エネルギーは,「力
距離」とよく表現される.例えば,重力場に質量
の物体
があり,それを垂直に
だけ手で移動させたとする.実際には,物体は鉛直方向
に重力により引っ張られており,その力は
である.その力に抗して,手はそれ
と同じ大きさで反対方向に力
を加え,物体を
引き上げたことになる.こ
の場合,この物体の位置エネルギー(ポテンシャル)の増加
は,
となるのは力学で学習したとおりである.
今度は,先ほどと同じ距離で,物体を真横に移動させたとする.この場合,位置エネルギー
の変化はゼロである.また,斜めに移動させた場合は,
となる.これは,高さの変化分が,位置エネルギーの変化になるからであ
る.手の力の方向は,この3とおりの場合まったく同じで,垂直方向である.この垂直方
向の力と移動方向との角度をとすると,3通りとも同じ式
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(1) |
でエネルギーの変化をあらわすことができる.
ちょっと余談であるが,これまで,3通りの方法で物体を移動させた.図を見て分かるよ
うに,物体を移動させるとき手にかかる力は同じである.同じ力なのに,移動方向が違う
のである.厳密に考えると,移動が始まる瞬間に加速度が生じその力が本当は必要なので
あるが,ここでは無視している.ゆっくり,本当にゆっくり移動させたことを考えるので
ある.もう少し思考実験を進めると,手と物体との間にばね秤をつけると,力の様子が分
かる.本当にゆっくり動かせば,3通りの移動ともばね秤が示す重さはで力が同じであ
ることが分かるであろう.
話は元に戻るが,力と物体の移動量はベクトル量なので
と書
いたほうが格好良い2.そうすると,位置エネルギーの変化
は,
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(2) |
となる.この式の右辺が内積(スカラー積)の演算である.
前回の講義で示したように,z軸を中心として回転させた場合,座標の変換は次のようになる.
ベクトル量の各軸の成分も座標の回転により変化する.その変化は,座標の変換と同じである.
ここで,スカラー量というものを定義する.それは,座標軸を変えても,変化しない量とする.例えば,原点からの距離
を考える.直感的にこれは座標軸を変えても変化しないと分かる.座標変換の式を使い,ちゃんと計算してみる.距離は平方根の計算が含まれて厄介なので,その2乗
を計算する.式(3)から,
となる.これから,距離の2乗
は座標系を回転させても変化しない量であることがわかる.このような量がスカラー量である.同じように,式(
4)から,ベクトルの大きさもスカラー量であることが分かる.すなわち
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(7) |
である.
ベクトルの大きさの計算と全く同じようにして,ベクトル
と
の積,
もスカラー量となる.この演算は,座標系を回転させても,同じ値となる.この証明は課
題とする.これは,スカラー積(内積)と呼ばれる演算である.次に,最初のエネルギーの
話のときできてきたコサインを使った演算と,この内積が等しいことを示す.すなわち
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(9) |
を証明したい.ここで,
はベクトル
と
の間の角度である.これ
を証明するために,座標を回転させる.左辺はスカラー量であるため,座標系を回転させ
ても値は変わらない.座標回転後の新しい
軸を
の方向にする.する
と,ベクトル
と
軸の間の角度は
となる.
と
軸との角度を
とすると,新たな座標系でのベクトルの成分は,
となる.
はそれぞれの軸との方向余弦である.従って,内積の
定義より,
となる.これを内積の第二の定義と考えることができる.実際には,式(
8)と
式(
12)の簡単な方を使えば良い.また,スカラー積の定義から,
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(13) |
であることが直ちに分かる.この演算では交換法則が成り立っている.
本日,最初に示した位置エネルギーの変化
は
内積の演算になっていることが分かる.
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(14) |
そして,これはスカラー量となる.エネルギーはスカラー量なので当然の結果である.
最後に
軸の単位ベクトル
の内積の演算を示しておく.
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Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年5月26日