3 電磁気学の基本法則

古典物理学の2つの柱は,ニュートン力学と電磁気学である.いずれもベクトルをつかっ た微分方程式が書かれることが多く,ニュートン力学では

$\displaystyle \boldsymbol{F}$ $\displaystyle =\frac{d\boldsymbol{p}}{dt}$ (1)
     ここで, $ \boldsymbol{p}=m\frac{d\boldsymbol{r}}{dt}$$ m$が一定とすると    
  $\displaystyle =m\frac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2}$ (2)

となる.これが Newtonの運動の第2法則(Newton's Second Law of Motion)である.通常 はこれを積分して,運動を求めることになる2

これに対して,電磁気学の法則は,

\begin{equation*}\begin{aligned}&\div\boldsymbol{D}=\rho &\qquad &\div\boldsymbo...
...{\partial^{1} \boldsymbol{B}}{\partial t^{1}}\fi =0 \end{aligned}\end{equation*}

と書かれる4組の連立の微分方程式である.これをマクスウェルの方程式(Maxwell equations)という.ここで,
記号 物理量 単位 スカラー/ベクトル
$ \boldsymbol{D}$ 電束密度 [ $ \mathrm{C/m^2}$] ベクトル 
$ \boldsymbol{B}$ 磁束密度 [T]あるは[ $ \mathrm{Wb/m^2}$] ベクトル
$ \boldsymbol{H}$ 磁場(の強さ) [ $ \mathrm{A/m}$] ベクトル
$ \boldsymbol{E}$ 電場(の強さ) [ $ \mathrm{V/m}$] ベクトル
$ \rho$ 電荷密度 [ $ \mathrm{C/m^3}$] スカラー
$ \boldsymbol{j}$ 電流密度 [ $ \mathrm{A}/\mathrm{m^2}$] ベクトル

である.こんなものはまだ理解する必要はない.この授業の最後で理解すべきものとなる. ただ,基本方程式というものがあることは分かって欲しい.

力学では,基本方程式が与えられてから,それを問題に適用することを学習する.それに 対して,ここでの電磁気学では,最後の方に基本方程式を導くことになる.力学の基本方 程式は,直感的にある程度理解できるので,最初に基本法則を教えるとが可能である.一 方,不幸なことに,電磁気学の基本式(3) は複雑で,直感的に理解 することは不可能である.そのため,基本式にたどり着く前に,いろいろと修行する方法 がとられる.

話は変わるが,電気回路のもっとも基本的な法則であるオームの法則やキルヒホッフの法 則もこのマクスウェルの方程式から,ある近似をして導くことができる.電気回路といえ ども電磁気的な現象なので,マクスウェルの方程式から計算できるのである.ただ,計算 が大変なので,近似であるオームの法則を使う.通常であれば,それで十分な精度を得る ことができる.流体力学でも,似たような話がある.分子の衝突の計算をしないで,流体 の方程式を計算するのと同じ状況にある.

おもしろいことに,回路の動作が高速になるとオームの法則ではだめな場合が生じている. 高速のCPUの設計にオームの法則ではなく,マクスウェルの方程式が使われることがある.


ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年7月12日


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