先に示したように,ベクトルは成分で表すことができる.3次元空間であれば,軸と 軸,そして軸に平行な成分のようにである.最初に述べたように,空間には特別な軸とい うものはなく,等方的である.従って,ベクトルで表される自然現象は軸の 選び方によって,変化してはならない.ベクトルの成分は軸の選び方によって 変わってしまうが,ベクトルそのものは変わってはならない.そのためには,軸を変えた 場合,それに応じてベクトルの成分が変わらなくてはならない.要するに,軸を変えても 変化しない量がベクトルなのである.「方向と大きさを持つ量」よりも,「軸を変えても 変化しない量」とする方がベクトルの定義としてふさわしい.それでは,軸を変えても変 化しない量とはどのようにして分かるのだろうか?.これは,「軸を変えた場合,ベクト ルの成分はどのように変化する必要がある」と言い換えることができる.
空間に浮かんでいる矢がベクトルと想像して欲しい.その矢の成分が軸を変えるとどうな るか考える.軸の変えると言うことは
一方,座標の回転に対してベクトルの成分の振る舞いは,座標変換を考えればよい.3次 元の計算と図示は大変なので,2次元で考えることにする.例えば,図 12のような変位ベクトルを考える.成分は,当然座標軸への射影 であることを忘れてはならない.座標から 座標へ回転させる. 座標軸を回転させても,ベクトルは変化しない.図の矢が変わっていないので,そうであ る.ただし,ベクトルの成分は変化する.この成分の変化は,
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これは,一つの物理的な法則がベクトルの方程式で表せたとすると,その式の関係は座標 系を回転させても変わらないことを意味している.もっとはっきり言うならば,その法則 は,座標系に依存していないと言えるのである.だからこそ,ベクトルを用いた表現は有用なので ある.そう,物理おけるベクトル量は単なる幾何学の対象である.
ベクトルを矢で書くと,座標の変換によって,それが変わらないことは分かるが,計算は 面倒である.一方,成分で表すと,計算は簡単であるが,座標変換による成分の変化をよ く見ないといけない.ベクトルだと思っているものが,ベクトルでない場合があるのであ る.