ほとんどの物理法則は,1階あるいは2階の微分方程式で書かれる.3階の微分方程式な
んかお目にかかったことはないし,5階や23階とかも無い.実に不思議なことである.こ
こでは,ベクトル演算子を使ったスカラー場とベクトル場の2階微分を考える.
ベクトル演算子を使った1階微分は先ほど示したとおりである.2階微分もしばしば現れる
ので,それを示しておく.先程述べたようにベクトル演算子も,ベクトルと同じように振
る舞う.そこで,ベクトルに関する式を先に示しておいた方が良いだろう.
![$ \boldsymbol{A}$](img78.png)
と
![$ \boldsymbol{B}$](img79.png)
をベクトルとして,重要なベクトル恒等式は,
である.これらの証明は,各自ベクトル解析の教科書を見よ.
スカラー場を
![$ \phi$](img84.png)
ベクトル場を
![$ \boldsymbol{h}$](img85.png)
とした場合,ベクトル演算子を使った2階微
分の可能な組み合わせは,次の通りである.
これら,全ての組み合わせについて,どうなるか考えよう.
まずは,通常のベクトルの演算で0になるものを探し,その関係を利用して式
(23)〜(27)の演算で0になるものを類推する.以下の
ベクトルの演算が0になることは直ちに分かる.
|
式(19)![$\displaystyle より$](img92.png) |
(28) |
|
式(20)そのもの |
(29) |
これらの関係から,
![$ \boldsymbol{A}$](img94.png)
を
![$ \nabla$](img95.png)
,
![$ \boldsymbol{B}$](img96.png)
を
![$ \boldsymbol{h}$](img97.png)
とすると
|
![$\displaystyle \nabla\times(\nabla \phi)=0$](img98.png) |
(30) |
|
![$\displaystyle \nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{h})=0$](img99.png) |
(31) |
と類推できる.類推ではあるが,これは正しい式である.学生諸君は,成分を計算してこ
れが成立することを確認すること.
次にベクトル公式
を用いた場合を考える.
![$ \boldsymbol{A}$](img101.png)
と
![$ \boldsymbol{B}$](img102.png)
を
![$ \nabla$](img103.png)
で置き換え,
![$ \boldsymbol{C}$](img104.png)
を
![$ \boldsymbol{h}$](img105.png)
とすると,
となる.右辺第2項の
![$ \boldsymbol{h}(\nabla\cdot\nabla)$](img107.png)
が変である.この困難を避
けるために,少し技巧的であるが,式(
32)を
![$\displaystyle \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}) =\boldsy...
...symbol{A}\cdot\boldsymbol{C})-(\boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B})\boldsymbol{C}$](img108.png) |
(34) |
とすればよい.右辺第2項は,ベクトル
![$ \boldsymbol{C}$](img109.png)
とスカラー
![$ \boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B}$](img110.png)
との積であるため,演算の順序を入れ替えても良い.こ
うすると,式(
33)は
となり,正しそうである.事実,これは正しい式である.成分ごとに,きちん
と微分を行えば分かる.
以上で,最初に示した2階の微分のうち,式(24)と
(26),(27)の公式を導いた.残りは,特に興
味のあるものは無い.そこで,以上の結果をまとめると
となる.
ここで,
という演算子が現れている.これは,ラプラス演算子と言われるも
ので,いろいろな場面で活躍する.これについては,後でのべる.
これまでの話をまとめると,ベクトル演算子
は通常のベクトルの演算
規則が成り立ち,便利である.諸君は,これを上手に使えばよい.もし,その
公式が気になるようであれば,成分に分けて,こつこつと微分をしてみれば良
い.
先ほど,ベクトル演算子
![$ \nabla$](img119.png)
は通常のベクトル演算と同様に扱えると述べ
たが,注意が必要である.例えば,通常のベクトル公式
![$\displaystyle (\boldsymbol{A}\psi)\times(\boldsymbol{A}\phi)=0$](img120.png) |
(41) |
である.
もし,
![$ \boldsymbol{A}$](img121.png)
を
![$ \nabla$](img122.png)
と置き換えると
?????? |
(42) |
となる.ベクトル
![$ \nabla\psi$](img124.png)
の方向は
![$ \psi$](img125.png)
に関係するし,
![$ \nabla\phi$](img126.png)
も
同様である.したがって,0になるのは特殊な場合である.
これは,次のように考える.最初の
は
に作用し,つぎのものは
に作用する.したがって,同じ
でも異なるベクトルと考える.
だからと言って,
が成り立たないというわけでは
ない.この場合,2つの
は同じ
に作用する.
ベクトル演算子
を
としてスカラー積やベクトル積を計算して,勾配や発散,回
転を計算できるのは,カーテシアン座標系のみである.ほかの座標系になると,かなり複
雑になる.詳細は,私のwebページに載せている.
http://www.akita-nct.jp/ yamamoto/study/electromagnetics/coodinate_transform/html/coodinate_trans.html
を参考にせよ.
ホームページ:
Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年5月9日