時は1815年のことである.その2月,ナポレオンはエルバ島から脱出し,再び皇帝になっ た.6月,ナポレオンは12万の兵を率いて連合軍に戦いを挑むべくベルギーへ向かった. 7万の兵はナポレオンが率いてブリュッセルを目指した.その途中,ワーテルローで6万 8,000のウェリントン公率いるイギリス・オランダ連合軍と対峙した.激戦の後,ナポレ オンは敗退し,いわゆる百日天下が終わった.
この戦いには多くの人が注視していた.ロンドンの投資家もそのひとつである.イギリス が勝てば,国債があがりボロもうけをするが,負ければ国債は紙くず同然となる.従って, イギリスが勝てば国債は「買い」だし,負ければ「売り」である.問題は,誰よりも早く その「売り」と「買い」を決めなくてはならい.遅ければ,一文無しになってしまう可能 性がある.
この相場を勝つためには,誰よりも早く,このワーテルローの戦いの結果を手に入れる必 要がある.ロンドンでもっとも迅速な情報網を持っていたのは,ロスチャイルド家三男ネ イサンである.多くの投資家は,ネイサンの動向を注目した.ネイサンは「売り」を出し た.それを見た他の投資家は,ナポレオンが勝ったと思い,一斉に「売り」にはしり,国 債は暴落した.それを見たネイサンは,一気に「買い」にはしり,ただ同然で大量の国債 を手に入れた.翌日,ナポレオンの敗北が報じられると国債は一気に上昇し,ネイサンは 巨万の富を得たのである.
この勝負は,正確な情報をいち早く得たネイサン・ロスチャイルドの一人勝ちであった. ビジネスの世界では,正確な情報を誰よりも早く手に入れることが重要である.
当時,ロスチャイルド家はヨーロッパ全体に情報網を持っていた.通信手段は,人(馬),伝 書鳩,高速船などである.また,ヨーロッパの主要都市,フランクフルト,ウィーン,ナポリ,パリ, ロンドンにロスチャイルド家の兄弟が散らばり,情報を交換していた.
そのローマ字を盗み見すると,トウモロコシだったか小麦だったかは忘れたが,それの作 況の報告書であった.現地の駐在員が日本に,作物の収穫量の見積もりを送っていたので ある.日本では,その報告書を見て,作物の買い付けを行う.最終的な収穫量が 分かる前に,買い付けを終えて,有利にビジネスを進める必要があるため,その報告書は 大事な情報となる.
私が大変驚いたのは,その報告書の内容である.分析が非常に細かく,農場毎の作況と収 穫量の予想が書かれていた.農場毎に作物のでき具合を調べていたのである.地方毎ではなく農場 毎に調べていたのには心底びっくりした.商社の情報網のすごさを初めて垣間見た.これを見た瞬間,素 人の先物取引では勝負にならないと,確信した.