それに対して、変位や速度、加速度、力、運動量などは大きさだけでは表すことができな い。大きさに加えて、その方向を示して、はじめて完全に表現できる。このように大きさ と方向を持つ量をベクトル量という。位置ベクトルというものも、原点を決めてそこから の変位を表している。位置を表す量もベクトルである。
ベクトル量は便宜的に、一本の矢で表すことができる。矢の長さがその大きさを示し、先 端の向きで方向を表す。例えば、図1の のようにである。 ベクトルの大きさは と表現して、図では矢の長さで示す。通常絶対値と言うも のは、原点からの距離を示す(複素数の場合でも)ので、ここで同じ記号が用いられるの ももっともである。当然、これはスカラー量である。ベクトルをその大きさで割った量は、ベクトル で と表現され、これは大きさが1の単位ベクトルとなる。単位ベクトル の大きさが1になることは、各自確かめよ。また、大きさがゼロのベクトルも存在して、 それはゼロベクトルと呼ばれ と書かれる。
一般にベクトル量は のようにボールド書体で、スカラー量はのようにノーマ ル書体で書かれる。今後、この授業ではこのように表現してする。