4.2 原理

4.2.1 真性半導体

一般に物質は電気の通しやすさという点に注目すれば、電気を通しやすい導体、通しにく い絶縁物、およびその中間に位置する半導体の三つに大別される。そして、半導体には電 気伝導が主にイオンによって行われるイオン伝導性半導体と電子によって行われる電子伝 導性半導体がある。

接合形トランジスタは電子伝導性半導体を接合する構造になっているので、以下にその仕 組みの概要を述べる。純粋な半導体としてはゲルマニウム(Ge)やシリコン(Si)がよく知ら れているので、Geを例にとって説明する。

純粋なGeの単結晶は図4.1のようなダイヤモンド構造と呼ばれる極めて安 定な結晶構造をしている。4族の元素であるから4個の価電子を持っているが、これらの 価電子がそれぞれ4個の隣の原子の方へ一個ずつ配置され、同時に4個の隣の原子からも 1個ずつの価電子がこの方向に配置されて、2個の価電子を隣同士で共有結合することに なる。

4.2はこの様子を平面化して描いたものではあるが、Geの単 結晶中には常温でも極めてわずかではあるが、価電子が飛び出している。そして、光や熱 のエネルギーによって飛び出した電子が伝導電子(自由電子)となって半導体の性質を現す のである。

図 4.1: ゲルマニウムの結晶構造
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.7]{figure/semicn/Ge.eps}
図 4.2: ゲルマニウム中の電子と正孔
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.7]{figure/semicn/Ge_electron.eps}

このように価電子が伝導電子になって飛び出したあとには共有結合部に伝導電子と同数の 電子の抜けた穴を生ずるが、この穴は電気的中性の所から負電荷を持った価電子が伝導電 子となって飛び出すから正の電荷を持つことになる。これを正の電荷を持つ穴という意味 で正孔(positive hole)と言う。したがって、純粋な半導体では伝導電子と正孔の数は全 く等しい。このように不純物を含まない半導体を真性半導 体と言う。

半導体の中にこのような正孔を生ずると、この正孔は近くの他の共有結合部から価電子を 奪い取って中性になり、奪い取られた所にまた正孔を生ずる。以下同様の過程を順に繰り 返して、正孔は図のように結晶内を比較的自由に動き回ると考えられる。そして、もしこ れに電界が加えられると、この穴は伝導電子と反対の方向に動く。すなわち、電気伝導現 象に関しては、この穴は見掛け上電子と同じ大きさの反対符号の電荷を持ち、ほぼ同程度 の質量を持つ粒子のような行動をとると考えてよい。

したがって半導体中の伝導は正確には電子の移動によるものであるが、結果的には伝導電 子(自由電子)と正孔の二つが電荷を運ぶと考えることができる。これらは電荷を運ぶと言 う意味でキャリア(carrier)とも呼ばれ、一般的には正孔は$ \circ$印、電荷は$ \bullet$ 印で表すことが多い。

4.2.2 不純物半導体

純粋半導体の単結晶中に微少量の不純物を混入した物を不純物半導体と言う。そして、不 純物半導体は混入する不純物の種類によってN型半導体とP型半導体とに分けられ、トラン ジスタはこれら2種類の半導体を巧みに組み合わせた物である。

4.2.2.1 N型半導体

純粋なGeの単結晶に、例えば5価のヒ素(As)を極めて微少量(Ge原子$ 10^7$個の中にAs 原子1 個程度)混入したとすれば、Asの価電子5個のうち4個は隣接するGeの4個の価電子 と共有結合を形成するが、初めから1個だけが共有にあずからない伝導電子として残る (4.3)。この電子は常温の熱エネルギーでも比較的自由に運動するこ とができ、伝導電子が移動すればこのAs原子は正イオンになる。このように共有結合にあ ずからない余分の伝導電子を与える不純物をドナー(donor)不純物または単にドナーと言 う。そして、このような不純物の混入された半導体をN型半導体と言う。
図 4.3: GeにAsを添加したN形半導体
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/semicn/Ge_As.eps}

4.2.2.2 P型半導体

純粋なGeの単結晶に、例えば3価のインジウム(In)を極めて微少量混入したとすれば、In の価電子は3個だけであるから、隣接する4個のGeと共有結合しようとしても、共有結合に 一箇所だけ電子が不足する空所が生ずる(図4.4)。この穴は他の原子 の伝導電子が近付けばこの中に電子を受け入れ、In原子は負イオンになる。この場合、伝 導電子の抜けた穴は前述の正孔になる。このように混入することによって半導体の中に正 孔が多くなる不純物をアクセプタ(acceptor)不純物または単にアクセプタと言う。そして、 このような半導体をP型半導体と言う。以上のように半導体の電気伝導は伝導電子(以下単 に電子という)によるものと正孔によるものとの2種類があり、純粋な半導体では電子と 正孔とが同数であるが、これに不純物が混入されたN 型半導体ではキャリアとしての電子 の方が多く、P型半導体では、正孔のほうが多い。この場合多い方のキャリアを多数キャ リア(majority carrier),少ない方のキャリアを少数キャリア(minority carrier)という。

このように不純物半導体の内部には多数キャリアと少数キャリアが同時に存在し、これが PN接合の性質やトランジスタの機能に極めて重要な働きをしている。

図 4.4: GeにInを添加したP形半導体
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/semicn/Ge_In.eps}

