3 ファラデーの電磁誘導の法則

電荷保存の法則を満たすようにできたが、電磁場の時間変化をちゃんと記述する式には不 十分である。磁場が変化したとき電場が発生する電磁誘導の法則を加えなくてはならない。 以下、そのことについて述べる。

3.1 電磁誘導(積分形)

エルステッドは電流が磁場を作ることを発見した。このことを聞いたファラデーは磁場が 電流をつくると考え実験を行った。正確ではないが、図2の ような回路で実験をした。まずは、閉回路Aに電流を流す。すると、鉄心の中に磁場が発 生する。そして、最初、ファラデーは閉回路Bに電流が流れると考えた。しかし、期待と は裏腹に電流は流れなかった。いろいろ実験をしているうちに、閉回路AのスイッチをON やOFFした瞬間に、電流が流れることに気づいた。
図 2: ファラデーの電磁誘導の実験
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/Faraday_induction.eps}

閉回路Bに電流が流れるのは、オームの法則により回路内に電圧が発生するからである。 この電圧を誘導起電力といい、それは回路を貫く磁束$ \phi$の時間的な変化に比例する。そして、 その符号は、誘導起電力によって発生した誘導電流による磁束が回路を貫く磁束の変化を 妨げるようになる。これをLenzの法則という。もっと簡単にLenzの法則を述べると、

である。要するに、誘導電流は回路のトータルの磁束の変化を妨げるのである。これは、 誘導起電力 $ \mathcal{E}=\oint\boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{\ell}$とすると

$\displaystyle \mathcal{E}$ $\displaystyle =-\frac{\mathrm{d}\phi}{\mathrm{d}t}$    
  $\displaystyle =-\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\int \boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ (31)

と記述出来る。

ファラデーは閉回路Bがなくても、閉回路A は電場を作ると考えた。この考えを単純にす ると、図3のようになる。もっと単純化すると、閉回路Aが なくても、磁場が変化すれば電場ができると考えることもできる(図 4)。これは、最初の実験からかなり飛躍しているが、さま ざまな検証の結果正しいと言うことがわかっている。したがって、式 (31)は導体がある閉じた回路ではなく一般的な電磁場について 成り立つことになる。電磁場のみで記述すると、

$\displaystyle \oint\boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{\ell}$ $\displaystyle =-\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\int \boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ (32)

となる。これが積分形のFaradayの法則である。

図 3: 電流の変化が磁場の変化を引き起こし、それが電場を作る。
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/Faraday_induction_2.eps}
図 4: 磁場の変化が電場を作る。
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/Faraday_induction_3.eps}

3.2 微分形のファラデーの法則

今まで学習してきたとおり、積分形は物理量を求める場合には都合がよいが、理論的な取 り扱いには不便である。そこで、先ほどの積分形のFaradayの法則である式 (32)を微分形に直しておく。そのためには、いつものストー クスの定理 $ \oint\boldsymbol{A}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{\ell}=\int\nabla\times \boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$を使 えばよい。式(32)の左辺にストークスの定理を適用し、右 辺の時間微分を積分の中に入れると、

$\displaystyle \int\nabla\times \boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S=-\i...
...{\partial^{1} \boldsymbol{B}}{\partial t^{1}}\fi \cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ (33)

となる。この積分は、いつでも、どこでも、どんな領域でも成り立つ。これが成り立つた めには、左右の被積分関数が等しくなくてはならない。すなわち、

$\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{E}=- \if 11 \frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{B}}{\partial t^{1}}\fi$ (34)

である。これが微分形の電磁誘導の法則である。

もちろん、この式には電荷密度$ \rho$や電流密度 $ \boldsymbol{j}$は関係していないので、電荷保 存の法則を書き換えることはない。


ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年6月24日


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