電磁気学の最初の学習はクーロンの法則から始めることが多い.教科書に沿って,ここで
もそれから始める.図
1に示すように2つの電荷の
間に働く力の関係を表すのが発見者の名前を付けてクーロンの法則という.教科書では,
それを
と書いている
3.ここで,
は力(単位は[N]),
と
力が作用する2つの電荷量(単位は
[C]),
は電荷間の距離(単位は[m])である.そして,
は比例定数
で,
がつくのは後で式を簡単にするためである.
は,真空中の誘
電率で
[F/m]である.力の方向は,電荷の積が負の場合引力,正の場合斥力
となる.
この力と重力の大きさを比べてみよう.2つの電子間に働く力の比は
となり,電気的なクーロン力の方が
倍も大きいのである.このことについて,
ファインマンは,次のように述べている [
1].
全ての物質は正の陽子と負の電子電子との混合体で,この強い力で引き合い反発しあっ
ている.しかしバランスは非常に完全に保たれているので,あなたが他の人の近くに立っ
ても力を感じることは全くない.ほんのちょっとでもバランスの狂いがあれば,すぐに
分かるはずである.人体の中の電子が陽子より1パーセント多いとすると,あ
なたがある人から腕の長さのところに立つとき,信じられない位強い力で反発するはず
である.どの位の強さだろう.エンパイア・ステート・ビルを持ち上げるくらいだろう
か.エベレストを持ち上げるくらいだろうか.それどころではない.反発力は地球全体
の重さを持ち上げるくらい強い.
この非常に強い力により,物質全体は中性になる.そうでないと,物質はバラバラになってし
まう.また,物質を電子や原子のオーダーで見ると,電荷の偏りがあり,そこではこのクー
ロン力が働く.この強い力により,原子が集合して,固い物質が形作られるのである.
そうなると,電子が原子核に落ち込んでしまうのではないか--という疑問が湧く.実際
にはそのようなことは起きていない.この現象は不確定性原理から説明がつく.仮りに,
電子が原子核に衝突するくらい狭いところに近づいたとする.そうなると,位置が正確に
分かるので,運動量の不確定性が増す.したがって,電子はとても大きな運動量を持つこ
とになる.すると,遠心力が大きくなり,原子核から離れようとする.近づこうとすると
大きな運動量を持つことになり,遠心力が働き近づけなくなるのである.
大きなクーロン力により,原子核がバラバラにならないのか--という疑問も湧く.例え
ばウラン235の原子核は,92個の陽子と143個の中性子からできている.その半径は,大体
である.この狭い中に,正の電荷をもつ92個の陽子が,クー
ロン力に抗して押し込められているのである.クーロン力によりバラバラにならない理由
は,強い力が作用しているためである.この強い力により,原子核ができあがっている.
最初に述べたように,強い力の範囲は
程度である.したがって,
ウランより大きな原子核を作ることは難しくなる.そのため,ウランより大きな原子番号
をもつ元素は自然では,存在しない.
ほとんどの元素の原子核では,クーロン力よりも強い力の方が圧倒的に大きい.そのため,
原子核は極めて安定となる.一方,ウラン235の場合,両者の力の大きさの差は小さく,
強い力の方がちょっとだけ大きい.そのため,他の物質に比べるとウラン235の原子核は
不安定となる.ちょっと刺激を与えると,原子核はバラバラになってしまう.原子核に中
性子をぶつけることにより,刺激を与えることができる.ウラン235原子核に中性子をぶ
つけるのが原子爆弾であり,原子力発電である.バラバラになった原子核は,クーロン力
により,とても高速に加速される.そのため,大きなエネルギー持ち,最終的には熱に変
わるのである.原子力といえども,そのエネルギーの源は電磁気力である.
式(
4)では,クーロンの法則をスカラー量で記述し
ている.左辺の力は,ベクトル量のはずである.そうすると,右辺もベクトルにする必要
がある.式(
4)を見直すと,それは力の大きさしか
述べてないことが分かる.クーロンの法則を正確に述べると,
- 2つの電荷の間に働く力の大きさは,電荷の積に比例し,距離の2乗に反比例する.