4.2.2.3 PN接合の働き

一つの単結晶において図4.5のような接合面を堺にして一方がP 型、他方がN 型になっている半導体をPN接合(PN junction)と言い、このような接合は整 流作用を表す。
図 4.5: PN接合の模式図
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.85]{figure/semicn/PN_junction.eps}
以下にこの整流作用の原理について述べる。図4.6の左図は無 電圧の状態で、P領域とN領域にはそれぞれ多数キャリアとしての正孔と電子が点在してい る。実際には、キャリアー以外に、図4.6の右図のように、 P型半導体中には正孔のすぐそばに3価の負に帯電したアクセプタ原子があり、一方N型半 導体中には電子のすぐそばに5価の製に帯電したドナーがある。そして全体で電気的に中 和したPN接合を造っているのである。そして、N形半導体内部の電子はP形半導体へ、P形半導体内部の正孔はN形半導体へ拡 散する。そうすると、各々の電子と正孔は再結合して消滅する。そして、キャリアーが無 く、移動できない正負の原子がある空乏層が形成される (図4.7)。図に示すように、空乏層内はキャリアーは無い が電荷が存在するので、電圧(ポテンシャル)差が発生する。こうなると、拡散によるキャ リアーの移動ができなるなる。
図 4.6: P形N形半導体内の多数キャリアー
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.85]{figure/semicn/PN_junction2.eps}
図 4.7: PN接合の空乏層
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.85]{figure/semicn/depletion_layer.eps}

次にPN間に電圧を加えた場合について考えてみよう。図4.8はP 型に負、N型に正の電位になるように電圧を加えた場合である。こうすると、N領域の電子 とP領域の正孔は互いに反対方向に移動して、空乏層が広がる。空乏層が広がり、そこで のポテンシャル障壁(電圧)も高くなる。このような状況ではキャ リアーは移動することができず、電流はほとんど流れない4.1。このような電圧のかけ方を逆方向電圧、 あるいは逆バイアスと言う。

次にこれとは反対に図4.11のように電圧を印可する。こうすると、 図のように接合面に向かって多数キャリアーが移動する。こうなると、空乏層が狭くなり、 ポテンシャル障壁も低くなる。すると、多数キャリアーが接合面を越えて移動できるよう になり、電流が流れる。この外部電池の接続の仕方を順方向電圧をかけたといい、この電圧 を順方向電圧または順方向バイアス電圧という。また、このときの電流の流れる方向の抵 抗を順方向抵抗と言う。

以上のように、PN接合型半導体の両端に交流電圧が加えられると、順方向の電圧が加わっ たときだけPからNへ電流が流れ、反対の電圧が加わったときには電流は流れない、いわゆ る整流作用がおこなわれたのである。このような整流作用を持つ素子をダイオードという。

図 4.8: 逆方向に電圧を加えた場合
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.85]{figure/semicn/gyaku_bias.eps}
図 4.9: 順方向に電圧を加えた場合
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.85]{figure/semicn/jyun_bias.eps}

4.2.2.4 PNP接合の働き

前述のPN接合のN側にもう一つP型をつけたPNP接合(図4.10)につい て述べる。この場合一方のP型をエミッタE、他方のP型をコレクタC、中央のN型をベースB と呼ぶ。図4.11は電圧を加えない状態でP型領域とN型領域にはそ れぞれ正孔と電子が多数キャリアーとして存在している様子を示している。

図 4.10: トランジスターの模式図
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.85]{figure/semicn/tr_model.eps}
図 4.11: トランジスターのキャリアー
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.85]{figure/semicn/tr_carrier.eps}

この状態で、図4.12のようにエミッターEに正、コレ クタCに負の電圧を加える。E-B間は順方向であるが、B-C間は逆方向なので、EとCとの間 にはほとんど電流が流れない。次に図4.13のようにベースBに負、 エミッタEに正の電圧を加える。これは順方向の電圧であるから、エミッタEの正孔はベー スに向かって流れ込む。ところが、ベースの幅は極めて薄い(数十ミクロン)から、大部分 の正孔はベース領域を通り抜けてコレクタ側のP形との境界面まで到達するようになる。 そしてここまで来ると、正孔はコレクタCに加わっている負の電圧のため吸引されてコレ クタ側に急に吸い込まれる。このとき(正孔がベース領域を通過する際)、その一部はごく わずかではあるがベース電流$ I_B$となる。しかし、大部分のエミッタに流れ込んだ正孔、 エミッタ電流$ I_e$ の95〜99%がコレクタ電流$ I_c$になる。したがって、 $ I_E$, $ I_B$, $ I_C$の間には次のような関係がある。

$\displaystyle I_E=I_B+I_C$ (4.1)

以上のようなP形とN形の半導体を接合したものをバイポーラートランジスター(Bipolar transistor)と言う。これは電子と正孔の2つがキャリアーとなって、電流を流すため、そ のように呼ばれる4.2

トランジスタにはPNP接合以外にNPN接合の物もあるが、電源の極性を逆にすれば同様の働 きをする。

図 4.12: エミッターとコレクター間に電圧
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.85]{figure/semicn/emitta_g_without_base.eps}
図 4.13: エミッター接地回路

4.2.2.5 トランジスタの接続法

4.13のようにエミッターEの所で共通になっている接続をエミッ ター接地(grounded-emitter type)という。これに対して図4.14のよ うにベースBの所で共通になっている接続をベース接地(grounded-base type),図 4.15のようにコレクターCの所で共通になっている接続をコレク ター接地(grounded-collector type)と言い、この三つの接続方法が考えられる。すなわ ち、トランジスタの基本回路にはこのような3種類の接続方式がある。

本実験では、これら3種類のうちエミッタ接地回路について、その静特性を測定する。

図 4.14: ベース接地
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.85]{figure/semicn/base_g.eps}


図 4.15: コレクター接地
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.85]{figure/semicn/collecter_g.eps}

ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成17年5月13日


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