微分方程式は,物理や工学の分野で問題を解く強力なツールばかりか,生物や経済などで
も広く応用されている.自然科学や工学の問題を定量的に考察する場合,微分方程式ほど
強力な道具はない.この微分方程式を使うためには,方程式をる作ことと解くことが必要
である.ここでは,微分方程式を解くこと,特に数値計算により非常に精度の良い近似値
を求める方法を学習する.微分方程式には解析解が無いのが普通であるが,理工学上の諸
問題では精度良く解の近似値を求めたい状況にしばしば遭遇する.このような時,数値計
算の出番となる.数学に無い面白さがありますので,楽しんでください.
すでに学習したように,独立変数が二つ以上の多変数の関数の微分(偏微分)を含む微分方
程式を偏微分方程式(partial differential equation)という.それに対して,一変数の
関数の微分を含む方程式を常微分方程式(ordinary differential equation)という.ここ
では,常微分方程式,特に1 階の場合の解の近似値を求める方法を学習する.学習する方
程式の形は
である.1階だといってバカにはできない.後で述べることになるが,これが数値計算
できると,どんな高階の常微分方程式も同じ方法で計算ができるのである.数学だと1 解
が解ければ高階の微分方程式が解けるわけではないが,数値計算では可能なのである.
ここでの主題は,この微分方程式を満たすを求めることになる.計算を進める前に,
この方程式が何を表すか考えることにする.式(1) の左辺は,解
の導関数となっている.即ち,解の曲線の接線を表す.導関数の値が座標
の関数になっているので,座標が決まれば,その場の曲線の傾きが決きまることになる.
それでは,この常微分微分方程式のイメージをつかむことにする.それには,実際
の微分方程式を考えるのが良いであろう.例えば,
のような常微分方程式を考えることにする.いかにも難しげな微分方程式であるが,これ
には解析解がある.解析解はとりあえずおいておくことにして,この式の右辺を考える.
先ほど述べたように,これは接線の傾きを表す.場所ごとに接線の傾きが決まっているの
で,それを
平面に図示することができる.式(
2)の右辺の
値である各座標の傾きを線の傾きで表すと,図
1のようになる.
この傾きを方向場と言う.方向場から,大体の解の様子がわかる.
この微分方程式の解析解は,
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(3) |
である.1階の微分方程式なので,1個の未知数を含む.この未知数の値が異なる5本の曲
線と,先ほどの方向場を重ねて書きすると,図
2のようになる.微分方
程式の解である曲線
が方向場に沿うことが理解できるであろう.元の微分方程式が
傾きを表すので,あたりまえのことである.
式(2)の微分方程式から,関数の値を得るにはもう一つ条件が必
要である.通常この条件は,
のように与えられる.これを初期値といい,初
期値が与えられるものを初期値問題という.一方,2 点以上のxで定めるyの値が決まって
いるような問題を境界値問題という2.ここでは,もっぱら初期値問題
を解くことにする.
図:
微分方程式
の方向場
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初期値問題を計算するルーチンの基礎的な考え方はどれも似通っており,次に述べるとお
りである.まず,(
1)式の微分方程式を極限の
の代わりに有
限な
に置き換える.
が小さければ,元の微分方程式の良い近似になる
はずである.すると,式(
1)の微分方程式は,
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(4) |
のように近似できる.これを用いて,
から
離れた
の値
を計
算する.
この式と初期値
を用いると,次々に
が計算できる.
式(5)は,
- 次の値は,もとのに,そこでの傾き
にの増分を乗じたものを加えることにより求められる.
と言っているのである.イメージにすると,図
3のようになる.
この図からも分かるようにこの方法をそのまま適用した場合(オイラー法),精度がよくな
い.出発点のみの導関数を用いているため,終点付近では傾きが異なるからである.刻み
巾
を小さくすることにより解決できるが,その分,計算時間が必要になる.そ
のため,
と
の間で,出来るだけ精度よく,この間の導関数の平均を計算する工
夫がいろいろ考えられている.これから,以降その方法を示すことになる.
図 3:
方向場と微分方程式の解
と
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Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年9月5日