4 電荷保存則と変位電流

今までの話は,静電磁場で時間的に何も変化しない場合を考えてきた.これからは,時間 的に電荷や電流が変する場合を考察する.電荷や電流が変化すると電磁場の変化するわけ で,その関係を調べることになる.とはいえ,最終的には先の発散や回転の微分方程式に, 時間の項を含めるのだけである.

4.1 電荷の保存則

電荷は自然に発生したり消滅することはない--というのが実験事実である.このことは, 電荷の総量は時間的に変化しないと言っている.電子と陽電子が衝突して,光になっても, 総量は変化していない.この反応の場合,+eと-eが反応して電荷ゼロの光子ができるので, 電荷が消滅したと思うかもしれない.しかしながら,反応前の電荷の総量はゼロで反応後 もゼロであり,やはり総量は変化していない.このように電荷が消滅するときには,同じ 電荷量で符号が反対のものも同時に消滅するのである.これは電荷の発生の時も同じであ る.

このようなことから,ある任意の体積中の電荷量が変化するためには,それはその体積を 囲んでいる壁を通して電荷の移動が起きなくてはならない.電荷の移動は電流そのもので ある.したがって,ある任意の体積中の電荷の総量の変化は,その壁を通しての電流の流 れの積分に等しくなる.このことから,単位時間あたりの電荷の総量の変化は,壁を通し て流れる電流の積分に等しくなる.いつものように,任意体積の外側に向かった法単位ベ クトルを $ \boldsymbol{n}$とすると,これらの関係は

$\displaystyle -\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\int\rho\mathrm{d}V=\int\boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ (19)

となる.この式の右辺にいつものようにガウスの定理を使うと,

$\displaystyle -\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\int\rho\mathrm{d}V=\int\div{\boldsymbol{j}}\mathrm{d}V$ (20)

が得られる.この積分が任意の領域で成り立つことと,電荷密度は場所と時間の関数であ ることを考えると,

$\displaystyle - \if 11 \frac{\partial \rho}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \rho}{\partial t^{1}}\fi =\div{\boldsymbol{j}}$ (21)

となる.これは電荷の保存則を微分方程式で表したものである.この微分方程式は, $ \div{\boldsymbol{j}}+
\if 11 \frac{\partial \rho}{\partial t}
\else \frac{\partial^{1} \rho}{\partial t^{1}}\fi
=0$と書き,連続の式とも呼ばれる.

4.2 マクスウェルの変位電流

静電場を表す4つの式

  $\displaystyle \div{\boldsymbol{E}}=\frac{\rho}{\varepsilon_0}$ (22)
  $\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{E}=0$ (23)
  $\displaystyle \div{\boldsymbol{B}}=0$ (24)
  $\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{B}=\mu_0\boldsymbol{j}$ (25)

から始めることにする.静電磁場の場合,これらの式はまったく矛盾なく成立している. 電磁場も電荷も電流もいつでも一定で,場所だけの関数であり,電場および磁場がそれぞ れ独立した場として存在している.電場 $ \boldsymbol{E}$の源は電荷 $ \boldsymbol{\rho}$である.磁場 $ \boldsymbol{B}$の源は電流 $ \boldsymbol{j}$である.この場合でも,先ほどの電荷の保存則は成り立つ必 要はあるが,時間微分の項はゼロとなるので,

$\displaystyle \div{\boldsymbol{j}}=0$ (26)

が成立すれば良い.これに関係するのは,式(25)だけで,矛盾なく 成り立っている.この式の両辺の発散を取ると,左辺は回転の発散で,これは恒等式でゼ ロとなる2

これからは,電磁場と電流および電荷が時間的に変化する場合を考える.まずは,電荷の 保存則が成り立つ必要がある.もちろん,時間の変化をゼロとした場合には静電場の式を 満足しなくてはならない.それでは,式(25)の両辺の発散を取って みよう.この場合,左辺は恒等式でゼロで,右辺は

$\displaystyle 0=\div{\boldsymbol{j}}$ (27)

となる.今は $ \if 11 \frac{\partial \rho}{\partial t}
\else \frac{\partial^{1} \rho}{\partial t^{1}}\fi
\neq 0$なので,電荷の保存則を満足しない.そこで, 仮に式(25)の発散が

$\displaystyle \div{\left(\nabla\times \boldsymbol{B}\right)}=\mu_0\left[\div{\b...
...ial \rho}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \rho}{\partial t^{1}}\fi \right]$ (28)

と書き換えたとする.そうすると,この式は電荷の保存則を満足する.これでも良いが, さすがに式が複雑である.そこで,式(22)の助けをかりて,少し式を書き 換えることを考える.少しばかり変形すると

$\displaystyle \div{\left(\nabla\times \boldsymbol{B}\right)}$ $\displaystyle =\mu_0\left[\div{\boldsymbol{j}}+\varepsilon_0 \if 11 \frac{\part...
... t} \else \frac{\partial^{1} }{\partial t^{1}}\fi (\div{\boldsymbol{E}})\right]$    
  $\displaystyle =\mu_0\div{\left(\boldsymbol{j}+\varepsilon_0 \if 11 \frac{\parti...
...partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{E}}{\partial t^{1}}\fi \right)}$ (29)

となる. $ \boldsymbol{B}=\mu_0\boldsymbol{H}$ $ \boldsymbol{D}=\varepsilon_0\boldsymbol{E}$を利用すると,これは,

$\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{H}=\boldsymbol{j}+ \if 11 \frac{\partial...
...bol{D}}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{D}}{\partial t^{1}}\fi$ (30)

としても良いだろう.この式を導くとき式(22)も変動する電磁場 でも正しいとした--ことは良いのだろうか?.これまでの議論ではその良し悪しは分から ない.後での議論で矛盾がなく,さらに実験事実として正しいことを言わなくてはならな い.結論を言うとこれは正しい.後の議論でも矛盾はないし,実験事実にも反しない.

式(30)は良さそうであるが,式(22)もまた, 電荷保存則を満足する必要がある.そこで,この式の時間微分を考える.時間微分を取り, 左辺と右辺を入れ替えると

$\displaystyle \if 11 \frac{\partial \rho}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \rho}{\partial t^{1}}\fi$ $\displaystyle =\varepsilon_0 \if 11 \frac{\partial }{\partial t} \else \frac{\partial^{1} }{\partial t^{1}}\fi \left(\div{\boldsymbol{E}}\right)$    
  $\displaystyle = \if 11 \frac{\partial }{\partial t} \else \frac{\partial^{1} }{\partial t^{1}}\fi \left(\div{\boldsymbol{D}}\right)$    
  $\displaystyle =\div{\left( \if 11 \frac{\partial \boldsymbol{D}}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{D}}{\partial t^{1}}\fi \right)}$    
     式(30)を用いると    
  $\displaystyle =\div{\left(\nabla\times \boldsymbol{H}-\boldsymbol{j}\right)}$    
  $\displaystyle =-\div{\boldsymbol{j}}$ (31)

となる.これは,電荷保存則そのものである.従って,式(30)のよ うにすると,式(22)はそのままで電荷保存則を満足している.これ でめでたし,めでたしである.

式(30)の追加された項, $ \if 11 \frac{\partial \boldsymbol{D}}{\partial t}
\else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{D}}{\partial t^{1}}\fi
$は変位電流あるい は電束電流と呼ばれ,天才マクスウェルが導入したのである.


ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年7月6日


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