7 レポート作成上の注意
学生実験のレポートは,将来,諸君が仕事をするときの報告書作成の訓練のためにある.
技術者は,さまざまなドキュメント--報告書,仕様書,計画書,提案書など--を作成す
る.ドキュメント作成は,技術者にとって最も重要な仕事のひとつである.そのため,技
術者教育を行う学校では,ドキュメント作成能力の育成に十分な時間をかけている.
レポートは,読者を想定して書かなくてはならない.自分の伝えたい内容が,読者に分か
りやすく伝わる必要がある.諸君が作成する実験のレポートの読者は,指導教員である.
しかし,諸君は,「指導教員」に対して報告書を書くのではなく,将来の「上司」あるい
は「客先」,「一般の消費者」を想定しなくてはならない.全てが分かっている「指導教
員」を想定の読者とすると,あまり訓練にならない.そこで,諸君が作成する学生実験の
レポートでは,実験内容を全く知らないが,ある程度の技術的素養のなる「他高専の学生」
とするのが良いだろう.これは,丁度,会社の上司や同僚に報告する場合と似た状況であ
る.
分かりやすいレポートを書くためには,読者の立場に立って考えることが重要であ
る.読者は何を知りたいのか? 自分が伝えたいことをどうすれば分かりやすく伝えること
ができるか?--をよく考えて,内容を吟味し,表現を工夫してレポートを記述しなくては
ならない.この場合,想定している読者の知識も考慮しなくてはならない.自分が書いたレ
ポートを「他高専の学生」という立場で読み直し,推敲を重ねると良いレポートができる.
実験のレポートに限らず,一般的な文書は文
段落
節
章というような階層構成となっている.教科書を見よ,この通りになって
いるはずである.このように記述すると,内容が整理され,読みやすい文書になる.実験
のレポートもこの階層構造を守らなくてはならない.
実験実習のレポートを構成する文や段落,節,章の書き方を説明する.詳細については,
参考文献 [2]を読むことを勧める.
- 文(sentence)
- 主語と述語があり,単語が集まって文ができる.良い文を書く
ためには,
- 一つの文で複数のことを述べない.
- できるだけはっきりと分かりやすい文を書く.あいまいな表現は避ける.
というようなことに心がけるべきである.
- 段落(paragraph)
- 文が集まり,段学ができる.段落を作成するためには,
- その段落内のトピックの内容を表す一つの文(トピックセンテンス)
を書く.それも,できるだけ段落の先頭に書く.
- 引き続く文は,トピックセンテンスに関連した内容でなくてはなら
ない.
- 一つの段落内で記述するトピックは一つにする.
というようなことに気をつけるべきである.
- 節(section)
- 段落が集まり,節ができる.章を変えるほどではないが,大きく話
題が変わるときには,別の節にして,新たにタイトルをつける.
- 章(chapter)
- 節が集まり,章ができる.章の構成方法は,次節で述べる.
普通,学生実験程度のレポートでは,章はなく,節からはじまる.節が,節
小節
小々節
小々々節
となっ
ている.
諸君のレポートの多くの問題は,段落ができていないことである.一つの節が文(1行)と
なっていたり,箇条書きしか書いていないものも多い.いくつかの段落があって,はじめ
て節となり,文章と呼ばれるものになる.将来のために,諸君は段落のある文章を書く努
力を行わなくてはならない.
ここの実験レポートでは,段落からなる節をきちんと書けるようになることを目指す.そ
のためにも,毎回のレポートの提出を課し,添削を行う.
レポートを書く場合,章立てが最も重要である.章立てが良いと,読者は読みやすいし,
記述する方も考えがまとめやすい.ようするに,整理された文書ができあがる.
文書によって,章立てはほぼ決まっている.会社で使う報告書や仕様書の章立てはその会
社でほぼ決まっている.また,論文の章立ても学会によってほとんど決まっており,どれ
も似たような構成となっている.学生実験の章立ても,大体の定型がある.この実験では,
次の示す章立て--実際には節--で,そこで述べている内容についてレポートに記述しな
くてはならない7.
