の
個の任意のデータ点を通過する関数を考える.全てのデータ点を通る関数は,
次関数で記述できる.データ点が2つならば1次関数,3つならば2次関数のようにで
ある.諸君は,これまでの学習で2点から直線を,3点から2次関数を決めたりしているだ
ろう.図
1のように勝手に決めた10個の点から,9次関数を決めることもで
きる.なぜならば,
次関数
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(6) |
には
個の係数があり,それらの係数は
個の点により一意に決定できるからである.
前節では,どんな任意のデータでも冪乗の関数で表現できることを示した.データの数が
非常に多くなって,無限までになったらどうなるだろうか?.データの数が無限というの
は,データが連続するもの,すなわち関数と考えることができる.例えば,三角関数は無限
個の
のデータの集まりである.このようなデータに対しての先ほどの問いかけに
ついて,私は答えられない.しかし,直観あるいはコンピューターの助けを借りて,厳密
ではないにしても,実用上問題ない結果を得ることができる.
もし,ある関数が無限個のデータの集まりと考え,
と表すことができるとしよう.
は三角関数であったり,指数関数,あるいは対数関
数である.この式の左辺は,冪級数と呼ぶ.この式は,任意の関数を冪球数に展開して
いるのである.証明は数学の時間に任せるとして,任意の関数はこのように冪級数に展開
できる.
任意の関数が式(7)のように冪級数に展開できるならば,そ
の係数をどうやって決めるのか?--という問題がのこる.有限個の場合のように,
連立方程式から係数を計算することはできない.無限次元の連立方程式など
解けないからである.そこで,連続な関数という性質を使う.元の式(7),お
よびその両辺を繰り返し微分すると次の式が得られる.
これらの式で
とすると,右辺第2項より高次の項は全てゼロとなる.これを利用して,
式(
7)の展開係数は
と得られる.
とすると,最後の式である
が
を含めて一般的
に成り立つ.式(
7)を合わせて,
となる.これで,任意の関数を冪級数で展開する方法が分かった
2.このようにある関数を
冪球数で展開する方法をテイラー展開と言う.
式(14)は,不思議な式である.一般に,左辺の関数の定義域は
と広い.それに対して,右辺の冪級数はの値のみできまる.無
限にひろがる関数がのときの性質で決まる--という不思議なことになっている.
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まとめ(テイラー展開)
- 任意の関数は,冪級数に展開--テイラー展開--できる.
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先の説明では,どんな関数でも冪球数に展開できると言った.そこで,三角関数と指数関
数をテイラー展開
3してみよう.
式(14)のをとすると,
がえられる.いままで,三角関数は幾何学的な意味で使われてきた.幾何学的に考えた三
角関数の場合,任意の
での
の計算は大変難しい.それに対して,式
(
15)の右辺には幾何学的な意味はなく,解析的である.したがって,
どんな
に対しても
の計算が可能である.これは,まことに便利と言わざるを
得ない.
でも,本当かなー--という疑問が湧く者もいるだろう.正直,私も信じられない.この
ような時,私はコンピューターを使って確かめることが多い.式(15)
の右辺を
まで,展開の項数を変化さて
計算してみた.その結果を図2に示す.展開の項数が増加するごとにを正確に表していることが分かるであろう.これで,テイラー展開は正しいと信じた.
同じことをで行うと,次の結果が得られる.
指数関数もテイラー展開できる.
これらの三角関数と指数関数のテイラー展開の式から,それぞれの関数の値を解析的に計
算ができるようになる.いままで,三角関数は幾何学的に,指数関数は乗算の延長??のよ
うに定義されていた.このような定義では,解析に値を計算することに困難をきたす.そ
れに代わり,このテイラー展開の式がそれぞれの関数の定義と考えると,計算が格段に簡
単になる.このように定義しても,いままで使ってきた三角関数や指数関数の性質は失わ
れない4.そこで,
これからは三角関数と指数関数の定義として,テイラー展開の結果を使う.
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まとめ(三角関数と指数関数テイラー展開)
- 三角関数と指数関数は,次のようにテイラー展開できる.
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図:
のテイラー展開.図中の整数は展開の次数を示す.
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三角関数と指数関数のテイラー展開の式(
15)と(
16),
(
17)はよく似ている.若干異なるが,虚数単位
を使うとさらに似て
くる.かなり便宜的に思えるが,次のように書くことができる.
ますます,三角関数と指数関数が似てきた.これらより,
が得られる.これが,
オイラーの公式と呼ばれるものである.虚数を介して,三角
関数と指数関数がこんなにも簡単な式で結ばれているのである.これは便宜的に記述した
だけの式に見えるが,科学技術の問題を考えるときに極めて有用である.これを使うとや
やこしい計算をすること無く,様々な問題が解ける.諸君はできるだけオイラーの公式を
利用せよ.
オイラーの公式から,
と書くこともできる.
もともと,三角関数は幾何学的に定義された.それに対して,指数関数は解析的に定
義された.そして,虚数は方程式を解くために導入された.これら,勝手に定義されたも
のが,こんな単純な式で関係づけられるのは驚きである.
オイラーの公式を使うと,この節で示すように三角関数に関する公式が簡単に得られる.
この単純な方法を憶えておくと,後々,便利である.これだけでもオイラーの公式の御利
益が分かるだろう.
を使うと,三角関数の加法定理が得られ
る.オイラーの公式を使うと,指数関数の
は,
となる.両辺が等しいということは,実部と虚部が等しいということである.したがって,
が得られる.これは,三角関数の加法定理そのものである.
を使うと,2倍角や3倍角
の公式を得ることがで
きる.例えば,
とするとこの指数関数は,
となる.これもまた,実数部と虚数部の各々が等しいので,
を得る.これは倍角の公式である.同様の手順で,
と
3倍角の公式
が簡単に得られる.
式(
24)を使っても簡単に求められる.式
(
19)から計算することもできる.
同じことをすれば,余弦に関する公式
も得られる.
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(33) |
加法定理を上手に使えば,三角関数の和を積に変換する公式は得られる.次のようにして
計算することもできる.
積を和に変換する残りの公式
も同様に導くことができる.良い練習問題なので,諸君は自力で導いてみよ.
これは,ちょっと変わっていて,次のようにする.
ところで,この式の右辺は,次のように書くこともできる.
もちろん,式(
38)と(
39)の両式の右辺は等しい.したがっ
て,各々の実数部と虚数部が等しくなり,
が得られる.これは,三角関数の和を積に直す公式である.同様にして,
を
計算すると,もう一組の公式
が得られる.
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Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年10月27日