2 定常電流と保存即

2.1 電流とは

電磁場を統一したマクスウェルの方程式3が発表されたのは、1864年のことである。この式から、運動する電荷が 磁場を作ると予見されていたが、それを実験的に確認することは困難であった。1878年ア メリカの物理学者ローランドが、実験によりそれを確認した。ここで初めて、電荷の流れ により電流が生じることが確かめられた。

帯電した円盤を回転させて、それにより磁石が力を受けることを実験的に確認したのであ る。このときの磁場の測定精度は、地磁気の$ 10^{-5}$程度とのことである []。それにしても、130年くらいまえに、このような精度で実験がなされた ことに驚きである。この実験は、全てではないにしてもマクスウェルの方程式の正しさを 証明したと言えるだろう。その10年度、ヘルツの電磁波の確認により、その方程式は確固 たる地位を築いた。

電荷の流れが電流を作ることを諸君は既に知っているだろう。水の分子の流れが水流を作 るようにである。電流の場合、電荷は正負があり、正の電流の流れる方向を電流の方向と 定めている。実際の回路では、負の電荷を帯びた電子が電流を担う。従って、電子の流れ と電流の流れは逆になっている。水にたとえるならば、水の分子の流れと、水流の流れが 逆になっているようなものである。多少不便はあるが、歴史的な経緯で、そのようになっ てしまった。電子よりも先に電流が発見され、その方向が決められたことによる。

導線に流れる電流は、

と定義される。式で表すと、

$\displaystyle I=\frac{\mathrm{d}Q}{\mathrm{d}t}$ (1)

である。ここで、$ I$は電流、$ Q$は電荷量、$ t$は時間を表す。この電流の単位として通 常はアンペア [A] が使われるが、これは[C/s]4と同等である。SI 単位系では、クーロン[C]よりもアンペアの方が基本単位として用いられるので、電荷量 を[A$ \cdot$s]と書くこともある。

導線に流れる電流$ I$は場の量としてふさわしくない。これは、導線の直径にわたっての トータルの性質を表しているからである5。そこで、場の量として電流密度6 $ \boldsymbol{j}$を定義することにする。電流$ I$は明らかにスカラー量で ある。これはある断面$ S$を通り抜ける単位時間あたりの電荷量となる。ある微小断面積 $ \mathrm{d}S$、その法線ベクトルを $ \boldsymbol{n}$、微小電流量 $ \mathrm{d}I$とすると

$\displaystyle \mathrm{d}I = \boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ (2)

となるであろう。なぜならば、図1に示すように、どんな$ S$で もそこを通り抜ける電荷量は同一なので、 $ \cos\theta$がかかる。これは、丁度法線ベク トル $ \boldsymbol{n}$と電流密度ベクトル $ \boldsymbol{j}$とのスカラー積の計算になる。このようなこと から、式(2)が成立する。

このことから、ある断面$ S$を貫く電流は、

$\displaystyle I=\int_S \boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ (3)

と表すことができる。
図 1: 電流密度と電流
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/current_density.eps}

2.2 積分形の定常電流の保存則

ここでは、電流密度と電荷の関係を考える。そのため、風船のように体積をもつ閉じた系 を考える。この系の表面で先ほどの積分、式(3)を適用する。この積分が 正の場合、それはこの体積中に電流が注入されることになる。すると、電流は電荷の流れなの で、電荷が時間とともにどんどん貯まることになる。あるいは、電荷がその体積中で消滅 するかである。いままで、電荷の消滅は観測されていない7ので、後者は考えないものとする。従って、先の式 (3)が正の場合、その中に電荷が貯まることになる。一方、負の場合は その逆で電荷が減るのである。ゼロの場合、正味の電荷量に変化は無いことになる。
電荷は途中で消滅したり増加したりしない。これを電荷の保存の法則と言う。

式(1)を考えている系の表面で積分すると、系から出て いく電流$ I_S$が分かる。それは、

$\displaystyle I_s=\int_S \boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ (4)

となる。この電流は、そこを通して出ていく時間あたりの電荷量$ Q_o$に等しい。電荷保 存の法則から、出ていった分、系内部の電荷量$ Q$が減少している。従って、

$\displaystyle \Delta Q_o+\Delta Q =0$ (5)

となる。このことから、

$\displaystyle \int_S \boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ $\displaystyle =\frac{\mathrm{d}Q_o}{\mathrm{d}t}$    
  $\displaystyle =-\frac{\mathrm{d}Q}{\mathrm{d}t}$ (6)

である。これは、外部に向かって電流が流れ出ると(左辺)、内部の電荷量が減少すると言っ ている。この式は電荷の保存の法則を、式で表したものである。電荷量$ Q$が場の量でないので、 場の量である電荷密度$ \rho$に置き換えると、

$\displaystyle \int_S \boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ $\displaystyle =-\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\int_V \rho dV$ (7)

となる。これが式で書いた電荷保存の法則(積分形)である。

場の量である電流密度 $ \boldsymbol{j}$も電荷密度$ \rho$も、場所と時間 $ (x,\,y,\,z,\,t)$の関 数である。時刻とともに、これらの場が変化しないとき定常状態と呼ぶ。従って、定常状 態では、

$\displaystyle \int_S \boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ $\displaystyle =0$ (8)

となる。定常状態では、閉じた系のトータルの電流はゼロである。これは、内部で電荷量 の変動が無いことを示している。

図: $ \int_S\boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S \le 0$の場合。閉じた空間内の電荷量 は増加する。
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.7]{figure/div_minus.eps}
図: $ \int_S\boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S=0$の場合。閉じた空間内の電荷量は変 化しない。
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.7]{figure/div_zero.eps}
図: $ \int_S\boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S \ge 0$の場合。閉じた空間内の電荷量 は減少する。
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.7]{figure/div_plus.eps}

2.3 微分形の定常電流の保存則

諸君はガウスの発散定理をよく知っている。式 (7)の右辺をガウスの発散定理を用いて書き直し、 左辺は微分と積分の順序を交換する。そうすると、

$\displaystyle \int_V \div\boldsymbol{j}\mathrm{d}V =-\int_V \frac{\mathrm{d}\rho}{\mathrm{d}t} dV$ (9)

となる。この式は、いつでもどのような$ V$でも成立する必要がある。そのためには、

$\displaystyle \div\boldsymbol{j} =-\frac{\mathrm{d}\rho}{\mathrm{d}t}$ (10)

となる必要がある。これを、微分形の電荷保存の法則という。電流密度の発散は、電荷密 度の変化の割合に等しいと言っている。積分形に比べて、何を言っているかは分かりにく いが、理論的に話を進めるときには微分形の方が便利である。

この場合、定常状態は、

$\displaystyle \div\boldsymbol{j} =0$ (11)

と表せる。定常状態では電流の発散は無い。これも積分形に比べて、何のことか分かりに くい。
ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年6月24日


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