電磁場を統一したマクスウェルの方程式
3が発表されたのは,1864年のことである.この式から,運動する電荷が
磁場を作ると予見されていたが,それを実験的に確認することは困難であった.1878年ア
メリカの物理学者ローランドが,実験によりそれを確認した.ここで初めて,電荷の流れ
により電流が生じることが確かめられた.
帯電した円盤を回転させて,それにより磁石が力を受けることを実験的に確認したのであ
る.このときの磁場の測定精度は,地磁気の
程度とのことである [].それにしても,130年くらいまえに,このような精度で実験がなされた
ことに驚きである.この実験は,全てではないにしてもマクスウェルの方程式の正しさを
証明したと言えるだろう.その10年度,ヘルツの電磁波の確認により,その方程式は確固
たる地位を築いた.
電荷の流れが電流を作ることを諸君は既に知っているだろう.水の分子の流れが水流を作
るようにである.電流の場合,電荷は正負があり,正の電流の流れる方向を電流の方向と
定めている.実際の回路では,負の電荷を帯びた電子が電流を担う.従って,電子の流れ
と電流の流れは逆になっている.水にたとえるならば,水の分子の流れと,水流の流れが
逆になっているようなものである.多少不便はあるが,歴史的な経緯で,そのようになっ
てしまった.電子よりも先に電流が発見され,その方向が決められたことによる.
導線に流れる電流は,
と定義される.式で表すと,
である.ここで,

は電流,

は電荷量,

は時間を表す.この電流の単位として通
常はアンペア [A] が使われるが,これは[C/s]
4と同等である.SI
単位系では,クーロン[C]よりもアンペアの方が基本単位として用いられるので,電荷量
を[A

s]と書くこともある.
導線に流れる電流
は場の量としてふさわしくない.これは,導線の直径にわたっての
トータルの性質を表しているからである5.そこで,場の量として電流密度6
を定義することにする.電流
は明らかにスカラー量で
ある.これはある断面
を通り抜ける単位時間あたりの電荷量となる.ある微小断面積
,その法線ベクトルを
,微小電流量
とすると
となるであろう.なぜならば,図
1に示すように,どんな

で
もそこを通り抜ける電荷量は同一なので,

がかかる.これは,丁度法線ベク
トル

と電流密度ベクトル

とのスカラー積の計算になる.このようなこと
から,式(
2)が成立する.
このことから,ある断面
を貫く電流は,
と表すことができる.
ここでは,電流密度と電荷の関係を考える.そのため,風船のように体積をもつ閉じた系
を考える.この系の表面で先ほどの積分,式(
3)を適用する.この積分
が正の場合,それはこの体積中に電流が注入されることになる.すると,電流は電荷の流
れなので,電荷が時間とともにどんどん貯まることになる.あるいは,電荷がその体積中
で消滅するかである.いままで,電荷の消滅は観測されていない
7ので,後者は考えないものとする.従って,
先の式(
3)が正の場合,その中に電荷が貯まることになる.一方,負の
場合はその逆で電荷が減るのである.ゼロの場合,正味の電荷量に変化は無いことになる.
電荷は途中で消滅したり増加したりしない.これを電荷の保存の法則と言う.
式(1)を考えている系の表面で積分すると,系から出て
いく電流
が分かる.それは,
 |
(4) |
となる.この電流は,そこを通して出ていく時間あたりの電荷量

に等しい.電荷保
存の法則から,出ていった分,系内部の電荷量

が減少している.従って,
 |
(5) |
となる.このことから,
である.これは,外部に向かって電流が流れ出ると(左辺),内部の電荷量が減少すると言っ
ている.この式は電荷の保存の法則を,式で表したものである.電荷量

が場の量でないので,
場の量である電荷密度

に置き換えると,
となる.これが式で書いた電荷保存の法則(積分形)である.
場の量である電流密度
も電荷密度
も,場所と時間
の関
数である.時刻とともに,これらの場が変化しないとき定常状態と呼ぶ.従って,定常状
態では,
 |
 |
(8) |
となる.定常状態では,閉じた系のトータルの電流はゼロである.これは,内部で電荷量
の変動が無いことを示している.
諸君はガウスの発散定理をよく知っている.式
(
7)の右辺をガウスの発散定理を用いて書き直し,
左辺は微分と積分の順序を交換する.そうすると,
 |
(9) |
となる.この式は,いつでもどのような

でも成立する必要がある.そのためには,
 |
(10) |
となる必要がある.これを,微分形の電荷保存の法則という.電流密度の発散は,電荷密
度の変化の割合に等しいと言っている.積分形に比べて,何を言っているかは分かりにく
いが,理論的に話を進めるときには微分形の方が便利である.
この場合,定常状態は,
 |
(11) |
と表せる.定常状態では電流の発散は無い.これも積分形に比べて,何のことか分かりに
くい.
ホームページ:
Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年7月12日