この節のプログラムは、ピボット選択がないため、実用上問題を含んているが、最初の学 習としてこれは気にしないことにする。ガウス・ジョルダン法のプログラムの学習は簡単 な方が良い。皆さんが、学習ではなく実際に使うプログラムを組むときはピボット選択は 必要不可欠と考えなくてはならない。
さらに、このプログラムは行列が特異な場合でも、計算を続行しようする。その場合、ゼ ロで割ることが生じますので、実行時エラーが発生するであろう。
for(ipv=1 ; ipv <= n ; ipv++){ 対角化の処理 }ここで、ipvは対角化する要素 の添え字を表す。 nは行列のサイズである。
数学では、対角成分を1にするために、その行を対角成分で割る。しかし、 コンピューターのプログラムでは予め逆数を計算して、それを乗じた方が良い。コン ピューターは除算よりも乗算の方が得意なので効率が良いためである。非同次項 の演算は1回ですが、係数行列 は列毎なので回の演算が必 要になる。対角成分を1にする処理は、次のようにする。
inv_pivot = 1.0/a[ipv][ipv]; for(j=1 ; j <= n ; j++){ a[ipv][j] *= inv_pivot; } b[ipv] *= inv_pivot;
このように変形するのは簡単である。例えば、行を処理する場合を考える。 行を、ピボットのある行を 倍したもので引けば良いのである。 この処理の実際のプログラムは次のようになる。これで、 行 の全ての の成分を処理をする。
for(i=1 ; i<=n ; i++){ if(i != ipv){ temp = a[i][ipv]; for(j=1 ; j<=n ; j++){ a[i][j] -= temp*a[ipv][j]; } b[i] -= temp*b[ipv]; } }
これで対角化の処理はおしまい。
/* ========== ガウスジョルダン法の関数 =================*/ void gauss_jordan(int n, double a[][100], double b[]){ int ipv, i, j; double inv_pivot, temp; for(ipv=1 ; ipv <= n ; ipv++){ /* ---- 対角成分=1(ピボット行の処理) ---- */ inv_pivot = 1.0/a[ipv][ipv]; for(j=1 ; j <= n ; j++){ a[ipv][j] *= inv_pivot; } b[ipv] *= inv_pivot; /* ---- ピボット列=0(ピボット行以外の処理) ---- */ for(i=1 ; i<=n ; i++){ if(i != ipv){ temp = a[i][ipv]; for(j=1 ; j<=n ; j++){ a[i][j] -= temp*a[ipv][j]; } b[i] -= temp*b[ipv]; } } } }
ピボット選択、ここでは行の交換のみの部分選択を考える。その処理は、
ここで、もし最大値がゼロの場合、行列は特異(行列式がゼロ)ということにな り、解は一意的に決まらない。その場合、関数の値としてゼロを返し、その ことをコールした側に伝えるのが良い。
big=0.0; for(i=ipv ; i<=n ; i++){ if(fabs(a[i][ipv]) > big){ big = fabs(a[i][ipv]); pivot_row = i; } } if(big == 0.0){return(0);} row[ipv] = pivot_row;
このプログラムは、以下のことを行っている。
ただし、もともと最大の値が行にある場合は、行の入れ替えは行わない。
if(ipv != pivot_row){ for(i=1 ; i<=n ; i++){ temp = a[ipv][i]; a[ipv][i] = a[pivot_row][i]; a[pivot_row][i] = temp; } temp = b[ipv]; b[ipv] = b[pivot_row]; b[pivot_row] = temp; }
/* ========= ガウスジョルダン法の関数====================== */ int gauss_jordan(int n, double a[][MAXN+10], double b[]){ int ipv, i, j; double inv_pivot, temp; double big; int pivot_row, row[MAXN+10]; for(ipv=1 ; ipv <= n ; ipv++){ /* ---- 最大値探索 ---------------------------- */ big=0.0; for(i=ipv ; i<=n ; i++){ if(fabs(a[i][ipv]) > big){ big = fabs(a[i][ipv]); pivot_row = i; } } if(big == 0.0){return(0);} row[ipv] = pivot_row; /* ---- 行の入れ替え -------------------------- */ if(ipv != pivot_row){ for(i=1 ; i<=n ; i++){ temp = a[ipv][i]; a[ipv][i] = a[pivot_row][i]; a[pivot_row][i] = temp; } temp = b[ipv]; b[ipv] = b[pivot_row]; b[pivot_row] = temp; } /* ---- 対角成分=1(ピボット行の処理) ---------- */ inv_pivot = 1.0/a[ipv][ipv]; for(j=1 ; j <= n ; j++){ a[ipv][j] *= inv_pivot; } b[ipv] *= inv_pivot; /* ---- ピボット列=0(ピボット行以外の処理) ---- */ for(i=1 ; i<=n ; i++){ if(i != ipv){ temp = a[i][ipv]; for(j=1 ; j<=n ; j++){ a[i][j] -= temp*a[ipv][j]; } b[i] -= temp*b[ipv]; } } } return(1); }
これを実現するためには、以下の2つのことをすればよいだけである。
for(i=1 ; i<=n ; i++){ for(j=1 ; j<=n ; j++){ if(i == j){ inv_a[i][j]=1.0; }else{ inv_a[i][j]=0.0; } } }
temp = a[ipv][i]; a[ipv][i] = a[pivot_row][i]; a[pivot_row][i] = temp; temp = inv_a[ipv][i]; /* -- これ追加 -- */ inv_a[ipv][i] = inv_a[pivot_row][i]; /* -- これ追加 -- */ inv_a[pivot_row][i] = temp; /* -- これ追加 -- */と書き換えます。
a[ipv][j] *= inv_pivot; inv_a[ipv][j] *= inv_pivot; /* -- これ追加 -- */と書き換える。
a[i][j] -= temp*a[ipv][j]; inv_a[i][j] -= temp*inv_a[ipv][j]; /* -- これ追加 -- */と書き換える。
/* ========= ガウスジョルダン法の関数====================== */ int gauss_jordan(int n, double a[][MAXN+10], double b[], double inv_a[][MAXN+10]){ int ipv, i, j; double inv_pivot, temp; double big; int pivot_row, row[MAXN+10]; /* ---- 単位行列作成 ---------------------------- */ for(i=1 ; i<=n ; i++){ for(j=1 ; j<=n ; j++){ if(i==j){ inv_a[i][j]=1.0; }else{ inv_a[i][j]=0.0; } } } for(ipv=1 ; ipv <= n ; ipv++){ /* ---- 最大値探索 ---------------------------- */ big=0.0; for(i=ipv ; i<=n ; i++){ if(fabs(a[i][ipv]) > big){ big = fabs(a[i][ipv]); pivot_row = i; } } if(big == 0.0){return(0);} row[ipv] = pivot_row; /* ---- 行の入れ替え -------------------------- */ if(ipv != pivot_row){ for(i=1 ; i<=n ; i++){ temp = a[ipv][i]; a[ipv][i] = a[pivot_row][i]; a[pivot_row][i] = temp; temp = inv_a[ipv][i]; inv_a[ipv][i] = inv_a[pivot_row][i]; inv_a[pivot_row][i] = temp; } temp = b[ipv]; b[ipv] = b[pivot_row]; b[pivot_row] = temp; } /* ---- 対角成分=1(ピボット行の処理) ---------- */ inv_pivot = 1.0/a[ipv][ipv]; for(j=1 ; j <= n ; j++){ a[ipv][j] *= inv_pivot; inv_a[ipv][j] *= inv_pivot; } b[ipv] *= inv_pivot; /* ---- ピボット列=0(ピボット行以外の処理) ---- */ for(i=1 ; i<=n ; i++){ if(i != ipv){ temp = a[i][ipv]; for(j=1 ; j<=n ; j++){ a[i][j] -= temp*a[ipv][j]; inv_a[i][j] -= temp*inv_a[ipv][j]; } b[i] -= temp*b[ipv]; } } } return(1); }