あわせて注意事項も記述しているので,レポート作成時には,これを守らなくてはならな
い.
- 1 目的
-
どのような目的でこの実験を行ったか?--について書く.実験目的が,書か
れていれば,それに引き続く内容が理解しやすい.ここの内容は,指導書
に書かれている「目的」の通りに記述すればよい.
- 2 原理
-
ここでは,ライントレースカーの大まかな原理を記述する.大
まかな原理を最初に説明されると,読者は以降の詳細な内容が理解しやす
くなる.以下に注意して,原理を記述すること.
- 概ね指導書の通りに記述しても良いが,指導教員が学生向けに記述した内容
は,書き換える.あるいは,削除する.
- 3 ライントレースカーのハードウェアー
-
ライントレースカーのハード
ウェアーについて,その構成と動作が分かるように文章と図を使って説明
する.読者が知りたい内容は,大体次のようなことである.
- どのような部品や素子でライントレースカーができあがっているの
か?
- それがどのように動作して,ライントレースを行うのか?
- どのような回路になっているのか? それがどのように動作するのか?
その他,以下に注意すること.
- 実験機材の表を記述する必要は無い.本文中でこの表を引用するこ
とは無いからである.書きたければ,付録に書く.
- 4 ライントレースカーの制御
-
どのようにして,黒い線を検知し,
ライントレースをするのか?--を記述する.センサーの入力からモーターの
制御までの流れを,文章で記述する.さらに,指導書のプログラムのリス
ト1を引用して,動作を説明する.
- 5 実験結果
-
高速化に関して自分で工夫した内容を記述する.少なくと
も,以下の内容を記述しなくてはならない.
- ハードウェアーで工夫した内容.ハードウェアーについて工夫が無
ければ,記述の必要はない.
- 自分で工夫したソフトウェアーのリストとその説明.
- 高速化の結果.
- 6 考察
-
この実験を通して,自分で考えたことを記述する.例えば,次
のようなことを書く.
- コンテストで優勝したマシンと自分のマシンの差.もし,自分のマ
シンが優勝したならば,何が他のマシンとの差となったか?
- 自分のマシンの問題点.
- コンテストや様々な実験を通して,より高速のライントレースカー
を作成するための方法.
- 7 考察課題
-
問いに関して,自分で調べて,きちんとした文章で記述す
る.箇条書きのみ,図のみ,あるいは1文(sentence)のみではダメ.WEBや
文献のコピー(丸写し)は厳禁とする.もちろん,語尾のみを変えるのもダ
メ.調査した結果をまとめ,自分の文章に直して記述しなくてはならない.
- 8 感想
-
この章のみ想定する読者を「指導教員」とし,諸君の素直な感想を
書く.加えて,目的で記述した学習内容を鑑みて,実験を通して得られた
内容も述べなくてはならない.更に,この実験をよりよいものに変える方法-など積極
的な意見を書くとなお良い.
章立てをはっきりさせるためには,見出し(節のタイトル)のフォントを変えると良い.指導書で
は,全ての見出しはブロック体とし,サイズも変化させている.諸君の提出する実験のレポート
も見出しのフォントとサイズを変化させて,読者に分かりやすくなるように工夫しなくてはならない.
この実験は,4回(150分4)で行うが,レポートは2回目以降,必ず提出すること.各回の
レポートの内容は,表3の通りとする.レポートの章立ても,この表の通
りにすること.
表 3:
実験回数毎のレポートの内容
実験回数 |
レポート内容 |
2回目 |
1.目的 |
|
2.原理 |
|
3.ライントレースカーのハードウェアー |
|
7.考察課題 |
3回目 |
4.ライントレースカーの制御 |
4回目 |
5.実験結果 |
1週間後 |
6.考察 |
|
8.感想 |
ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年12月27日