式(
5)は,無限に長い電流が作る磁場である.これが
分かると,微小な長さ
![$ \mathrm{d}z$](img26.png)
が作る磁場の式が欲しくなる.磁場は全ての電流を積分
して得られる--となると理論を考えるのに大変都合が良い.図
6のような状況を考える.図中の点
![$ \mathrm{P}$](img27.png)
の作る磁場は,
式
5から分かっている.ここの磁場は,
![$ \mathrm{d}z$](img28.png)
が
作る磁場
![$ \mathrm{d}B$](img29.png)
を足しあわせたもの--積分--になるはずである.したがって,
![$\displaystyle \frac{\mu_0}{2\pi}\frac{\boldsymbol{I}\times\boldsymbol{R}}{R^2}=\int_{-\infty}^\infty f(\boldsymbol{I},\boldsymbol{r})\mathrm{d}z$](img30.png) |
(6) |
となる
![$ f(\boldsymbol{I},\boldsymbol{r})$](img31.png)
があるはずである.このように表すと,
![$ \mathrm{d}z$](img32.png)
が作る磁場
![$ \mathrm{d}B$](img33.png)
は
![$\displaystyle \mathrm{d}B=f(\boldsymbol{I},\boldsymbol{r})\mathrm{d}z$](img34.png) |
(7) |
となる.ここまでくれば,
![$ f(\boldsymbol{I},\boldsymbol{r})$](img35.png)
の関数形を求めることが重要な問題となる.
ビオとサバールはここまで考えて歴史に名前を残した.だれでもここまでたどり着ければ,
関数形を見つけることはできるであろう.科学史に名前を残すためには,時代の最先端に
たどり着くことが如何に大事か--がわかる.
がベクトルなので,
もベクトルになる必要がある.幸いな
ことに,磁場
は電流
とも位置
にも垂直である.そこで,微小磁場
は,ベクトル積
に関係がある--と類推できる.また,遠
距離
が離れると,磁場が小さくなることも理解できるであろう.問題は距離の何乗で
小さくなるか?--である.ここでは,距離の2乗としてみよう.間違っていれば,1乗に
したり,3乗にしてみて,正しい関数形を探せばよい.科学史に名前を残すことを考える
と,これくらいの努力をしてもよいだろう.これまでの直感から,
![$\displaystyle \mathrm{d}\boldsymbol{B}=k\frac{\boldsymbol{I}\times\boldsymbol{r}}{\vert\boldsymbol{r}\vert^3}\mathrm{d}z$](img44.png) |
(8) |
とかける.比例定数の
![$ k$](img45.png)
は後から調整すればよい.
この式を地道に積分を行う.計算する積分は
![$\displaystyle \boldsymbol{B}=k\int_{-\infty}^\infty\frac{\boldsymbol{I}\times\boldsymbol{r}}{\vert\boldsymbol{r}\vert^3}\mathrm{d}z$](img46.png) |
(9) |
である.ベクトルの積分となっており,通常はやっかいである.しかし,幸いなことに,
![$ \boldsymbol{I}$](img47.png)
と
![$ \boldsymbol{r}$](img48.png)
はいつも同じ平面内にあり,
![$ z$](img49.png)
の位置が変わってもベクトル積の向
きは変化しない.したがって,スカラーの積分を行った後,方向を考えればよい.
この結果と式(
5)を比べる.先の述べたように方向
は合っている.また,係数
![$ k$](img57.png)
を
![$\displaystyle k=\frac{\mu}{4\pi}$](img58.png) |
(11) |
とすれば,大きさも合う.したがって,微小領域
![$ \mathrm{d}z$](img59.png)
がつくる微小磁場
![$ \mathrm{d}
\boldsymbol{B}$](img60.png)
は
と考えても良い.普通,これをビオ-サバールの法則と言う.また,
![$ \boldsymbol{I}\mathrm{d}z$](img62.png)
を
![$ \mathrm{d}\boldsymbol{I}$](img63.png)
として,
![$\displaystyle \mathrm{d}\boldsymbol{B}=\frac{\mu}{4\pi}\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{I}\times\boldsymbol{r}}{\vert\boldsymbol{r}\vert^3}$](img64.png) |
(13) |
と書かれる場合もある.
式(
12)は,
![$\displaystyle \mathrm{d}\boldsymbol{B}=\frac{\mu}{4\pi}\frac{\boldsymbol{j}\times\boldsymbol{r}}{\vert\boldsymbol{r}\vert^3}\mathrm{d}z\mathrm{d}z\mathrm{d}z$](img66.png) |
(14) |
と書き表すことができる.ここで,
![$ \boldsymbol{j}$](img67.png)
は電流密度である.
