ここの説明は,文献 [1]を参考にした.これは線形代数を実際に
どのように応用するか?--を詳細に述べた教科書で工学系の学生は一度は読んでもらいたい.
初めて私が線形代数の講義を受けたとき,あまりにも抽象的で,さっぱりわからなかった.
その後,この教科書を読むことにより,なるほど線形代数は便利なものであるとやっとわ
かったのである.
さて,いままで学習した直接法はしつこく計算すれば,必ず解が求まる.しかし,大きな
連立方程式を計算するには不向きである.なぜならば,ガウス・ジョルダン法の計算回数
は,方程式の次元の三乗に比例するため,大きな行列ではとたんに計算時間が必要に
なるからである.
実用的なプログラムでは,非常に大きな連立方程式を計算しなくてはならない.たとえば,
私の研究室での計算でも10万元くらいは計算している.これをガウス・ジョルダン法で計
算すると膨大な時間が必要となり,現実的ではない.そこで,これよりは格段に計算の速
い反復法を用いている.ここでは,その反復法を簡単に説明する.
当然ここでも,連立方程式
を満たす
を数値計算で求める.反復法の理論を考えるために,この連立方程式の
真の解
とする.回目の反復計算によりで求められたものを
とする.
そして,反復の計算回数を増やして,
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(12) |
になったとする.反復の計算方法を上手に選ぶと,真の解に収束させることができる.こ
のように反復計算を行い真の解に収束させる方法を反復法と言う.
どのようにして反復計算をするのか? 例えば,行列
を
と分解するだけで,反復計算の式を作成することができる.
ここで,
が
に収束するとする.すると,式
(13)と式(11)を比べれば,
と
は等しいことがわかる.すなわち,式(13)で元の方程式
(11)を表した場合,
が収束すれば,必ず真の解
に収束するのである.別の解に収束することはなく,真の解に収束するか,発散
するかのいずれかである.振動することはないのか? それはよい質問である.興味があ
る人が調べてみてほしい.
言うまでもないと思うが,式(13)をつかって,番めの近似解
から番めの近似解
は,
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(14) |
の計算により求める.この式の中には係数行列
と非同次項の情報は入っており,
情報の過不足はない--ことに注意が必要である.ある意味ではこれは連立方程式の解の
公式と考えることもできる.もちろん,この計算のためには初期値は必要で,
それはプログラマーあるいはユーザー適当に決めなくてはならない.
先の説明で,式(13)を使った反復法の場合,
の収束が重要
であることがわかった.ここでは,これが収束する条件を示す.
真の解の場合,式(13)は
となる.この式(15)から式(13)を引くと,
となる.
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(16) |
となる.ここで,
や
は,真の解からの差,すな
わち,誤差を示している.回目の計算の誤差を
とすると,
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(17) |
と表すことができる.この誤差ベクトル
がゼロに収束すれば,ハッピーなのだ.
ハッピーになるための条件を探すために,計算の最初の誤差を
とする.すると,
となる.この式の右辺には,やっかいそうな行列の乗の計算がある.しかし,
2.3 節で得た結果を利用するとその計算も簡単である.行列
の固有値と固有ベクトルで作る行列を,と
とする
と,式(18)は
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(19) |
となる.明らかに,計算回数を増やしていくと,誤差のベクトル
は
に依存する.これは,
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(20) |
となるので,
の場合,誤差
がゼロに収束するために
は,すべての固有値が
でなくてはならない.そして,収束の速度は,最
大の固有値
に依存する.この絶対値が最大の固有値をスペクトル半径
と言う.
ここで言いたいのは,連立方程式を式(13)の反復法で計算する場合,
結果が真の値に収束するためには,行列
の最大固有値の絶対値が1以
下でなくてはならないと言うことである.
最大固有値が1以下になる行列の条件を探すことは難しい.また,予め行列
の最大固有値を計算することも考えられるが,それもかなりの計算
量が必要で,反復法を使って計算時間を短縮するメリットが無くなってしまう.このよう
なことから,反復法はとりあえず試してみて,発散するようであれば他の方法に切り替え
るのが良いだろう.後で述べるSOR法の加速緩和係数を1以下にするという方法も
ある.
ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年11月8日