}+\nabla\left(-Bxy/2\right)$と なっており、ベクトル恒等式より同じ磁場を表すことになる。

問題に対する解答は、これで終わりであるが、もう少し違った見方で、この問 題を見てみる。式(6)のベクトルポテンシャルと磁場の 様子を図1に示す。この図の矢印がベクトルポテンシャ ルで、磁場は紙面に垂直にある。式(7)の図 3のようになる。これは、式 (8)や(8)の通りである。図を 見れば、矢印が川の流れを表すとすると、紙面に垂直な軸をもつ水車を入れる とそれが回ることが分かるであろう。その回転速度もどこでも同じであること が直感で理解できると思う。

次に、図1を90度回転させてみよう。すると、図 2のようになるであろう。90度回転させても磁場はまっ たく変化しないが、ベクトルポテンシャルの方向は変化する。この90度回転し たベクトルポテンシャル

$\displaystyle \boldsymbol{A}$ $\displaystyle =(-By, 0, 0)$ (12)

もまた、同じ磁場を表すことが予想できる。実際、これが現す磁場を回転を取 ると、 $ \boldsymbol{B}=(0, 0, B)$となる。

3のベクトルポテンシャルは、図 12を加算して、2で割っ た形になっている。それぞれのベクトルポテンシャルを、 $ \boldsymbol{A}_1, \boldsymbol{A}_2, \boldsymbol{A}_3$とすると、

$\displaystyle \boldsymbol{A}_3=\frac{\boldsymbol{A}_1+\boldsymbol{A}_2}{2}$ (13)

である。これから、図3の磁場 $ \boldsymbol{B}_3$

\begin{equation*}\begin{aligned}\boldsymbol{B}_3 &=\nabla\times\boldsymbol{A}_3\...
...}(0, 0, B)+\frac{1}{2}(0, 0, B) &=(0, 0, B) \end{aligned}\end{equation*}

となることが理解できるであろう。問題で与えられたベクトルポテンシャル図 3は、図1と90度回転した図 2を足して2で割っただけである。図12が0.5ずつ寄与しているのである。

このことから、図1の寄与が$ 1/4$で図 2$ 3/4$のような、図の場合でも同じ磁場を表す。ま た、それを45度回転させても同じ磁場を表す。

図: $ \boldsymbol{A}=(0, Bx, 0)$
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.6]{figure/vector_pot_1.eps}
図: $ \boldsymbol{A}=(-By, 0, 0)$
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.6]{figure/vector_pot_2.eps}
図: $ \boldsymbol{A}=(-By/2, Bx/2, 0)$
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.6]{figure/vector_pot_3.eps}
図 4: $ 1/4\times $図1$ +$$ 3/4\times $図2。
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.6]{figure/vector_pot_4.eps}
図 5:4を45度回転。
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.6]{figure/vector_pot_5.eps}

問題4.3

[問] 半径$ a$の二つの円形コイルを中心軸を共通にして、$ a$だけ の間隔を隔てて置き、両者に同じ向きに同じ電流を流すと、二つのコイルの 中心付近ではかなり一様な磁場を作れる。磁場の一様性を調べよ(このよう なコイルをヘルムホルツ・コイルとよぶ)



問題のコイルの1個が軸上に作る磁場$ B$は、対称性により、軸上磁場は軸の方 向に向いているはずである。その様子を図6 の左の絵で示す。このコイルの小さい電流要素$ \delta I$が作る磁場は、ビオ- サバールの法則

$\displaystyle \delta\boldsymbol{B}=\frac{\mu_0}{4\pi} \frac{\delta\boldsymbol{I...
...ol{r}-\boldsymbol{r}^\prime)}{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime\vert^3}$ (15)

から計算できる。これから、その磁場は図6 の右の絵のようになる。軸上の磁場 $ \boldsymbol{B}$は、微小電流 $ \delta\boldsymbol{I}$がつくる微小 磁場 $ \delta\boldsymbol{B}$をコイルの一周にわたって、足し合わせれば良い。

図から分かるように、微小磁場 $ \delta\boldsymbol{B}$は軸の垂直成分もある。しかし、 これは、コイル1週にわたって足し合わせると、ゼロになる。コイル1周にわたっ て合計すると、残るのは軸上の成分のみである。コイルの軸上の成分は、

