微分方程式や偏微分方程式を解き,値--ここでは弦の振幅--を求める場合,次のような境界条件や
初期条件が必要となる.
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- すなわち問題を解く場合の境界--定義域の端のこと--で値を指定すること
がある.この指定した値のことを境界条件という.
- 時刻の時に課す値のことを,初期条件という.むろん,条件を課す時刻はい
つでもよいが,一般には計算に都合の良いを選ぶ.
方程式で求める量--ここでは振幅--が,条件として与えられることもあるが,その微
分の値が条件になることもある.もっと複雑な場合もある.
教科書では,このプリントで述べる初期条件と境界条件を合わせて,境界条件と記述して
いる.しかし,電気の業界では,境界条件と初期条件は区別している.この講義は「電気
数学」なので,これらは区別する.
ここでは,これらの境界条件から,式(13)のとを決める方
法をしめす.これらの係数を決定することにより,弦の振動が完全にきまる.
弦の振動の境界条件は,
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である.物理的には,弦の両端を固定している--ことに対応している.すでに,この条
件は式(
13)に含まれている.空間に関する波動方程式の解のうち
の項のみを選んだ過程を思い出せ.
式(
13)の
と
は,時刻
の弦の形と速度分布より決めること
ができる.
のときの形と速度を
とする.この様子を図
2と
3に示
す.これらを
初期条件という.初期の弦の形
と速度分布
は問題として
与えられるので既知である.偏微分方程式(
1)は,初期条件以降の弦の運
動を表す.
偏微分方程式の解である式(13)が初期条件を満足するようにと
を決めれば,波動方程式が完全に解けたことになる.それらの値は,初期条件と比
較することにより決めることができる.式(13)のの弦の形と速
度は,
となる
2.
解の式から求めたこれらは,初期条件である式
(15)と(16)に等しい.だから,
となる.この式から,既知である
と
を使い
と
を決めれば,全て解
けたことになる.問題は,この式から
と
を決めることである.
ここで,とを求める前に,との性質を考える.やの
定義域はである.したがって,やはフーリエ級数,フーリエ正弦
級数,フーリエ余弦級数などで展開できる.また,とで弦は固定されているので,
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(22) |
となる.これらのことから,
と
はフーリエ正弦級数で展開する--ことが望
ましい.係数の収束も早いし,式(
19)や
(
20)との対応も良い.すなわち
である.
これらの式を,式(19)や(20)に代入すると
となる.したがって,
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である.これから,
と
と
を求めることができる.これで,波動方程式が境界条件や初期条件の元,
完全に解けたことになる.解は,次のように書くことができる.
鉄でできたギターの弦でラの音を出すことを考える.弦の長さを0.6[
]直径は
0.5[
]とする.鉄の密度は7.8[
]なので,線密度
[
]となる.
音の高低は,弦の張力で調整できる.音の振動数を表す式は,式
(30)より,
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(31) |
となる.基本波(
)を考えると,波の速度を
になるように調整すれば良い.波
の速度は,
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(32) |
である.したがって,必要な張力は,
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(33) |
となる.先ほどのギターの弦の長さと線密度で,ドの音(440Hz)を出すためには,
必要な張力は
[
]となる.
先ほどの状態のギターの弦を実際に振動させてみよう.どのように振動するであろうか?
弦の初期状態を図
4のようにする.弦の中央をゆっくりとつま
んで,そして離す.
式(30)のとを決めれば,弦の振動は確定する.そのた
めに初期条件を考えよう.の時,弦の速度はどこでもゼロなので,である.
したがって,式(24)より,
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(34) |
となる.残りの
は,式(
23)を用いて計算する.弦の初期状態は
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(35) |
と書くことができる.ここで,
は弦の傾き,
は弦の長さである.これから,
は,式(
23)を使うと次のように計算できる.
なので,弦の振動は,
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(37) |
となる.
の項は
が偶数の場合ゼロとなる.したがって,
は奇数のみ
を加算すればよい.すると,
となる.これが,最初の図
4の状態の弦の振動を表す式である.
これを弦の条件
を代入するとドの音がでる.位相が30度ごとの弦の状態を図
5〜
10にしめす.想像もつかないような弦の形になる.なぜ,このようなこ
とが生じるか,物理的な理由を考えてみよ.
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Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年2月22日