![$ \mathrm{d}I=\mathrm{d}x\mathrm{d}
y$](img68.png)
をつかっている.
これから,磁場を観測する位置ベクトルを
とした場合の磁場は,
![$\displaystyle \boldsymbol{B}(\boldsymbol{r})=\frac{\mu}{4\pi}\int\frac{\boldsym...
...-\boldsymbol{r}^\prime)}{\vert\boldsymbol{r-r^\prime}\vert^3}\mathrm{d}V^\prime$](img70.png) |
(15) |
となる.これが磁場を表す方程式の全てである.これは,
と書き表すことができる.なぜならば,
![$ \boldsymbol{c}$](img72.png)
を定ベクトルとした場合,
が成り立つからである.
式(16)は,
![$\displaystyle \boldsymbol{B}(\boldsymbol{r})=\nabla\times \boldsymbol{A}(\boldsymbol{r})$](img78.png) |
(18) |
と書くことができる.ただし,
![$\displaystyle \boldsymbol{A}(\boldsymbol{r})=\frac{\mu}{4\pi} \int\frac{\boldsy...
...j}(\boldsymbol{r^\prime})}{\vert\boldsymbol{r-r^\prime}\vert}\mathrm{d}V^\prime$](img79.png) |
(19) |
である.この
![$ \boldsymbol{A}$](img80.png)
をベクトルポテンシャルと言う.ちょうど電場のときのスカラーポ
テンシャル
![$ \phi$](img81.png)
に対応している.
この式から磁場を表す微分方程式を求める.ベクトル場を表す微分方程式は,発散と回転
である.先の磁場を表す方程式に発散と回転の演算を行えばよい.この辺の話は,文
献 [
1]を参考にした.
式(16)から,直ちに,
![$\displaystyle \div{\boldsymbol{B}(\boldsymbol{r})}=0$](img82.png) |
(20) |
が求められる.なぜならば,回転の発散は恒等的にゼロとなるからである.
つぎに回転をもとめる.この場合,任意のベクトル場
に関しての恒等式
を使う.式式
(16)の両辺に回転の演算を施すと,
ここで,
|
![$\displaystyle \nabla\left(\frac{1}{\vert\boldsymbol{r-r^\prime}\vert}\right) =-\nabla^\prime\left(\frac{1}{\vert\boldsymbol{r-r^\prime}\vert}\right)$](img88.png) |
|
![$\displaystyle \nabla^2\left(\frac{1}{\vert\boldsymbol{r-r^\prime}\vert}\right) =-4\pi\delta(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime)$](img89.png) |
|
(22) |
を使う.これらの式については,
第5回の講義ノートを見よ.これらを使うと,
が得られる.
この式の右辺第一項を計算するために,任意のベクトル場
と任意のスカラー場
の積
の発散を考える.それは,
![$\displaystyle \div (f\boldsymbol{A})=\nabla f\cdot\boldsymbol{A}+f\div{\boldsymbol{A}}$](img95.png) |
(24) |
となる.これを少しばかり変形すると
が得られる.式(
23)のように微分が含まれる積分を行うときの定石であ
る.部分積分である.
式(25)を式(23)に適用すると,
![$\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{B}(\boldsymbol{r})$](img97.png) |
![$\displaystyle =\frac{\mu}{4\pi}\left[ \nabla\int\left(\frac{1}{\vert\boldsymbol...
...ime}\vert}\right)}\mathrm{d}V^\prime \right] +\mu\boldsymbol{j}(\boldsymbol{r})$](img98.png) |
(26) |
となる.このうち,左辺の第一項はゼロとなる.なぜならば,電荷保存則より静電場ではいつでも
![$ \div{\boldsymbol{j}}=0$](img99.png)
が成り立つからである.そして,右辺第二項は,ガウスの発散定理を使
うと,
![$\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{B}(\boldsymbol{r}) =-\frac{\mu}{4\pi}\na...
...dsymbol{r-r^\prime}\vert} \mathrm{d}S^\prime +\mu\boldsymbol{j}(\boldsymbol{r})$](img100.png) |
(27) |
が得られる.右辺第一項の積分は,全空間,すなわち宇宙全体にわたっての面積分である.
宇宙の端には電流が無い,あるいは電流密度が
![$ 1/r$](img101.png)
よりも早く小さくなると右辺第一項
はゼロになる.自然は,これら二つのうちどちらかを満たしている.なぜならば,ここで
観測している磁場は宇宙の果てからの影響を受けていない.したがって,静磁場の回転は,
![$\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{B}(\boldsymbol{r})=\mu\boldsymbol{j}(\boldsymbol{r})$](img102.png) |
(28) |
となる.電流密度は,磁場の回転(の密度)を作るのである.
ホームページ:
Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年7月25日