静電磁場を拡張して,時間変動の項を取り扱うのが分かりやすくて良いだろう.そのため
に静電磁場の復習をする.
静電場と静磁場はともにベクトル場である.ベクトル場を記述する微分方程式の完全な組は,その発
散と回転であることは以前に示したとおりである.そこで,電場
と磁場
の発散と回転を示すことにする.
2つの電荷があるとそれぞれは力を及ぼしあい,その力について述べたものがクーロンの
法則である.図
1のように2つの電荷がある場合,
の電荷が
に及ぼす力
は,
となる.これがクーロンの法則で,それは,
- 力の大きさは,それらの距離の2乗に反比例し,電荷量の積に比例する
- 力の方向は,2つの電荷を結ぶ直線状で,同じ電荷同士の場合は斥力
で,異なる電荷であれば引力となる
と言っているのである.これから,直ちに作用・反作用の法則が成り立っていることが分
かる.
これが静電場のすべてで,どんな問題でもこれを計算すれば原理的に解ける.宇宙全体の
電荷をすべて計算すればよいのであるが,それは実際的でない.そのため,いろいろと数
学的な工夫がなされた.ただ,数学的に式を変形したと思ってはならない.かなり重要な
概念が導入されることになる.
導入された概念のうち最も重要なものは,場の概念である.このクーロンの法則から静電
場と言うものが考えられる.電荷が静電場を作り,その静電場が電荷に力の作用を及ぼす
のである.先のクーロンの法則から,電荷は
の位置にと言う電場を
作るのである.この電場が電荷に作用して,
という力を及ぼすのであ
る.これは,
と書くことができる.これらの式は,式(
3)とまったく同じと思える
かもしれない.しかし,決定的に異なることがある.式(
3)は遠隔力
で,何もない空間を通して力が2つの電荷間にに作用している.一方,式
(
4)や式(
5)は近接作用となっており,電荷は場を変化させて,
その場の変化が力を生み出していると考える.
電場求めることが静電場の中心的な問題となる.これが分かれば全ての静電場の性質が分
かるからである.
の位置にある電荷が
の位置につくる電場
を求める.これは式(4)から,直ち
に
と得られる.この様子を図
2にしめす.
電荷が電荷密度
で連続的に分布する場合,位置
での電場
は,式(6)より
|
(7) |
となる.
は,
での電荷密度と言う意味である.こ
こでの電荷密度は,
の関数であって
の関数ではない.これに注
意して,ベクトル解析の知識を使うと,
となることが分かる.ここで,積分の変数は
であるが,
勾配
は
を変数とする.この変数の違いには注意が必要である.
式(8)の両辺の発散を計算する.
これで,電場の発散が計算できた.当然,この式の座標変数は
のみなので,
と書いてもよい.
がないので,間違えることはない.この式を微分形の
ガウスの法則と言う.
ベクトル場の微分方程式の片割れが分かった.残りは,回転である.先ほど,同様に一般
化されたクーロンの法則の式(8)の両辺の回転を計算する.
式(8)の両辺の発散を計算すると次のようになる.
これで,電場の回転が求まった.電場の回転はゼロである.
以上をまとめると,電場を表す微分方程式は,
と書ける.
つぎに静磁場
を考える.静電場の場合,電場を作るものは電荷であった.それに
対して,静磁場の場合の磁荷というものは発見されていない.従って,磁場の発散はつね
にゼロである.
|
(13) |
実際に磁場を作るものは電流である.1本の無限に長い直線電流
が作る磁場は,
|
(14) |
となる.磁場は半径に比例するため,電流を内部に含む閉じた曲線の線積分は
|
(15) |
となることは以前述べたとおりである.ここの電流
は積分路の内側である.これが連
続的に,密度
で分布していると考えると,
となる.ここで,ストークスの定理,
の出番である.これ
を式(
16)の左辺に適用する.すると両辺とも面積分になる.この面積分
は任意の領域で成り立つ.したがって,両辺の被積分関数は等しくなくてはならない.す
なわち,
|
(17) |
である.これで,無限に長い直線電流がつくる磁場,正確には磁束密度の回転が得られた.
これは直線電流に限らず,くねくねまがる電流でも成り立つ.
以上の結果をまとめると,磁場が満たす方程式は,
となる.
静磁場の微分方程式の導出は静電場に比べて,汚い.静電場の方は教科書から離れて少し
理論的に示した.それに対して,静磁場は教科書のとおりとしている.静磁場の方も静電
場同様に美しく導き出すことも可能である.ビオ-サバールの法則を出発点として,ベク
トル解析とデルタ関数を上手に使う方法である.思い出してほしい,静電場ではクーロン
の法則を出発点として,ベクトル解析とデルタ関数を使って,場の方程式を示した.
デルタ関数を使うと直観に頼らなくて済む分,すっきりとした理論展開ができる.しかし,
物理的なイメージがわかり難くなる弊害がある.両方を教えるべきと思うが,大変多くの
時間が必要となる.
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Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年7月6日