メモリーと合わせて、計算効率も重要であった。大規模な計算になると、計算が 終了するまで何日も費やす場合がある。そのような場合、プログラムの改 良により、速度が10%アップするとかなりのメリットがあるのである。
そこで、ここではメモリーの効率的な利用を考える。ただし、ここは少し難しい。
これを実現するのは、簡単である。次のようにプログラムを書けばよい。
/* ---- 対角成分=1(ピボット行の処理) ---------- */ inv_pivot = 1.0/a[ipv][ipv]; a[ipv][ipv]=1.0; /* --- この行を追加 --- */ for(j=1 ; j <= n ; j++){ a[ipv][j] *= inv_pivot; } b[ipv] *= inv_pivot; /* ---- ピボット列=0(ピボット行以外の処理) ---- */ for(i=1 ; i<=n ; i++){ if(i != ipv){ temp = a[i][ipv]; a[i][ipv]=0.0; /* --- この行を追加 --- */ for(j=1 ; j<=n ; j++){ a[i][j] -= temp*a[ipv][j]; } b[i] -= temp*b[ipv]; } }
このようにすると必要なメモリーは、節のプログラ ムに比べて半分になる。さらに、計算時間も半分になる。 節では、計算結果が0やの場合も計算し ていたが、このプログラムではそれを省いている。
当然、 の逆行列ということは、乗算すると下のように単位行列になる。
(元の行列の行の行ベクトル)(逆行列の列の列ベクトル) |
このようなわけで、元の行列の行を入れ替えた場合、その逆行列は元の行列の逆行列の列 を入れ替えたものになる。従って、ピボット選択により係数行列の行を入れ替えると、逆 行列の列を入れ替える必要が生じる。実際にプログラムでは、以下のようにする。
/* ---- 列の入れ替え(逆行列) -------------------------- */ for(j=n ; j>=1 ; j--){ if(j != row[j]){ for(i=1 ; i<=n ; i++){ temp = a[i][j]; a[i][j]=a[i][row[j]]; a[i][row[j]]=temp; } } }
これ以上、改良するのは大変なので、ほとんど問題なく使える関数のプログラ ムを以下に示す。
/* ========= ガウスジョルダン法の関数====================== */ int gauss_jordan(int n, double a[][MAXN+10], double b[]){ int ipv, i, j; double inv_pivot, temp; double big; int pivot_row, row[MAXN+10]; for(ipv=1 ; ipv <= n ; ipv++){ /* ---- 最大値探索 ---------------------------- */ big=0.0; for(i=ipv ; i<=n ; i++){ if(fabs(a[i][ipv]) > big){ big = fabs(a[i][ipv]); pivot_row = i; } } if(big == 0.0){return(0);} row[ipv] = pivot_row; /* ---- 行の入れ替え -------------------------- */ if(ipv != pivot_row){ for(i=1 ; i<=n ; i++){ temp = a[ipv][i]; a[ipv][i] = a[pivot_row][i]; a[pivot_row][i] = temp; } temp = b[ipv]; b[ipv] = b[pivot_row]; b[pivot_row] = temp; } /* ---- 対角成分=1(ピボット行の処理) ---------- */ inv_pivot = 1.0/a[ipv][ipv]; a[ipv][ipv]=1.0; for(j=1 ; j <= n ; j++){ a[ipv][j] *= inv_pivot; } b[ipv] *= inv_pivot; /* ---- ピボット列=0(ピボット行以外の処理) ---- */ for(i=1 ; i<=n ; i++){ if(i != ipv){ temp = a[i][ipv]; a[i][ipv]=0.0; for(j=1 ; j<=n ; j++){ a[i][j] -= temp*a[ipv][j]; } b[i] -= temp*b[ipv]; } } } /* ---- 列の入れ替え(逆行列) -------------------------- */ for(j=n ; j>=1 ; j--){ if(j != row[j]){ for(i=1 ; i<=n ; i++){ temp = a[i][j]; a[i][j]=a[i][row[j]]; a[i][row[j]]=temp; } } } return(1); }