3 静電ポテンシャルとポアッソン方程式

3.1 最も有用な静電場の計算方法

電場 $ \boldsymbol{E}$は,発散を表す式(5)と回転を示す式 (6)の微分方程式を解けば計算できるが,大変である.一般 にベクトルの方程式を計算するのは簡単でない.一方,スカラー場$ \phi$を計算し,その 勾配から電場を計算するのは比較的簡単である.電場だと $ (E_x,\,E_y,\,E_z)$の3つの未 知数があるのに対して,ポテンシャルは$ \phi$は未知数がひとつである.ポテンシャルか ら電場を導くためには微分--勾配の計算--が必要であるが,それでも圧倒的に労力が少 ない.

それでは,スカラー場が満たす方程式を考えよう.復習で示した式 (11)のように,スカラー場の勾配が電場, $ \boldsymbol{E}=-\nabla\phi$となる.これは,静電場をあらわす式(6),すなわち $ \nabla\times \boldsymbol{E}=0$を自動的に満足する.勾配の回転はゼロというベクトル恒等式 の示すとおりである.従って,残りは式(5), $ \div{\boldsymbol{E}}=\rho/\varepsilon_0$である.これを,満足させるためには,

$\displaystyle \nabla\cdot\left(-\nabla\phi\right)=\frac{\rho}{\varepsilon}$ (14)

とすればよい.したがって,スカラーポテンシャルをあらわす微分方程式は

$\displaystyle \nabla^2\phi(\boldsymbol{r})=-\frac{\rho(\boldsymbol{r})}{\varepsilon}$ (15)

となる.この式を「ポアソン方程式」と言う.また,領域に電荷がない場合は

$\displaystyle \nabla^2\phi=0$ (16)

となり,これを「ラプラス方程式」と言う.静電場の場合,一般的にはポア ソン方程式で,電荷が無い特別な場合「ラプラス方程式」となる.

ポアソン方程式(15)は,スカラーの方程式なので解きやすい. 解きやすいといっても,これを直接計算するのは,そんなに易しいことではない.

計算はそんなに簡単ではないが,既にこの方程式の解は分かっている.先週,示したとお り

$\displaystyle \phi(\boldsymbol{r})=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \int_{V^\prime} ...
...{r}^\prime)}{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime\vert} \mathrm{d}V^\prime$ (17)

が解である.これが,ポアソン方程式(15)の解である.無限遠を基 準($ \phi=0$)としたときの任意の場所のポテンシャルを示す.この体積積分は,全宇宙に わたって行う必要がある.解は分かっているが,この解を使ってポテンシャルを計算する ことができるのは単純な問題に限られる.

それでは,微分方程式(15)をどうやって解くと言うのだ.式 17の問題点は,積分範囲が無限と言うことである.ブラウン 管の電子銃の電場を計算するために,全宇宙の電荷を計算することになる.原理的に正し いが,そんなのはナンセンス.そこで,実際には有限な領域のみを計算対象とする.そし て,その領域の端--境界--でのポテンシャルに条件を与える.境界条件を与えて,内部 でのみポアソン方程式を計算する.具体的な計算方法は,時間がないので述べないが,

というような方法がある.そのほか,いろいろな方法がある.

ポテンシャルが分かるとなにがうれしいか?.それは,ポテンシャルはそれだけでも電圧 という物理的な意味がある.それだけでもうれしいが,それを微分することにより電場も 求められるのである.ポテンシャルが分かると静電場の問題は解けたと言える.

3.2 電気双極子

この計算はちょっと退屈だが,ポテンシャルを使って計算することの利点がはっきりする ので,説明しておく.ポテンシャルから電場を計算する良い例である.

3のように,電荷量の絶対値は等しいが符号が異なる2つの電 荷が近距離にあるようなものを電気双極子と言う.この電気双極子が作る電場を求めたい. このような場を求める場合,ポテンシャルが大いに役立つ.

図 3: 電気双極子
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/electric_dipole.eps}

3$ P$点でのポテンシャルを計算する.ただし, $ \vert\boldsymbol{s}\vert\ll\vert\boldsymbol{r}\vert$とする2.式 (17)で示したように,各々の電荷が作るポテンシャルの和と なる.

$\displaystyle \phi(\boldsymbol{r})$ $\displaystyle =\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{q}{r_1}-\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{q}{r_2}$    
  $\displaystyle =\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\left[\frac{1}{r_1}-\frac{1}{r_2}\right]$    
     余弦定理より    
  $\displaystyle =\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\left[\frac{1}{\sqrt{r^2-\left(\frac{...
...eta}}-\frac{1}{\sqrt{r^2-\left(\frac{s}{2}\right)^2-rs\cos(\pi-\theta)}}\right]$    
  $\displaystyle =\frac{q}{4\pi\varepsilon_0r}\left[\frac{1}{\sqrt{1-\left(\frac{s...
...a}}-\frac{1}{\sqrt{1-\left(\frac{s}{2r}\right)^2+\frac{s}{r}\cos\theta}}\right]$ (18)

ここで,$ r/s\ll 1$として,テーラー展開

$\displaystyle f(1+\Delta x)\simeq f(1)+f^\prime(1)\Delta x+\frac{f^{\prime\prime}(1)}{2!}\Delta x^2+\cdots$ (19)

を行う.これを使って,式18$ (s/r)$の一次の項まで,計算する. するとルートの部分のテイラー展開は

$\displaystyle \frac{1}{\sqrt{1+\Delta x}}\simeq=1-\frac{1}{2}\Delta x$ (20)

となる.これを利用すると,$ (s/r)$の一次の項までの計算は,

$\displaystyle \phi(\boldsymbol{r})$ $\displaystyle \simeq\frac{q}{4\pi\varepsilon_0r}\left[\left(1+\frac{s}{2r}\cos\theta\right)-\left(1-\frac{s}{2r}\cos\theta\right)\right]$    
  $\displaystyle =\frac{q}{4\pi\varepsilon_0r}\frac{s}{r}\cos\theta$ (21)

となる.ここで,双極子モーメント $ \boldsymbol{p}$

$\displaystyle \boldsymbol{p}=q\boldsymbol{s}$ (22)

と定義する.すると,双極子が作るポテンシャルは,

$\displaystyle \phi(\boldsymbol{r}) =\frac{qs\cos\theta}{4\pi\varepsilon_0r^2} =...
...epsilon_0r^3} =\frac{\boldsymbol{p}\cdot{\boldsymbol{r}}}{4\pi\varepsilon_0r^3}$ (23)

と書きあらわせる.

ポテンシャルが求まった.残りの問題は,これを微分して電場に直すことである.

$\displaystyle \boldsymbol{E}$ $\displaystyle =-\nabla \phi$    
  $\displaystyle =-\nabla \frac{\boldsymbol{p}\cdot{\boldsymbol{r}}}{4\pi\varepsilon_0r^3}$    
  $\displaystyle =-\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\left[ \boldsymbol{p}\cdot{\boldsymb...
...\left(\frac{1}{r^3}\right)+ \frac{1}{r^3}\nabla (\boldsymbol{p}\cdot r) \right]$    
  $\displaystyle =-\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\left[ -3\boldsymbol{p}\cdot{\boldsymbol{r}}\frac{\boldsymbol{r}}{r^5}+ \frac{\boldsymbol{p}}{r^3} \right]$    
  $\displaystyle =\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\left[ -\frac{\boldsymbol{p}}{r^3} +\frac{3\boldsymbol{r}\left(\boldsymbol{r}\cdot{\boldsymbol{p}}\right)}{r^5} \right]$ (24)


ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年6月16日


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