電場
は,発散を表す式(
5)と回転を示す式
(
6)の微分方程式を解けば計算できるが,大変である.一般
にベクトルの方程式を計算するのは簡単でない.一方,スカラー場
を計算し,その
勾配から電場を計算するのは比較的簡単である.電場だと
の3つの未
知数があるのに対して,ポテンシャルは
は未知数がひとつである.ポテンシャルか
ら電場を導くためには微分--勾配の計算--が必要であるが,それでも圧倒的に労力が少
ない.
それでは,スカラー場が満たす方程式を考えよう.復習で示した式
(11)のように,スカラー場の勾配が電場,
となる.これは,静電場をあらわす式(6),すなわち
を自動的に満足する.勾配の回転はゼロというベクトル恒等式
の示すとおりである.従って,残りは式(5),
である.これを,満足させるためには,
|
(14) |
とすればよい.したがって,スカラーポテンシャルをあらわす微分方程式は
となる.この式を「ポアソン方程式」と言う.また,領域に電荷がない場合は
となり,これを「ラプラス方程式」と言う.静電場の場合,一般的にはポア
ソン方程式で,電荷が無い特別な場合「ラプラス方程式」となる.
ポアソン方程式(15)は,スカラーの方程式なので解きやすい.
解きやすいといっても,これを直接計算するのは,そんなに易しいことではない.
計算はそんなに簡単ではないが,既にこの方程式の解は分かっている.先週,示したとお
り
が解である.これが,ポアソン方程式(
15)の解である.無限遠を基
準(
)としたときの任意の場所のポテンシャルを示す.この体積積分は,全宇宙に
わたって行う必要がある.解は分かっているが,この解を使ってポテンシャルを計算する
ことができるのは単純な問題に限られる.
それでは,微分方程式(15)をどうやって解くと言うのだ.式
17の問題点は,積分範囲が無限と言うことである.ブラウン
管の電子銃の電場を計算するために,全宇宙の電荷を計算することになる.原理的に正し
いが,そんなのはナンセンス.そこで,実際には有限な領域のみを計算対象とする.そし
て,その領域の端--境界--でのポテンシャルに条件を与える.境界条件を与えて,内部
でのみポアソン方程式を計算する.具体的な計算方法は,時間がないので述べないが,
- 鏡像法
- 直交関数による展開
- 等角写像を用いる方法.これ,複素関数論の講義で学習した?? この方法は結構
面白いし,役に立つ.
- 差分法.これについては,5年生の計算機応用の講義で示した.
- 境界要素法
- 有限要素法
というような方法がある.そのほか,いろいろな方法がある.
ポテンシャルが分かるとなにがうれしいか? それは,ポテンシャルはそれだけでも電圧
という物理的な意味がある.それだけでもうれしいが,それを微分することにより電場も
求められるのである.ポテンシャルが分かると静電場の問題は解けたと言える.
この計算はちょっと退屈だが,ポテンシャルを使って計算することの利点がはっきりする
ので,説明しておく.ポテンシャルから電場を計算する良い例である.
図3のように,電荷量の絶対値は等しいが符号が異なる2つの電
荷が近距離にあるようなものを電気双極子と言う.この電気双極子が作る電場を求めたい.
このような場を求める場合,ポテンシャルが大いに役立つ.
図3の点でのポテンシャルを計算する.ただし,
とする2.式
(17)で示したように,各々の電荷が作るポテンシャルの和と
なる.
ここで,
として,テーラー展開
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(19) |
を行う.これを使って,式
18の
の一次の項まで,計算する.
するとルートの部分のテイラー展開は
|
(20) |
となる.これを利用すると,
の一次の項までの計算は,
となる.ここで,双極子モーメント
を
|
(22) |
と定義する.すると,双極子が作るポテンシャルは,
|
(23) |
と書きあらわせる.
ポテンシャルが求まった.残りの問題は,これを微分して電場に直すことである.
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Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年7月12日