- 力の方向は,ふたつの電荷を結ぶ直線上にある.電荷の積が負の場合引力で,正
の場合斥力となる.
である.したがって,式(
4)はクーロンの法則の半
分しか述べていないのである.この2つのことを,一度に表現するために,ベクトルを
使う方が適切である
4.クーロンの法則は
と書くべきであろう.ここで,
は,電荷量
の物体が電荷量
の物
体に及ぼす力である.位置ベクトルのと力の関係は,図
2のとおりである.この式が言っていることは,「力の
大きさは距離の2乗に反比例し,電荷の積に比例する」と「力の方向は,ふたつの物
体の直線上を向いており,電荷の積が負のとき引力,正のとき斥力となる」である.
言葉で述べると複雑な現象が,ベクトルを用いると式
(6)のように簡単に書ける.ベクトル解析は,まことに
便利である.
クーロンの法則について,次のことについて考察してみよう.
- 世の中に電荷が2つしかないとする.この場合,それぞれの電荷の大きさ調べる手立てはあるか?.
- それでは,電荷が3つある場合はどうか?
- 電子の電荷は
[C]である.電子の電荷がなぜ負になっているか,考えてみよう?
- クーロン力は,距離の-2乗に比例する.なぜ,-2という丁度の数字なのか?.これは必然か?.-2.0001では不都合なのか?
- クーロン力は,各々の電荷の積の1乗に比例する.なぜ,1という丁度の数字なのか?.これは必然か?.1.00001では不都合なのか?
- 式からクーロン力の方向は,2つの電荷の延長線上である.延長線上である必然はあるか?.他の方向を向くとどのような不都合があるか?
自然界の力は,必ず作用・反作用の法則
- 物体Bが物体Aから力受けるとする.すると,物体Aも物体Bから力を受け,
その力はと大きさは同じで反対方向を向いている.さらに,両
者の力はお互いに一直線上にある.
が成り立っている.これが成立しないと,エネルギー保存側--正確には運動量保存則と
角運動量保存則--が破れることになり,永久機関ができてしまう.
クーロンの法則も,この作用・反作用の法則が成り立っていることを示す.電荷量
の物体がが電荷量の物体に及ぼす力
は,式
(6)のとおりである.逆に,電荷量の物体がが電
荷量の物体に及ぼす力
はどうなっているだろうか?.の物体につ
いてもクーロンの法則が成り立つはずであるから,この力を求めるためには式
(6)の添え字の1と2を入れ替えればよい.
式(6)と式(7)を比べると,
|
(8) |
の関係があることが分かる.この式は,2つの電荷に働く力の大きさが等しく,向きが反
対であると言っている.そして,これらの力は一直線上にある.これは,作用・反作用の
法則と呼ばれるものである.クーロンの法則も作用・反作用の法則が成り立っている.
クーロンの法則の発見の歴史的経緯はおもしろい
5.まず最初の登場人物は,ジョセフ・プリーストリーと,あのベン
ジャミン・フランクリンである.プリーストリーは,フランクリンにに示唆されて実験を
行い,中空の物体を帯電させて,その内側では電気的な作用が無いことを発見した.重力
の場合との類推で,電気的な力が距離の逆2乗で伝わると実験結果の意味を考えた.これ
と同じ原理で
6,1772年にキャベンディッシュは巧妙な実験を行い,かな
りの精度で逆2乗が成り立つことを発見した.変人キャベンディッシュは,その結果を公
表しなかった.そのため,最後にクーロンが登場することになる.クーロンは,1785年に
ねじれ秤を使った実験により,力の逆2乗の法則を発見し発表した.そして,それ以降,
クーロンの法則と呼ばれるようになった.
キャベンディッシュの実験は非常に巧妙で,クーロンのものよりも精度はかなり高かった
ようである.その実験は,今で言うノーベル賞級の発見ではあるが,彼はそれを公表しな
かった.その発見の価値も知っていたにも関わらずである.ということで,物理学者中の
変人ナンバーワンとしても良いだろう.
その後,キャベンディッシュは,ねじれ秤を使って,1789年に万有引力定数を測定してい
る7.ここでは,クーロンのねじれ秤を使っている
ことが,面白い.
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Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年5月26日