3 オームの法則と起電力

3.1 オームの法則

オームの法則(ohm law)もさんざん学習してきたので、分かっていると思う。ここでは、それを場の 式に書き改める。

まず、図5のような棒である。この両端に定常電流$ I$を流すと、それ に比例した電圧$ V$が発生する。これをオームの法則と言い、

$\displaystyle V=IR$ (12)

と書き表せる。この比例定数$ R$を電気抵抗(あるいは抵抗)と呼ばれる量で、かなり広い 範囲で電圧や電流に依存しないで一定の値である。しかし、物質やその状態、形には依存 する。抵抗の単位は[$ \Omega$]と書き、オームと読む。SI組み立て単位だと、[ $ m^2\cdot
kg S^{-3}A^{-2}$]である。

実験によると、この抵抗は導体の長さ$ L$に比例して、断面積$ S$に反比例する。すなわち、

$\displaystyle R=\rho\frac{L}{S}$ (13)

である。この比例定数$ \rho$を抵抗率と言う。この抵抗率は導体の形に依存しないで、導 体固有の値である。すなわち、導体の物性値である。また、抵抗が断面積に比例すると言 うことは、電流は導体の内部全体にわたって流れていることを表している。

それでは、次にいつものようにこれを場の量で表すことにする。まずは、オームの法則を

$\displaystyle V=I\rho\frac{L}{S}$ (14)

と書き改める。これはいつでも成立するので、非常に小さい領域で考えることにする。す ると、

$\displaystyle \Delta V=\Delta I\rho\frac{\Delta L}{\Delta S}$ (15)

が成り立つ。これを変形して、

$\displaystyle \frac{\Delta V}{\Delta L}=\rho\frac{\Delta I}{\Delta S}$ (16)

である。左辺は電場、右辺の $ \Delta I/\Delta S$は電流密度を表す。従って、

$\displaystyle \boldsymbol{E}=\rho \boldsymbol{j}$ (17)

である。通常、$ \rho$の逆数である電気伝導率$ \sigma$をつかって、この式は

$\displaystyle \boldsymbol{j}=\sigma \boldsymbol{E}$ (18)

と書かれる。これが、場の量で書かれたオームの法則である。
図 5: オームの法則
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/Ohm_law.eps}

3.2 オームの法則の電子論

ここでは、オームの法則が成り立つためには、導体中で電子の運動について述べる。この 辺の話は、文献 [1]を参考にしている。

導体中では、電子の移動が電流を担う。固定された金属原子のイオンの間を電子が通りす ぎて、それが電流となる。電流は電荷の移動であったことを思い出せ。金属に外部から電 場をかけない場合、その電子は熱運動のため、勝手な方向に運動をして、トータルな電子 の移動は生じない(図6)。すなわち電流が生じない。ここで、 外部から電場をかけるとその方向とは逆に電子は移動し始める(図 7)。これが電流である。電流が流れ始めても、その速度は圧倒 的に熱運動に起因するものの方が大きい。

図 6: 電子は熱運動により、勝手な方向に動いている。
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.7]{figure/electorn_without_E.eps}
図 7: 熱運動と電場から受ける力による運動が合成される。
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.7]{figure/electorn_with_E.eps}

抵抗がどのようにして生じるかは、電子の運動を考えなくてはならない。電子はイオン と衝突を繰り返して、移動する。1回の衝突で、電子は曲げられて運動量が変化する。こ れを何回か繰り返すと初期状態によらず、全ての方向の同じ確率で運動量を持つようにな る。ここでは、話を簡単にするために、1回の衝突で最初の運動量の記憶を忘れて全ての 方向に同じ確率で運動量を持つとしよう(図8)。

図 8: 衝突の前後
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.7]{figure/collision.eps}

それでは、ある時刻$ T$での運動量を考えよう。そのために、各電子の最後の衝突から、 この時刻$ T$までの時間$ t_j$と言うものを導入する。すると、ある時刻の運動量は、

$\displaystyle <m\boldsymbol{v}>=\frac{1}{N}\sum_j(m\boldsymbol{v}_j+e\boldsymbol{E}t_j)$ (19)

となる。ここで、 $ <m\boldsymbol{v}>$は平均の運動量、 $ m\boldsymbol{v}_j$は衝突直後の$ j$番目の電 子の運動量を表す。右辺最後の項は、運動量の変化は力積(力$ \times$時間)に等しいと言 うことから出てくる。

ここで、左辺第1項の平均はゼロとなる。これは、衝突するとそれ以前の情報は失われて 運動量は全ての方向に等確率で分配されると言う仮定による。従って、運動量はいつも同 じで、

$\displaystyle m<\boldsymbol{v}>=e\boldsymbol{E}\frac{1}{N}\sum_j t_j$ (20)

となる。$ t_j$の平均は、平均衝突間隔$ \tau$に等しい。したがって、電子の平均速度は、

$\displaystyle <\boldsymbol{v}>=\frac{e\tau}{m}\boldsymbol{E}$ (21)

となる。

電子の平均速度が求まったので、電流を求めるのは簡単である。電子の平均密度を$ n$と すると、電流密度 $ \boldsymbol{j}$

$\displaystyle \boldsymbol{j}$ $\displaystyle =en<\boldsymbol{v}>$    
  $\displaystyle =\frac{ne^2\tau}{m}\boldsymbol{E}$ (22)

である。この式から、抵抗率は

$\displaystyle \rho=\frac{m}{ne^2\tau}$ (23)

となる。

3.3 起電力

電気回路と水の流れを図9に示す。
図 9: 電気回路と水の流れの類似
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.7]{figure/circuit_water_flow.eps}

ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年6月24日


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