2 ベクトルの演算

2.1 ベクトルの和と積

これについては、取り立てて、説明することは無いだろう。

2.2 ラプラス演算子

ベクトル演算子同士の内積をとった結果、

\begin{equation*}\begin{aligned}\nabla\cdot\nabla &=\nabla^2 &=\left( \frac{\p...
...l^2}{\partial y^2}+ \frac{\partial^2}{\partial z^2} \end{aligned}\end{equation*}

の新しくできる演算子をラプラス演算子(ラプラシアン)と言う。$ \nabla^2$の 代わりに$ \Delta$と書くこともある。

これは、見て分かるようにスカラー演算子である。スカラー演算子であるため、 スカラーやベクトルに作用することができる。スカラー場$ \phi$に作用すると、 次のようなスカラー場ができる。

\begin{equation*}\begin{aligned}\nabla^2\phi &=\left( \frac{\partial^2}{\partial...
...\partial y^2}+ \frac{\partial^2 \phi}{\partial z^2} \end{aligned}\end{equation*}

ベクトル場 $ \boldsymbol{h}$に作用すると、次のようなベクトル場ができる。

\begin{equation*}\begin{aligned}\nabla^2 \boldsymbol{h} &=\left( \frac{\partial^...
...l y^2}+ \frac{\partial^2 h_z}{\partial z^2} \right) \end{aligned}\end{equation*}

2.3 ベクトル場の2階微分

以下の計算は、「ファインマン物理学III 電磁気学」の第2章を参考にしてい る。

2.3.1 便利な公式

ベクトル場の2階微分はいろいろな場面で出くわす。自然科学を学習すると2階 微分に非常に多く出くわす。これは、なぜなのだろうか?不思議である。可能 なベクトル場の2階微分は、

  $\displaystyle \nabla\cdot(\nabla T)$ (4)
  $\displaystyle \nabla\times(\nabla T)$ (5)
  $\displaystyle \nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{h})$ (6)
  $\displaystyle \nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{h})$ (7)
  $\displaystyle \nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{h})$ (8)

である。

ベクトルの微分演算子$ \nabla$は、通常のベクトルの演算と同じように振舞う。 この記号は非常に便利である。したがって、通常のベクトルの演算で0にな るものを探し、その関係を利用して式(4)〜 (8)の演算で0になるものを類推する。以下のベクトルの演 算が0になることは直ちに分かる。

  $\displaystyle \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{A}T)=(\boldsymbol{A}\times\boldsymbol{A})T=0$ (9)
  $\displaystyle \boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B})=0$ (10)

これらの関係から、

  $\displaystyle \nabla\times(\nabla T)=0$ (11)
  $\displaystyle \nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{h})=0$ (12)

と類推できる。類推ではあるが、これは正しい式である。最後の練習問題でこ の式が正しいことを確認すること。

次にベクトル公式

$\displaystyle \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}) =\boldsy...
...symbol{A}\cdot\boldsymbol{C})-\boldsymbol{C}(\boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B})$ (13)

を用いた場合を考える。$ A$$ B$$ \nabla$で置き換え、 $ \boldsymbol{C}$ $ \boldsymbol{h}$ とすると、

$\displaystyle \nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{h}) =\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{h})-\boldsymbol{h}(\nabla\cdot\nabla)$ (14)

となる。右辺第2項の $ \boldsymbol{h}(\nabla\cdot\nabla)$が変である。この問題を避 けるために、少し技巧的であるが、式(15)を

$\displaystyle \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}) =\boldsy...
...symbol{A}\cdot\boldsymbol{C})-(\boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B})\boldsymbol{C}$ (15)

とすればよい。右辺第2項は、ベクトル $ \boldsymbol{C}$とスカラー $ \boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B}$との積であるため、演算の順序を入れ替えても良い。こ うすると、式(16)は

\begin{equation*}\begin{aligned}\nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{h}) &=\nabl...
...a(\nabla\cdot\boldsymbol{h})-\nabla^2\boldsymbol{h} \end{aligned}\end{equation*}

となり、正しそうである。事実、これは正しい式である。成分ごとに、きちん と微分を行えば分かる。

以上で、最初に示した2階の微分のうち、式(5)と (7)、(8)の公式を導いた。残りは、特に興 味のあるものは無い。そこで、以上の結果をまとめると

  $\displaystyle \nabla\cdot(\nabla T)=\nabla^2T=$スカラー場 (17)
  $\displaystyle \nabla\times(\nabla T)=0$ (18)
  $\displaystyle \nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{h})=$ベクトル場 (19)
  $\displaystyle \nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{h})=0$ (20)
  $\displaystyle \nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{h}) =\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{h})-\nabla^2\boldsymbol{h}$ (21)
  $\displaystyle (\nabla\cdot\nabla)\boldsymbol{h}=\nabla^2\boldsymbol{h}=$ベクトル場 (22)

となる。

これまでの話をまとめると、ベクトル演算子$ \nabla$は通常のベクトルの演算 規則が成り立ち、便利である。諸君は、これを上手に使えばよい。もし、その 公式が気になるようであれば、成分に分けて、こつこつと微分をしてみれば良 い。

2.3.2 落とし穴

先ほど、ベクトル演算子$ \nabla$は通常のベクトル演算と同様に扱えると述べ たが、注意が必要である。例えば、通常のベクトル公式

$\displaystyle (\boldsymbol{A}\psi)\times(\boldsymbol{A}\phi)=0$ (23)

である。 もし、 $ \boldsymbol{A}$$ \nabla$と置き換えると

$\displaystyle (\nabla\psi)\times(\nabla\phi)=0$?????? (24)

となる。ベクトル $ \nabla\psi$の方向は$ \psi$に関係するし、 $ \nabla\phi$も 同様である。したがって、0になるのは特殊な場合である。

これは、次のように考える。最初の$ \nabla$$ \psi$に作用し、つぎのものは $ \phi$に作用する。したがって、同じ$ \nabla$でも異なるベクトルと考える。

だからと言って、 $ \nabla\times\nabla\phi=0$が成り立たないというわけでは ない。この場合、2つの$ \nabla$は同じ$ \phi$に作用する。


ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成16年9月28日


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