すでに行列の固有値と固有ベクトルについては,学習しているはずであるが,忘れている
者も多いと思うので復習が必要であろう.ただし,ここでは取り扱いの面倒な行列,例えば複
数の同じ固有値(縮退)を持つような行列などは考えないものとする.
行列
の固有値を
,固有ベクトルを
とすると,それらには,次
の関係がある.
 |
(1) |
固有ベクトル
の場合,行列
はその固ベクトルに固有値
を乗じ
た変換しかしないのである.方向が同じ.要するに,行列
には特別の方向
と大きさ
があるのである.これは,通常の場合と著しく異なる.通常,
行列
はベクトルを方向が異なる他のベクトルに変換する.
固有値は,式(1)を変形して,
 |
(2) |
から求める.もちろん,この式から
という解もあるが,これはつまらないので
興味の対象外である.それ以外の有用な解は,
 |
(3) |
の場合に生じる.このことは,クラメールの公式から推測がつくだろう.この方程式を特
性方程式という.
が
次の正方行列であれば,これは
次方程式になるので,
個
の解がある.ゆえに,
次の正方行列
は
個の固有値と固有ベクトルをもつ.
このようにして,何がうれしいか? あとで分かるが,これは線形の連立微分方程式を解い
たりするときに大変役に立つ.
固有ベクトルを列ベクトルとして,
個並べる行列
を考える.即ち,
![$\displaystyle \boldsymbol{X}=[\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{x}_2,\boldsymbol{x}_3,\cdots,\boldsymbol{x}_n ]$](img24.png) |
(4) |
である.そして,対角成分に固有値を並べた対角行列
![$\displaystyle \Lambda=\left[ \begin{array}{@{\,}ccccc@{\,}} \lambda_1 & & & & \...
...smash{\Huge$0$}}\quad} & & \ddots & \\ & & & & \lambda_n \\ \end{array} \right]$](img25.png) |
(5) |
を考える.
これらの行列から,
が直ちに分かる.従って,行列
は,固有ベクトルからなる行列を用いて
と対角化できる.この
を
の対角化行列と言い,これにより固有値が並
ぶ行列に対角化できる.
このように行列を変形して,なにがうれしいのか? 次に示すように,行列を何回も
乗算するときに計算がうんと楽になり,大変便利である.
2.3 行列の乗算
先ほどの式(6)は,
 |
(8) |
のように書くことができる.次に行列を
回乗算することを,
と書くことにす
る.通常の指数計算の記号とおなじ.すると,
となる.ここで,
は対角行列なので,その計算は簡単で,
![$\displaystyle \Lambda^n=\left[ \begin{array}{@{\,}ccccc@{\,}} \lambda_1^n & & &...
...ash{\Huge$0$}}\quad} & & \ddots & \\ & & & & \lambda_n^n \\ \end{array} \right]$](img40.png) |
(10) |
となる.これは,固有値と固有ベクトルを使ってベクトルを表現すると,その
乗は
簡単に計算できると言っている.
ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年11月8日