以降の議論では、カーテシアン座標系と曲線座標系の関係について述べる。ここで取り扱 う曲線座標系は直交座標系に限る。曲線座標系と言っても、おなじみの円筒座標系や極座 標系のことである。これ以外にもいろいろな、直交曲線座標系はある。
カーテシアン座標系は特別な座標系ではなく、直交曲線座標系のひとつと考えられるが、 特別に良い性質がある。それは、線素や面積素、体積素がすぐにわかることである。その ため、カーテシアン座標系と曲線座標系を比較して、必要な諸量を計算する。
これら(3)(4)式は、特別なことを言っている
のではなく、ある直交座標系の位置ベクトルの成分
が決まれば、カー
テシアン座標系のそれ
が一意に決まると言っているにすぎない。また逆も、同
様に成り立つ。今までの経験でよく知っていることである。たとえば、ある任意
の点は、極座標の
で表現しても、カーテシアン座標で表現しても、一
意に表すことができる。
要するに3次元座標系の位置ベクトルは、3個の数値で表すことができるのである。その3 個の数値と取り方は、座標系に依存する。そして、それらには1対1の関係がある。
先に述べたように、ここでは直交曲線座標を取り扱う。したがって、ここで述べている曲
線座標系
のお互いの軸は、直交することになる。さらに、ここでは通常
使われる右手系のみを取り扱うことにする。
まずは、基底となる単位ベクトルを定義しておく必要がある。カーテシアン座標系と極座標系
(曲線座標系)の単位ベクトルを図2と
3に示す。これをみながら、以下の説明を理解してほしい。ま
ずわかりやすい、カーテシアン座標系からである。単位ベクトル
は、位置ベクト
ルの
成分を固定し、
,
をパラメーターとした
平面に垂直で、
が増加する
方向に向いている。従って、単位ベクトル
は
軸に平行で、
が増加する方向
に向いている。その大きさは1である。他の単位ベクトル、
や
も同じよ
うに説明できる。
、
、
平面の法線はそれぞれ直交しているので、単位ベクト
ル
もそれぞれ直交している。曲線座標でも事情は同じである。ベ
クトル
は、
成分を固定し、
,
をパラメーターとした
曲面に垂直で、
が増加する方向に向いている。さらに、それぞれの曲面、
、
、
曲面はそれぞれ直交2しているので、単位ベクトル同士も直交している。これらの単位ベクトルが
直交していることと、大きさが1であることは、
![]() |
(7) |
カーテシアン座標系と曲面座標系の単位ベクトルはよく似ているが、大きな違いがある。 それは、カーテシアン座標系ではどの位置でも単位ベクトルは同じであるが、曲面座標で は座標により単位ベクトルは異なる。このことが曲面座標を使うことの数学的な取り扱い を難しくしている。ただ、この取り扱いが少し難しくなる不利益よりも、多大な利益を得 ることができることがあるため、曲線座標が使われることが多い。
最後にひとつ注意を与えておく。これまではカーテシアン座標と他の直交座標
系
を分けて話した。しかし、カーテシアン座標系も直交座標系の一つ
であるため、
を
に置き換えても良い。置き換えかたも任意に決めて
良いのである。
ただし、ここでは右手系と取り扱うことにしたので、
![]() |
(9) |
![]() |
(10) |
曲線座標系の位置ベクトルの変化を考える。そのために、よく分かっているカーテシアン 座標系の式(3)から始め、曲線座標系に移る。この式の位置ベクト ルの全微分は、
ここで、曲線座標の変化を
とした場合を考える。このとき、位置ベクトルの
変位
は、
に曲面の法線方向に向いているのは明らかであろう。従って、
曲線に接していることになる。この変位はベクトルで、単位ベクトル
と平行になるのも明らかであろう。曲線座標の変化を
とし
た場合の変位ベクトル
は、式(11)を用いて計算すると
式(12)の右辺の括弧内のベクトルは、接ベクトルと呼ばれている。 接ベクトルは、それぞれの変位に対して決められ、
![]() |
前節に述べたように、接ベクトルと単位ベクトルの方向は一致している。そのため、
ここで定義したスケール因子の中には、接ベクトルが隠れているので、前節の内容 と矛盾しないばかりか、同じである。それにも関わらず、接ベクトルではなくスケール 因子を使のは、
残った問題は、スケール因子を求める具体的な方法である。それを導くために、式 (16)の両辺を2乗し、式(14)を代入す ると
式(16)の示すところをみると、スケール因子の2乗の計算は
簡単である。すると、スケール因子そのものは、その乗を計算すれば良いのである
が、符号の問題が残る。これは、スケール因子を決めている式(16)
を考えればよい。一般には、単位ベクトル
の方向は、
を増加させ
た方向とする。従って、
は正の値となる。
この結果をみてわかるように、は変位ベクトルの大きさを示し、長さの次元に
なる。
は長さの次元である必要はなく、角度等を用いて座標を表すことができるが、
スケール因子を乗じると長さの次元になるのである。
は一般化座標4とでも言うもので、スケール因子を乗じることにより長さの次元のおなじみの座標になる。
スケール因子と言う名前はその働きを、よく表している。
もっとよくスケール因子のイメージが湧くのは、座標をのみ変化させた場合である。
その場合の座標の変化(距離)を
とすると
表1に、実際の問題でよく使われる3つの座標系について、スケー ル因子を示す。これを求める手順は簡単で、次のようにする。
ここで示した曲線座標系とはことなるものについても、同じような方法でスケール因子を 求めることができるので、必要に応じて計算すればよい。