2 原理

ここで述べている回路の応答の計算は,諸君が現在身につけいている数学のレベルを超えている. しかし,結果については学習の範囲内であり,直感的に理解できるであろう.従って,細 かい計算は気にしないで,結果を直感的に理解することに努めよ.ただ,結果のみを書い たのでは原理を示したことにならないので,退屈であるが正確な記述を示す.

2.1 CR回路

1に示すCR回路の過渡応答を考える.ここでは,スイッチが OFFの状態ではコンデンサーに充電されていないものとする.そして,それをONにした瞬 間から電流が流れ,コンデンサーが充電される.その充電電圧が上がり,電源電圧と等し くなると電流は流れなくなり,回路は定常状態におさまる.スイッチをONにして,定常状 態におさまるまでを過渡状態と言う.
図 1: CR直列回路
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/LCR_response/CR.eps}

電流や電圧,あるいはコンデンサーの片側の電極の電荷量は,時間とともに変化する.そ の変化を表す式を考える.スイッチSをONにした場合,この回路の電圧に関係するキルヒ ホッフの法則は

$\displaystyle -E+RI+\frac{Q}{C}=0$ (1)

となる.電荷$ Q$と電流は, $ I=\frac{dq}{dt}$の関係がある.この関係式を用いると,式 (1)は

$\displaystyle \frac{dQ}{dt}+\frac{1}{CR}Q=\frac{E}{R}$ (2)

となる.ここで,電荷$ Q$のみが時間の関数で,残りは定数である.この常微分方程式の 一般解1は,

$\displaystyle Q=e^{-\frac{t}{CR}}\left[CEe^{\frac{t}{CR}}+c_1\right]$ (3)

である.ここで,$ c_1$は任意定数である.

任意常数は初期条件より決めることができる.スイッチSをONにした瞬間を $ t=0$として,そのときの回路の状態を初期条件と言う.ここでの初期条件は,

とする.この条件を先ほどの電荷を表す式に当てはめると,$ c_1=-CE$である.したがって, このCR直列回路のコンデンサーの片側に貯まる電荷は,

$\displaystyle Q=CE(1-e^{-\frac{t}{CR}})$ (4)

となる.

電荷$ Q$の変化が分かったので,回路の電圧や電流を求めることは簡単である.まずは, コンデンサーの電圧は,$ Q=CV$から簡単に求められ,

$\displaystyle V_c=E(1-e^{-\frac{t}{CR}})$ (5)

である.$ t=0$の時にはコンデンサーには充電されていないので,電圧は発生していない のである.これは,その瞬間のコンデンサーの抵抗はゼロと考える.一方,回路に流れる 電流は $ I=\frac{dQ}{dt}$より,

$\displaystyle I=\frac{E}{R}e^{-\frac{t}{CR}}$ (6)

となる.$ t=0$の瞬間,コンデンサーの抵抗はゼロなので,電流は抵抗によってのみ決ま るので,$ I(0)=E/R$となる.

ここで,$ \tau=CR$を時定数と言い,それはコンデンサーの電圧が定常状態の63.2%になる時 間を表している.

2.2 LR回路

先ほどと同様な手法を用いて,図2のLR回路を解析する.これ を解析する前に,定性的にその応答を述べておく.スイッチSをONにした瞬間,コイルの 抵抗は無限大になる.もし無限大にならないと,有限の電流がながれそのときの電流の 変化は無限大となる.すると無限大の抵抗となり,電流はゼロにならなくては成らない. これは矛盾である.従って,ONにした瞬間の電流はゼロで,しばらくすると電流が徐々に 増加する.電流が増加して行くが,$ I=E/R$よりも多くの電流が流れることはない.定常 状態ではコイルは無視でき,$ I=E/R$の電流が流れる.

定量的な解析は,キルヒホッフの法則から始める.この回路では,

$\displaystyle -E+L\frac{dI}{dt}+RI=0$ (7)

である.CR回路の解析と同様に,この微分方程式の一般解は,

$\displaystyle I=e^{-\frac{R}{L}t}\left[\frac{E}{R}e^{\frac{R}{L}t}+c_1\right]$ (8)

となる.ここで,初期条件($ t=0$の時,$ I=0$)を用いると,任意定数は$ c_1=-R/E$となる. したがって,回路に流れる電流は,

$\displaystyle I=\frac{E}{R}\left[1-e^{-\frac{R}{L}t}\right]$ (9)

となる.一方,抵抗の電圧は

$\displaystyle V_R$ $\displaystyle =IR$    
  $\displaystyle =E\left[1-e^{-\frac{R}{L}t}\right]$ (10)

である.

電流や電圧が定常状態の63.2%になる時間を時定数と言い,それは$ \tau=L/R$である.

図 2: LR直列回路
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/LCR_response/LR.eps}

2.3 LCR回路

2.3.1 一般解

3のLCR回路を解析する.これを定性的に理解することはな かなか難しいが,少し考えてみる.まずは,コイルがあるためスイッチを入れた瞬間の電 流はゼロで徐々に立ち上がると想像できる.途中経過は分からないが,最後にはコンデン サーが電源電圧$ E$まで充電され,定常状態になると思われる.
図 3: LCR直列回路
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/LCR_response/LCR.eps}

定性的に分かりにくい場合は,定量的に評価するしかない.キルヒホッフの法則から,

$\displaystyle -E+L\frac{dI}{dt}+\frac{Q}{C}+RI=0$ (11)

が導かれる.CR回路の解析と同様に$ I=dQ/dt$なので,説くべき微分方程式は

$\displaystyle \frac{d^2Q}{dt^2}+\frac{R}{L}\frac{dQ}{dt}+\frac{1}{LC}Q=\frac{E}{L}$ (12)

となる.付録2に示しているように,この微分方程式の解は

$\displaystyle Q=\begin{cases}%
CE+ c_1\exp\left[ \left(-\frac{R}{2L}+\frac{i}{2...
...exp\left(-\frac{R}{2L}t\right), & \text{$\frac{4L}{C}-R^2=0$のとき} \end{cases}$ (13)

となる.ここで,$ c_1$$ c_2$は未知定数で,初期条件によって決める.ここでは,それ は とする.

