北方領土問題

ここで,あえて正論を言おう.

第二世界大戦の主な連合国と枢軸国の死者数は,表1のとおりである.北方領土問題で,ロシア国民の感情を考えると,ソビエト連邦の死者数を頭に入れておかなくてはならない.先の大戦でソビエトでは軍人と民間人を合わせて2000 — 3000万人が死んだ.これは,人口の 11.2 — 16.1% である.その一方,日本の死者数は人口の 3.7 — 4.4% である.この戦争に,ソビエト国民はとても大きな犠牲を払ったことが分かる.ソビエト,今のロシアもそうだが,国民は大きな犠牲を払って国を守ったという誇りとともに,死者を弔っている.「大祖国戦争」と呼ぶのもうなづける.どう贔屓目に見ても,日本は第二次世界大戦を「大祖国戦争」とは呼べないのである.

もちろん,ソビエトの犠牲はドイツとの戦いによるもので,日本との戦いでの犠牲者は微々たるものである.しかし,当時の日本は,ドイツとともに枢軸国を形成しており敵であることには変わりがない.日本はドイツの尻馬に乗って戦争に突入した経緯もあり,ソビエトから見るとドイツの影に隠れて分け前を頂く小賢しい奴に見えるかもしれない.

第二次大戦の連合国の死者数 (World War II casualties).アメリカとフランス,イギリスの人口には植民地も含まれる.民間人の戦死者には,軍事活動による直接の死者の他に,人道に対する罪や戦争がもたらした飢饉,病気よる死者も含まれる.
国名 当時の人口 戦死者数
[万人] 軍人 [万人] 民間人 [万人]
ソビエト連邦 1,8879 866 — 1140 1250 — 1900
中国 5,1756 300 — 375 1235 — 1819
アメリカ 1,3102 40 1
フランス 4168 21 39
イギリス 4776 38 6
ドイツ 6930 444 — 531 150 — 300
日本 7138 210 — 230 55 — 80
イタリア 4439 31 — 34 15

このように大きな犠牲を払って守った国(国土)はとても大事にしなくてはならない — とロシア国民は考えるだろう.北方領土は犠牲を払って守ったものではないが,その戦争の犠牲と引き換えに得たものである.国民感情を考えると,ロシア政府は簡単に北方領土を返還することはできないだろう.

日本国民からすると,終戦間近の侵攻からその後のシベリア抑留,北方領土の強奪など,ソビエトに関しては良い印象が無い.終戦のドサクサにまみれて奪いとったものを返せ — という主張は正当であろう.

このように,双方の国民はどちらも正当な主張をしている — と私は考える.現実的には,北方領土はロシアが支配している.この領土返還を求めるならば,ロシアの主張を聞く必要が有るだろう.交渉の席では,日本政府はロシア国民の感情を理解し,日本側の謝罪や譲歩が必要ではないかと思う.「何に対して謝罪するのか?」という意見に対して,「先の大戦で,(枢軸国側にたち)大きな損害を与えたこと」である.ロシア国民の感情を大事にしなくてはならないと考える.

こんなことを書かなくても,政治家や官僚は微妙なバランスのもと,返還交渉を進めているだろう.それぞれの代表が自国政府の誤りを謝罪し,円満解決できることを望む.先に日本が謝罪すべき — が私の主張である.