4 ヘルムホルツの定理

4.1 定理1

定理 4.1
任意の領域のベクトル場は、その内部で発散と回転を与え、そして領域の境 界での法線方向の成分を与えれば、一意に決まる。

この定理は、発散と回転と境界条件を決めればベクトル場が決まると言っている。これは、次のようにして証明できる。発散 $ \rho(x,y,z)$と回転 $ \boldsymbol{j}(x,y,z)$とした場合

$\displaystyle \div{\boldsymbol{V}_1}=\rho$ (11)
$\displaystyle \boldsymbol{\nabla}\times \boldsymbol{V}_1=\boldsymbol{j}$ (12)

とする。問題は、この発散 $ \rho(x,y,z)$と回転 $ \boldsymbol{j}(x,y,z)$を与えた場合、ベクトル場が一意に決まるかということである。

$ \boldsymbol{V}_1$と同一の境界条件で式(11)と(12)を満たす他のベクトル場$ \rm {V}_2$があるとする。ここで、 $ \boldsymbol{V}_1-\boldsymbol{V}_2$がゼロならば、ベクトル場は一意に決まると言える。これらの式を満たすベクトル場は無いと言えるからである。そこで、

$\displaystyle \boldsymbol{W}=\boldsymbol{V}_1-\boldsymbol{V}_2$ (13)

とおく。このベクトル場 $ \boldsymbol{W}$発散は、

$\displaystyle \div{\boldsymbol{W}}$ $\displaystyle =\div{\boldsymbol{V}_1-\boldsymbol{V}_2}$    
  $\displaystyle =\div{\boldsymbol{V}_1}-\div{\boldsymbol{V}_2}$    
  $\displaystyle =0$ (14)

である。すなわち、ベクトル場 $ \boldsymbol{W}$は湧き出しが無い。また、ベクトル場 $ \boldsymbol{W}$の回転は、

$\displaystyle \boldsymbol{\nabla}\times \boldsymbol{W}$ $\displaystyle =\boldsymbol{\nabla}\times \boldsymbol{V}_1-\boldsymbol{V}_2$    
  $\displaystyle =\boldsymbol{\nabla}\times \boldsymbol{V}_1-\boldsymbol{\nabla}\times \boldsymbol{V}_2$    
  $\displaystyle =0$ (15)

となる。すなわち、ベクトル場 $ \boldsymbol{W}$には回転が無い。ベクトル場 $ \boldsymbol{W}$は回転がないので、

$\displaystyle \boldsymbol{W}=-\boldsymbol{\nabla} \phi$ (16)

とスカラー場を用いて記述ができる。ベクトル場 $ \boldsymbol{W}$には湧き出しが無い ( $ \div{\boldsymbol{W}}=0$)ことから、

$\displaystyle \nabla^2\phi=0$ (17)

である。

これで準備が整った。 $ \boldsymbol{W}$が考えている空間$ V$にわたってゼロであることを証明し たい。そのためには、

$\displaystyle \int_V\boldsymbol{W}\cdot\boldsymbol{W}\mathrm{d}V=0$ (18)

が言えればよい。 $ \boldsymbol{W}\cdot\boldsymbol{W}$はベクトル $ \boldsymbol{W}$の大きさの2乗で必ずゼロ以上 である2。従って、その積分がゼロとなるた めには、いたるところで $ \boldsymbol{W}\cdot\boldsymbol{W}$がゼロとならなくてはならない。従って、 $ \boldsymbol{W}$が積分区間で全てゼロの場合のみ、式(18)が成り立つ。

与えられた条件で式(18)の右辺を計算して、それがゼロにな ることを確認する。取り合えず、左辺に分かっている条件を入れて計算してみよう。

$\displaystyle \int_V\boldsymbol{W}\cdot\boldsymbol{W}\mathrm{d}V$ $\displaystyle =\int\left(-\boldsymbol{\nabla} \phi \right)\cdot\left(-\boldsymbol{\nabla} \phi \right)\mathrm{d}V$    
  $\displaystyle =\int\boldsymbol{\nabla} \phi \cdot\boldsymbol{\nabla} \phi \mathrm{d}V$    
     グリーンの公式の(4)から    
  $\displaystyle =\int_S\phi\boldsymbol{\nabla} \phi \cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S-\int_V\phi\nabla^2\phi\mathrm{d}V$    
     式(16)と(17)から    
  $\displaystyle =-\int_S\phi\boldsymbol{W}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$    
  $\displaystyle =-\int_S\phi\left(\boldsymbol{V}_1-\boldsymbol{V}_2\right)\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$    
  $\displaystyle =-\int_S\phi\left(\boldsymbol{V}_1\cdot\boldsymbol{n}-\boldsymbol{V}_2\cdot\boldsymbol{n}\right)\mathrm{d}S$    
     法線方向の値が等しければ    
  $\displaystyle =0$ (19)

となる。従って、定理が証明できた。

この定理のなにがうれしいかというと、ベクトル場を記述する微分方程式は、回転と発散 で良いと言うことを示していることである。いろいろな法則は微分方程式で記述しなくて はならないが、ベクトル場の場合は回転と発散の値を決めれば、ベクトル場が決まると言 うことである。境界条件は必要であることは言うまでもない。

4.2 ヘルムホルツの定理

定理 4.2
空間内部で、 $ \div{\boldsymbol{A}}=0$のようなベクトル場があるとする。そのベクトル場は、 スカラー場の勾配 $ \boldsymbol{\nabla} \phi $とベクトル場の回転 $ \boldsymbol{\nabla}\times \boldsymbol{B}$に分解できる。

$\displaystyle \boldsymbol{A}=-\boldsymbol{\nabla} \phi +\boldsymbol{\nabla}\times \boldsymbol{B}$ (20)

この証明までの時間がないので、興味ある諸君は調べよ。ポテンシャルの話をするときに これは重要な定理である。


ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年6月24日


no counter