図
6に示すように
![$ x$](img162.png)
軸と垂直な弦の振動の方程式を考える.
![$ x$](img163.png)
軸か
らの弦の変位を
![$ y(x,t)$](img164.png)
とする.場所
![$ x$](img165.png)
と時刻
![$ t$](img166.png)
を決めたら弦の変位が決まるので,変
位は
![$ y(x,t)$](img167.png)
と表すことができる.弦の変位は
![$ y(x,t)$](img168.png)
は,弦の長さ
![$ L$](img169.png)
に比べて十分小
さい場合,次の偏微分方程式が成り立つ.
これを波動方程式と言う.ここで,
![$ c$](img171.png)
は波の速度,
![$ T$](img172.png)
は弦の張力,
![$ \rho$](img173.png)
は弦の線密度である.
波動方程式(
64)--偏微分方程式のひとつ--の解を,
とそれぞれの変数の関数の積の形になると仮定する.これを変数分離形と言う.この仮定
した解を元の偏微分方程式に代入する.すると,
![$\displaystyle X(x)T^{\prime\prime}(t)=c^2X^{\prime\prime}(x)T(t)$](img176.png) |
(66) |
が得られる.これは,
![$\displaystyle \frac{T^{\prime\prime}(t)}{c^2T(t)}=\frac{X^{\prime\prime}(x)}{X(x)}$](img177.png) |
(67) |
となる.この左辺は時刻
![$ t$](img178.png)
のみの関数で,右辺は場所
![$ x$](img179.png)
のみの関数である.これが等し
いということは,両辺の値は定数でなくてはならない.この定数を
![$ -\lambda$](img180.png)
とすると,
![$\displaystyle \frac{T^{\prime\prime}(t)}{c^2T(t)}=\frac{X^{\prime\prime}(x)}{X(x)}=-\lambda$](img181.png) |
(68) |
となる.これを整理すると,
という連立常微分方程式になる.弦の振動の場合,図
6に示すように
弦の両端で固定されている.固定されている部分では,弦の変位
![$ y(x,t)$](img184.png)
はゼロである.
したがって,
|
![$\displaystyle X(0,t)=0$](img185.png) |
|
![$\displaystyle X(L,t)=0$](img186.png) |
|
(71) |
である.この条件--境界条件--を満たすことができるのは,
である.時刻の項の常微分方程式(
70)は,
![$\displaystyle T^{\prime\prime}+\left(\frac{n\pi c}{L}\right)^2T=0$](img189.png) |
(73) |
となる.
![$ (n\pi c/L)^2$](img190.png)
は正の実数であるので,一般解は
となる.空間および時刻の常微分方程式から得られた解を元の仮定した解
(
65)に代入すると
![$\displaystyle y_n(x,t)= C_n\sin\frac{n\pi x}{L}\cos\frac{n\pi ct}{L}+ D_n\sin\frac{n\pi x}{L}\sin\frac{n\pi ct}{L}$](img192.png) |
(75) |
となる.元の波動方程式は線形なので,重ね合わせの原理が成り立つ.すなわち,解は
と書き表すことができる.
弦の振動の境界条件は,
|
![$\displaystyle X(0,t)=0$](img196.png) |
|
![$\displaystyle X(L,t)=0$](img197.png) |
|
(77) |
である.物理的には,弦の両端を固定している--ことに対応している.すでに,この条
件は式(
76)に含まれている.空間に関する波動方程式の解のうち
![$ \sin$](img198.png)
の項のみを選んだ過程を思い出せ.
式(
76)の
![$ C_n$](img199.png)
と
![$ D_n$](img200.png)
は,時刻
![$ t=0$](img201.png)
の弦の形と速度分布より決めること
ができる.
![$ t=0$](img202.png)
のときの形と速度を
とする.この様子を図
7と
8に示
す.これらを
初期条件という.初期の弦の形
![$ f(x)$](img205.png)
と速度分布
![$ v(x)$](img206.png)
は問題として
与えられるので既知である.偏微分方程式(
64)は,初期条件以降の弦の運
動を表す.
偏微分方程式の解である式(76)が初期条件を満足するように
と
を決めれば,波動方程式が完全に解けたことになる.それらの値は,初期条件と比
較することにより決めることができる.式(76)の
の弦の形と速
度は,
となる
6.
解の式から求めたこれらは,初期条件である式
(78)と(79)に等しい.だから,
となる.この式から,既知である
![$ f(x)$](img229.png)
と
![$ v(x)$](img230.png)
を使い
![$ C_n$](img231.png)
と
![$ D_n$](img232.png)
を決めれば,全て解
けたことになる.問題は,この式から
![$ C_n$](img233.png)
と
![$ D_n$](img234.png)
を決めることである.
ここで,
と
を求める前に,
と
の性質を考える.
や
の
定義域は
である.したがって,
や
はフーリエ級数,フーリエ正弦
級数,フーリエ余弦級数などで展開できる.また,
と
で弦は固定されているので,
![$\displaystyle f(0)=f(L)=0$](img246.png) |
(84) |
![$\displaystyle v(0)=v(L)=0$](img247.png) |
(85) |
となる.これらのことから,
![$ f(x)$](img248.png)
と
![$ v(x)$](img249.png)
はフーリエ正弦級数で展開する--ことが望
ましい.係数の収束も早いし,式(
82)や
(
83)との対応も良い.すなわち
である.
これらの式を,式(82)や(83)に代入すると
となる.したがって,
|
![$\displaystyle p_n=C_n$](img258.png) |
|
![$\displaystyle q_n=D_n\frac{n\pi c}{L}$](img259.png) |
|
(90) |
である.これから,
と
![$ C_n$](img264.png)
と
![$ D_n$](img265.png)
を求めることができる.これで,波動方程式が境界条件や初期条件の元,
完全に解けたことになる.解は,次のように書くことができる.
弦の初期状態を図
9のようにする.弦の中央をゆっくりとつま
んで,そして離す.どのように振動するであろうか?
式(93)の
と
を決めれば,弦の振動は確定する.そのた
めに初期条件を考えよう.
の時,弦の速度はどこでもゼロなので,
である.
したがって,式(87)より,
![$\displaystyle q_n=0$](img272.png) |
(94) |
となる.残りの
![$ p_n$](img273.png)
は,式(
86)を用いて計算する.弦の初期状態は
![$\displaystyle f(x)= \begin{cases}\alpha x & 0\leq x \leq \cfrac{L}{2}\\ \alpha (L-x) & \cfrac{L}{2}\leq x \leq L \end{cases}$](img274.png) |
(95) |
と書くことができる.ここで,
![$ \alpha$](img275.png)
は弦の傾き,
![$ L$](img276.png)
は弦の長さである.これから,
![$ p_n$](img277.png)
は,式(
86)を使うと次のように計算できる.
なので,弦の振動は,
![$\displaystyle y(x,t)=\sum_n \frac{4\alpha L}{n^2\pi^2}\sin\frac{n\pi}{2}\sin\frac{n\pi x}{L}\cos\frac{n\pi ct}{L}$](img286.png) |
(97) |
となる.
![$ \sin(n\pi/2)$](img287.png)
の項は
![$ n$](img288.png)
が偶数の場合ゼロとなる.したがって,
![$ n$](img289.png)
は奇数のみ
を加算すればよい.すると,
となる.これが,最初の図
9の状態の弦の振動を表す式である.
これを弦の条件
を代入するとラの音がでる.位相が30度ごとの弦の状態を図
10〜
15に示す.想像もつかないような弦の形になる.なぜ,このようなこ
とが生じるか,物理的な理由を考えてみよ.
ホームページ:
Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年2月28日