2.3.2 減衰振動

未知定数$ c_1$$ c_2$をもとめて,回路の応答を考えるが,ここでは $ \frac{4L}{C}-R^2\ge 0$,すなわち $ R^2 \le 4L/C $の場合を考える.このときの回路 の応答は,式(13)の最初の解によって示される.これから,未知定数 を求めるが,式が長いので

$\displaystyle \alpha$ $\displaystyle =\frac{R}{2L}$ (14)
$\displaystyle \beta$ $\displaystyle = \frac{1}{2L}\sqrt{\frac{4L}{C}-R^2}$ (15)

とする.すると,

$\displaystyle Q=CE+c_1e^{(-\alpha+\beta i)t}+c_2e^{(-\alpha-\beta i)t}$ (16)

である.これを微分して,電流は

$\displaystyle I=c_1(-\alpha+\beta i)e^{(-\alpha+\beta i)t}+ c_2(-\alpha-\beta i)e^{(-\alpha-\beta i)t}$ (17)

となる.初期条件から,

\begin{equation*}\left\{ \begin{aligned}& CE+c_1+c_2=0\\ & c_1(-\alpha+\beta i)+c_2(-\alpha-\beta i)=0\\ \end{aligned} \right.\end{equation*}

の連立方程式が成り立つ.この連立方程式の解は,

$\displaystyle c_1$ $\displaystyle =\frac{CE}{2}\left(-1+\frac{\alpha}{\beta}i\right)$ $\displaystyle c_2$ $\displaystyle =\frac{CE}{2}\left(-1-\frac{\alpha}{\beta}i\right)$ (19)

となる.これを用いると,回路に流れる電流やコンデンサーの電荷の変化が分かる.ここ で,興味があるのは,図3に示されている電圧なので,それ を電流から求めることにする.回路に流れる電流$ I$は,この$ c_1$$ c_2$を式 (17)に代入すればよい.オイラーの公式 2を使う と,それは,

$\displaystyle I=\frac{E}{\beta L}e^{-\alpha t}\sin(\beta t)$ (20)

となる.これから,図3に示されている電圧は,

$\displaystyle V_R$ $\displaystyle =IR$ (21)
  $\displaystyle =\frac{2\alpha}{\beta}Ee^{-\alpha t}\sin(\beta t)$ (22)

となる.これは振動項 $ \sin(\beta t)$と減衰項 $ e^{-\alpha t}$の積の形になっており, このような場合を減衰振動と言う.

2.3.3 過減衰

次に, $ \frac{4L}{C}-R^2\le 0$,すなわち $ R^2 \ge 4L/C $の場合を考える.先ほど同様, 回路の応答は,式(13)の最初の解によって示される.この式は長いので

$\displaystyle \alpha$ $\displaystyle =\frac{R}{2L}$ (23)
$\displaystyle \gamma$ $\displaystyle = \frac{1}{2L}\sqrt{R^2-\frac{4L}{C}}$ (24)

とする.後は,減衰振動の場合と全く同じように計算を進めれば良い.しかし, $ \gamma=\beta i$に気が付けば,減衰振動の解を利用することができる.すなわち,式 (22)の$ \beta$$ -\gamma i$に書き直せば良い. これから,図3に示されている電圧は,

$\displaystyle V_R$ $\displaystyle =\frac{2\alpha}{-\gamma i}Ee^{-\alpha t}\sin(-\gamma i t)$ (25)
  $\displaystyle =\frac{2\alpha}{\gamma}Ee^{-\alpha t}\sinh(\gamma t)$ (26)

となる3.この場合, 振動しないで減衰する.これを過減衰と言う.

2.3.4 臨界減衰

次に, $ \frac{4L}{C}-R^2=0$,すなわち$ R^2=4L/C $の場合を考える.回路の応答は,式 (13)の2番目の解によって示される.この式は長いので

$\displaystyle \alpha$ $\displaystyle =\frac{R}{2L}$ (27)

とする.従って,

$\displaystyle Q=CE+(c_1+c_2t)e^{-\alpha t}$ (28)

である.

減衰振動の場合と全く同じように,初期条件から未知定数を決める.まずはじめに, $ t=0$のとき$ Q=0$の条件から,$ c_1=-CE$となる.従って,

$\displaystyle Q=CE+(-CE+c_2t)e^{-\alpha t}$ (29)

となる.これから,電流は

$\displaystyle I=(c_2+\alpha CE -\alpha c_2 t)e^{-\alpha t}$ (30)

となる.$ t=0$のとき$ I=0$の条件から, $ c_2=-\alpha CE$となる.元々の条件, $ R^2=4L/C $を上手に使い,整理すると

$\displaystyle I=\frac{E}{L}te^{-\alpha t}$ (31)

が得られる.これから,

$\displaystyle V_R$ $\displaystyle =\frac{RE}{L}te^{-\alpha t}$ (32)
  $\displaystyle =2\alpha Et e^{-\alpha t}$ (33)

となる.これは臨界減衰と呼ばれる.
ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年7月3日


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