このあたりの話の種本は,「ファインマン物理学 I 力学」 []である.
ひとつのものにある操作をしたとき,もとと同一に見えるならば,そのものは対称である という.例えば左右対称な花瓶があるとき,それを鉛直軸のまわりに180°まわすと,ま えと同じように見える.と言っている [1].電磁気学を含んだ物理の基本法則が,平 行移動や回転に対して対称であることは,直感的に理解できる.それは,我々が住んでい る世界には座標をきめる特別な原点はないということと,座標軸を決める特別な軸がない ことからも分かる.このことを,「空間は等方である」という.本当に,そうなのか?. 特別な原点や特別な軸を示す現象を捜してみよう.見付からないはずである.
これから,原点はどこでも良いことを示そう.A君とA君がある質点の運動を異 なる原点を使って観測したとする.A君の座標を,A君の座標を とする.それぞれは,
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質点にかかる力は,A君から見てもA君ら見ても同じである.そして,力の各方向の成分は,全ての力に力の軸と座標の軸との方向余弦( )をかけたものである.これと両者の座標軸の方向が一致しているとことから,
次に,式1の加速度を考える.A君の座標系での加速度は,
原点の距離は一定なので | ||
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式(4)と(6)より,A君の座標で運動方程式(1)が成り立てば,A君でも同じような運動方程式(3)が成り立つ.これは,運動方程式は,座標の原点とは関係なく成り立つことを言っている.座標の原点はどこをとってもよいのである.
対称性を調べるために,座標の変換と力の変換の仕方を考えなくてはならない.まずは, 座標の変換であるが,これは簡単である.図1から明らかに,これら 2つの座標系は
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残りは,座標が回転した場合,力の変化の様子を調べることにする.ただちに分かることは,A君とA君が見る力のz方向成分は,
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式(7)と式 (8)のそれぞれの左辺のの加速度の変換の式は式 (11)に示している.それぞれの左辺,すなわち力の関係は,式 (17)のとおりである.これらの式(11)や式 (17)は,座標変換にともなう加速度や力の変換仕方を表している のである.これらの式から,座標の回転によって,加速度の成分--座標の成分--と力の 成分が,同一の行列によって変換されることがわかる.同じ変換を受けるということであ る.ということは,式(7)が成立すれば,式 (8)が成り立つと言っている.これらの式--ニュート ンの運動方程式--の形は同一である.したがって,ニュートンの運動方程式は座標の回 転に対して,対称である.これは,座標軸を勝手にとっても,ニュートンの運動方程式は 成立すると言っている.これは,重要な事実である.
ここでは, 軸を中心に回転させたが, 軸でも 軸でも同じように対称と なる. 軸を中心に回転させて, 軸を中心に回転させるように回転を2回施し ても,同じように対称なるはずである.回転を2回施すことは,任意の方向を軸として, 回転を1回施す作用と同じである.したがって,任意の方向を軸にして,回転させても, ニュートンの運動方程式は対称となる.ニュートンの運動方程式は,回転に対して,対称 となっている.
これまで,示してきた加速度や力は,ベクトルの例である.これは,ある空間に固定され た一本の矢のように考えることができる.それは方向と大きさを持っている.それは,座 標系に関係なく存在している.この幾何学的な形をもつ1本の矢がどのように変化するの か考えるのが物理学である.だからこそ,平行移動や回転に対して,方程式の形が変わら なかったのである.
実際に問題を解く場合,適当に座標の原点と軸を決めて,基本方程式を解くことにな る.この場合,のように3つの数値が必要となる.この3つの数値の組をひとつ の記号 で表すことにする.これをベクトルと言う.また,回転と平行移動を施し た別の座標系を使うと のように異なる組の数値が必要となる.この場合も同じ, 記号 を使う.座標系により,成分は異なるが同じ記号を使うことになる. 許されるのは,
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ベクトルの成分がどのような性質があるかは,最後に述べる.