微分方程式や偏微分方程式を解き,値--ここでは弦の振幅--を求める場合,次のような境界条件や
初期条件が必要となる.
14pt
- すなわち問題を解く場合の境界--定義域の端のこと--で値を指定すること
がある.この指定した値のことを境界条件という.
- 時刻
の時に課す値のことを,初期条件という.むろん,条件を課す時刻はい
つでもよいが,一般には計算に都合の良い
を選ぶ.
方程式で求める量--ここでは振幅--が,条件として与えられることもあるが,その微
分の値が条件になることもある.もっと複雑な場合もある.
教科書では,このプリントで述べる初期条件と境界条件を合わせて,境界条件と記述して
いる.しかし,電気の業界では,境界条件と初期条件は区別している.この講義は「電気
数学」なので,これらは区別する.
ここでは,これらの境界条件から,式(13)の
と
を決める方
法をしめす.これらの係数を決定することにより,弦の振動が完全にきまる.
弦の振動の境界条件は,
|
![$\displaystyle X(0,t)=0$](img48.png) |
|
![$\displaystyle X(L,t)=0$](img49.png) |
|
(14) |
である.物理的には,弦の両端を固定している--ことに対応している.すでに,この条
件は式(
13)に含まれている.空間に関する波動方程式の解のうち
![$ \sin$](img50.png)
の項のみを選んだ過程を思い出せ.
式(
13)の
![$ C_n$](img51.png)
と
![$ D_n$](img52.png)
は,時刻
![$ t=0$](img53.png)
の弦の形と速度分布より決めること
ができる.
![$ t=0$](img54.png)
のときの形と速度を
とする.この様子を図
2と
3に示
す.これらを
初期条件という.初期の弦の形
![$ f(x)$](img57.png)
と速度分布
![$ v(x)$](img58.png)
は問題として
与えられるので既知である.偏微分方程式(
1)は,初期条件以降の弦の運
動を表す.
偏微分方程式の解である式(13)が初期条件を満足するように
と
を決めれば,波動方程式が完全に解けたことになる.それらの値は,初期条件と比
較することにより決めることができる.式(13)の
の弦の形と速
度は,
となる
2.
解の式から求めたこれらは,初期条件である式
(15)と(16)に等しい.だから,
となる.この式から,既知である
![$ f(x)$](img81.png)
と
![$ v(x)$](img82.png)
を使い
![$ C_n$](img83.png)
と
![$ D_n$](img84.png)
を決めれば,全て解
けたことになる.問題は,この式から
![$ C_n$](img85.png)
と
![$ D_n$](img86.png)
を決めることである.
ここで,
と
を求める前に,
と
の性質を考える.
や
の
定義域は
である.したがって,
や
はフーリエ級数,フーリエ正弦
級数,フーリエ余弦級数などで展開できる.また,
と
で弦は固定されているので,
![$\displaystyle f(0)=f(L)=0$](img98.png) |
(21) |
![$\displaystyle v(0)=v(L)=0$](img99.png) |
(22) |
となる.これらのことから,
![$ f(x)$](img100.png)
と
![$ v(x)$](img101.png)
はフーリエ正弦級数で展開する--ことが望
ましい.係数の収束も早いし,式(
19)や
(
20)との対応も良い.すなわち
である.
これらの式を,式(19)や(20)に代入すると
となる.したがって,
|
![$\displaystyle p_n=C_n$](img110.png) |
|
![$\displaystyle q_n=D_n\frac{n\pi c}{L}$](img111.png) |
|
(27) |
である.これから,
と
![$ C_n$](img116.png)
と
![$ D_n$](img117.png)
を求めることができる.これで,波動方程式が境界条件や初期条件の元,
完全に解けたことになる.解は,次のように書くことができる.
鉄でできたギターの弦でラの音を出すことを考える.弦の長さを0.6[
![$ \mathrm{m}$](img119.png)
]直径は
0.5[
![$ \mathrm{mm}$](img120.png)
]とする.鉄の密度は7.8[
![$ \mathrm{g/cm^3}$](img121.png)
]なので,線密度
![$ \rho=1.5\times
10^{-3}$](img122.png)
[
![$ \mathrm{kg/m}$](img123.png)
]となる.
音の高低は,弦の張力で調整できる.音の振動数
を表す式は,式
(30)より,
![$\displaystyle f=\frac{nc}{2L}$](img125.png) |
(31) |
となる.基本波(
![$ n=1$](img126.png)
)を考えると,波の速度を
![$ c=2Lf$](img127.png)
になるように調整すれば良い.波
の速度は,
![$\displaystyle c=\sqrt{\frac{T}{\rho}}$](img128.png) |
(32) |
である.したがって,必要な張力は,
![$\displaystyle T=4L^2f^2\rho$](img129.png) |
(33) |
となる.先ほどのギターの弦の長さと線密度で,ドの音(440Hz)を出すためには,
必要な張力は
![$ T=418$](img130.png)
[
![$ \mathrm{N}$](img131.png)
]となる.
先ほどの状態のギターの弦を実際に振動させてみよう.どのように振動するであろうか?
弦の初期状態を図
4のようにする.弦の中央をゆっくりとつま
んで,そして離す.
式(30)の
と
を決めれば,弦の振動は確定する.そのた
めに初期条件を考えよう.
の時,弦の速度はどこでもゼロなので,
である.
したがって,式(24)より,
![$\displaystyle q_n=0$](img137.png) |
(34) |
となる.残りの
![$ p_n$](img138.png)
は,式(
23)を用いて計算する.弦の初期状態は
![$\displaystyle f(x)= \begin{cases}\alpha x & 0\leq x \leq \cfrac{L}{2}\\ \alpha (L-x) & \cfrac{L}{2}\leq x \leq L \end{cases}$](img139.png) |
(35) |
と書くことができる.ここで,
![$ \alpha$](img140.png)
は弦の傾き,
![$ L$](img141.png)
は弦の長さである.これから,
![$ p_n$](img142.png)
は,式(
23)を使うと次のように計算できる.
なので,弦の振動は,
![$\displaystyle y(x,t)=\sum_n \frac{4\alpha L}{n^2\pi^2}\sin\frac{n\pi}{2}\sin\frac{n\pi x}{L}\cos\frac{n\pi ct}{L}$](img151.png) |
(37) |
となる.
![$ \sin(n\pi/2)$](img152.png)
の項は
![$ n$](img153.png)
が偶数の場合ゼロとなる.したがって,
![$ n$](img154.png)
は奇数のみ
を加算すればよい.すると,
となる.これが,最初の図
4の状態の弦の振動を表す式である.
これを弦の条件
を代入するとドの音がでる.位相が30度ごとの弦の状態を図
5〜
10にしめす.想像もつかないような弦の形になる.なぜ,このようなこ
とが生じるか,物理的な理由を考えてみよ.
ホームページ:
Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年2月22日