すでに行列の固有値と固有ベクトルについては,学習しているはずであるが,忘れている
者も多いと思うので復習が必要であろう.ただし,ここでは取り扱いの面倒な行列,例えば複
数の同じ固有値(縮退)を持つような行列などは考えないものとする.
行列
の固有値を
,固有ベクトルを
とすると,それらには,次
の関係がある.
![$\displaystyle \boldsymbol{A}\boldsymbol{x}=\lambda\boldsymbol{x}$](img4.png) |
(1) |
つまり,行列
![$ \boldsymbol{A}$](img5.png)
はベクトルを変換するが,それが固有ベクトル
![$ \boldsymbol{x}$](img6.png)
の場合,固
有値を乗じた変換しかしないのである.要するに,行列
![$ \boldsymbol{A}$](img7.png)
には特別の方向
![$ \boldsymbol{x}$](img8.png)
と大きさ
![$ \lambda$](img9.png)
があるのである.
固有値は,式(1)を変形して,
![$\displaystyle (\boldsymbol{A}-\lambda\boldsymbol{I})\boldsymbol{x}=0$](img10.png) |
(2) |
から求める.もちろん,この式から
![$ \boldsymbol{x}=0$](img11.png)
という解もあるが,これはつまらないので
興味の対象外である.それ以外の有用な解は,
![$\displaystyle \det(\boldsymbol{A}-\lambda\boldsymbol{I})=0$](img12.png) |
(3) |
の場合に生じる.このことは,クラメールの公式から推測がつくだろう.この方程式を特
性方程式という.
![$ \boldsymbol{A}$](img13.png)
が
![$ n$](img14.png)
次の正方行列であれば,これは
![$ n$](img15.png)
次方程式になるので,
![$ n$](img16.png)
個
の解がある.ゆえに,
![$ n$](img17.png)
次の正方行列
![$ \boldsymbol{A}$](img18.png)
は
![$ n$](img19.png)
個の固有値と固有ベクトルをもつ.
このようにして,何がうれしいか?.あとで分かるが,これは線形の連立微分方程式を解いたりするときに
大変役に立つ.
固有ベクトルを列ベクトルとして,
![$ n$](img20.png)
個並べる行列
![$ \boldsymbol{X}$](img21.png)
を考える.即ち,
![$\displaystyle \boldsymbol{X}=[\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{x}_2,\boldsymbol{x}_3,\cdots,\boldsymbol{x}_n ]$](img22.png) |
(4) |
である.そして,対角成分に固有値を並べた対角行列
![$\displaystyle \Lambda=\left[ \begin{array}{@{\,}ccccc@{\,}} \lambda_1 & & & & \...
...smash{\Huge$0$}}\quad} & & \ddots & \\ & & & & \lambda_n \\ \end{array} \right]$](img23.png) |
(5) |
を考える.
これらの行列から,
が直ちに分かる.従って,行列
![$ \boldsymbol{A}$](img25.png)
は,固有ベクトルからなる行列を用いて
と対角化できる.この
![$ \boldsymbol{X}$](img27.png)
を
![$ \boldsymbol{A}$](img28.png)
の対角化行列と言い,これにより固有値が並
ぶ行列に対角化できる.
このように行列を変形して,なにがうれしいのか?.次に示すように,行列を何回も
乗算するときに計算がうんと楽になり,大変便利である.
2.3 行列の乗算
先ほどの式(
6)は,
![$\displaystyle \boldsymbol{A}=\boldsymbol{X}\Lambda\boldsymbol{X}^{-1}$](img29.png) |
(8) |
のように書くことができる.次に行列を
![$ n$](img30.png)
回乗算することを,
![$ \boldsymbol{A}^n$](img31.png)
と書くことにす
る.通常の指数計算の記号とおなじ.すると,
となる.ここで,
![$ \Lambda$](img37.png)
は対角行列なので,その計算は簡単で,
![$\displaystyle \Lambda^n=\left[ \begin{array}{@{\,}ccccc@{\,}} \lambda_1^n & & &...
...ash{\Huge$0$}}\quad} & & \ddots & \\ & & & & \lambda_n^n \\ \end{array} \right]$](img38.png) |
(10) |
となる.これことは,固有値と固有ベクトルを使ってベクトルを表現すると,その
![$ n$](img39.png)
乗は
簡単に計算できると言っている.
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Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年11月12日