$\displaystyle \delta B_z$ $\displaystyle =\frac{\mu_0}{4\pi} \frac{\delta\boldsymbol{I}\times(\boldsymbol{...
...e)}{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime\vert^3} \cdot\hat{\boldsymbol{z}}$    
      $ \hat{\boldsymbol{z}}$は、軸方向の単位ベクトル    
      $ \delta\boldsymbol{I}$ $ \boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime$は直交しているので    
  $\displaystyle =\frac{\mu_0}{4\pi} \frac{\delta I\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime\vert}{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime\vert^3}\cos\alpha$    
  $\displaystyle =\frac{\mu_0}{4\pi} \frac{\delta I}{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime\vert^2}\cos\alpha$    
  $\displaystyle =\frac{\mu_0}{4\pi} \frac{\delta I}{z^2+a^2}\frac{a}{\sqrt{z^2+a^2}}$    
  $\displaystyle =\frac{\mu_0}{4\pi} \frac{a\delta I}{(z^2+a^2)^{3/2}}$ (16)

となる。これをコイルの全ての電流で積分することになるが、 $ \delta
I=a\delta\theta$を利用すると計算が楽である。磁場は

\begin{equation*}\begin{aligned}B_z &=\int_0^{2\pi}\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{a^2Id...
...2}} &=\frac{\mu_0}{2}\frac{a^2I}{(z^2+a^2)^{3/2}} \end{aligned}\end{equation*}

となる。これで準備ができた。あとは、ヘルムホルツコイルになるように、座 標を設定するだけである。
図 6: コイルが作る磁場
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/OneTurn_coil.eps}

ヘルムホルツコイルは、図7のような構成になって いる。この2つのコイルの中心を$ z=0$とする。この場合、左右のそれぞれのコ イルが作る磁場は、式(17)を用いると、

$\displaystyle B_z^{left}(z)$ $\displaystyle =\frac{\mu_0}{2}\frac{a^2I}{[(z+\frac{a}{2})^2+a^2]^{3/2}}$ 左のコイル (18)
$\displaystyle B_z^{right}(z)$ $\displaystyle =\frac{\mu_0}{2}\frac{a^2I}{[(z-\frac{a}{2})^2+a^2]^{3/2}}$ 右のコイル (19)

と計算できる。$ z$座標をシフトさせただけである。それぞれのコイルが作る 磁場とそれを合計ヘルムホルツコイルの磁場を図8 に示す。ヘルムホルツコイルの磁場は、中心付近でかなり一様性が良いことが 分かる。これがヘルムホルツコイルの特徴である。

次に$ z=0$付近の磁場の一様性を調べる。そのために、それぞれのコイルが作 る磁場について、$ z=0$の周りでテイラー展開する。展開の結果は

$\displaystyle B_z^{left}(z)$ $\displaystyle =\frac{\mu_0a^2I}{2}\left[ \frac{8}{5\sqrt{5}a^3} -\frac{48}{25\s...
...frac{1152}{625\sqrt{5}a^7}z^4 -\frac{5376}{15625\sqrt{5}a^8}z^5 +O(z^6) \right]$ (20)
$\displaystyle %
B_z^{right}(z)$ $\displaystyle =\frac{\mu_0a^2I}{2}\left[ \frac{8}{5\sqrt{5}a^3} +\frac{48}{25\s...
...frac{1152}{625\sqrt{5}a^7}z^4 +\frac{5376}{15625\sqrt{5}a^8}z^5 +O(z^6) \right]$ (21)

となる。これから、これら2つのコイルの和であるヘルムホルツコイルの磁場 は

$\displaystyle B_z(z)$ $\displaystyle =\frac{\mu_0a^2I}{2}\left[ \frac{16}{5\sqrt{5}a^3} -\frac{2304}{625\sqrt{5}a^7}z^4 +O(z^6) \right]$ (22)

となる。要するに、ヘルムホルツコイルの中心付近では、 と言うことである。このことから、ヘルムホルツコイルの中心付近の磁場は、4次 の成分まで一様である。
図 7: ヘルムホルツコイルの構成。図8で は、$ a=0.5$で計算。
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/HelmHoltz_coil.eps}
図 8: ヘルムホルツコイルの各々コイルの磁場と、それを合成した磁場。
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/Field_HelmHoltz_coil.eps}

ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成16年12月28日


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