接合形トランジスタは電子伝導性半導体を接合する構造になっているので、以下にその仕 組みの概要を述べる。純粋な半導体としてはゲルマニウム(Ge)やシリコン(Si)がよく知ら れているので、Geを例にとって説明する。
純粋なGeの単結晶は図4.1のようなダイヤモンド構造と呼ばれる極めて安 定な結晶構造をしている。4族の元素であるから4個の価電子を持っているが、これらの 価電子がそれぞれ4個の隣の原子の方へ一個ずつ配置され、同時に4個の隣の原子からも 1個ずつの価電子がこの方向に配置されて、2個の価電子を隣同士で共有結合することに なる。
図4.2はこの様子を平面化して描いたものではあるが、Geの単 結晶中には常温でも極めてわずかではあるが、価電子が飛び出している。そして、光や熱 のエネルギーによって飛び出した電子が伝導電子(自由電子)となって半導体の性質を現す のである。
このように価電子が伝導電子になって飛び出したあとには共有結合部に伝導電子と同数の 電子の抜けた穴を生ずるが、この穴は電気的中性の所から負電荷を持った価電子が伝導電 子となって飛び出すから正の電荷を持つことになる。これを正の電荷を持つ穴という意味 で正孔(positive hole)と言う。したがって、純粋な半導体では伝導電子と正孔の数は全 く等しい。このように不純物を含まない半導体を真性半導 体と言う。
半導体の中にこのような正孔を生ずると、この正孔は近くの他の共有結合部から価電子を 奪い取って中性になり、奪い取られた所にまた正孔を生ずる。以下同様の過程を順に繰り 返して、正孔は図のように結晶内を比較的自由に動き回ると考えられる。そして、もしこ れに電界が加えられると、この穴は伝導電子と反対の方向に動く。すなわち、電気伝導現 象に関しては、この穴は見掛け上電子と同じ大きさの反対符号の電荷を持ち、ほぼ同程度 の質量を持つ粒子のような行動をとると考えてよい。
したがって半導体中の伝導は正確には電子の移動によるものであるが、結果的には伝導電 子(自由電子)と正孔の二つが電荷を運ぶと考えることができる。これらは電荷を運ぶと言 う意味でキャリア(carrier)とも呼ばれ、一般的には正孔は印、電荷は 印で表すことが多い。
このように不純物半導体の内部には多数キャリアと少数キャリアが同時に存在し、これが PN接合の性質やトランジスタの機能に極めて重要な働きをしている。
次にPN間に電圧を加えた場合について考えてみよう。図4.8はP 型に負、N型に正の電位になるように電圧を加えた場合である。こうすると、N領域の電子 とP領域の正孔は互いに反対方向に移動して、空乏層が広がる。空乏層が広がり、そこで のポテンシャル障壁(電圧)も高くなる。このような状況ではキャ リアーは移動することができず、電流はほとんど流れない4.1。このような電圧のかけ方を逆方向電圧、 あるいは逆バイアスと言う。
次にこれとは反対に図4.11のように電圧を印可する。こうすると、 図のように接合面に向かって多数キャリアーが移動する。こうなると、空乏層が狭くなり、 ポテンシャル障壁も低くなる。すると、多数キャリアーが接合面を越えて移動できるよう になり、電流が流れる。この外部電池の接続の仕方を順方向電圧をかけたといい、この電圧 を順方向電圧または順方向バイアス電圧という。また、このときの電流の流れる方向の抵 抗を順方向抵抗と言う。
以上のように、PN接合型半導体の両端に交流電圧が加えられると、順方向の電圧が加わっ たときだけPからNへ電流が流れ、反対の電圧が加わったときには電流は流れない、いわゆ る整流作用がおこなわれたのである。このような整流作用を持つ素子をダイオードという。
この状態で、図4.12のようにエミッターEに正、コレ クタCに負の電圧を加える。E-B間は順方向であるが、B-C間は逆方向なので、EとCとの間 にはほとんど電流が流れない。次に図4.13のようにベースBに負、 エミッタEに正の電圧を加える。これは順方向の電圧であるから、エミッタEの正孔はベー スに向かって流れ込む。ところが、ベースの幅は極めて薄い(数十ミクロン)から、大部分 の正孔はベース領域を通り抜けてコレクタ側のP形との境界面まで到達するようになる。 そしてここまで来ると、正孔はコレクタCに加わっている負の電圧のため吸引されてコレ クタ側に急に吸い込まれる。このとき(正孔がベース領域を通過する際)、その一部はごく わずかではあるがベース電流となる。しかし、大部分のエミッタに流れ込んだ正孔、 エミッタ電流 の95〜99%がコレクタ電流になる。したがって、 , , の間には次のような関係がある。
(4.1) |
以上のようなP形とN形の半導体を接合したものをバイポーラートランジスター(Bipolar transistor)と言う。これは電子と正孔の2つがキャリアーとなって、電流を流すため、そ のように呼ばれる4.2。
トランジスタにはPNP接合以外にNPN接合の物もあるが、電源の極性を逆にすれば同様の働 きをする。
本実験では、これら3種類のうちエミッタ接地回路について、その静特性を測定する。