定理 4.1
任意の領域のベクトル場は,その内部で発散と回転を与え,そして領域の境
界での法線方向の成分を与えれば,一意に決まる.
この定理のなにがうれしいかというと,ベクトル場を記述する微分方程式は,回転と発散
で良いと言うことを示していることである.いろいろな法則は微分方程式で記述しなくて
はならないが,ベクトル場の場合は回転と発散の値を決めれば,ベクトル場が決まると言
うことである.境界条件は必要であることは言うまでもない.
ベクトル場を表す微分方程式
が分かったのでその解を示す.ここで,
は位置ベクトルを表す.先に示したように,これらの方程式と境界上でのベクトル
の法線方向の値を決めれば,ベクトル
は一意に決まる.
結論から先に言うと,ベクトル
は,
となる.ここで,
はスカラポテンシャル,
はベクトルポテン
シャルで次のようにして計算できる.計算するときの座標系は,図
6
の通りである.積分の範囲は無限遠までである.
これが本当に成り立つか証明しなくてはならない.そのためには,式(50)が
表すベクトル場
と,式(51)と式(52)が
つくるベクトル場
が等しいことをいえばよい.ベクトル場が等しいため
には,前節の「ベクトル場を決めるもの」で述べたように,おのおののベクトル場の発散
と回転が等しいことを言えばよい.式(50)が表すベクトル場
の発散と回転は,それぞれ
と
である.
したがって,式(51)と式(52)がつくるベクトル場
が式(50)のベクトル場と等しくなるためには,
となる必要がある.なぜならば,回転の発散はゼロだし発散の回転もゼロで,ベク
トル場は発散と回転を決めれば一意に決まるからである.したがって,これらの式を証明
することになる.
[注意]これらの式の演算子
は全て,プライムのつかない
座標に作用する.
まず最初の式(
53)を証明する.
は
とスカ
ラーラプラス演算子に書き換えてもよい.さらに,このラプラス演算子は座標系
に作用し,積分は
に作用する.したがって,積分と微分の順序を入れ換
えてもよい.式(
53)の左辺は,
となる.これで,式(
53)が証明できた.
つぎに式(
54)を証明する.この証明には,任意のベクトル場
に
ついて成り立つ,ベクトル恒等式
|
(56) |
をつかう.右辺の
はベクトルラプラス演算子であることに注意が必要である.
この恒等式を使うと,式(
54)の左辺は,
となる.
はじめに,右辺第一項を計算する.演算子は
のみに作用するので,
|
(58) |
となる.また,部分積分も必要
5となるのでそれも示す.ベクトル場の微分から,
|
|
(59) |
が得られる.これらの式と式(
30)を用いて
計算すると式(
57)の右辺第一項に関して以下を得る.
次に式(57)の右辺第二項を計算する.はじめにベクトルラプラス演
算子を丁寧に計算する.被積分関数は
となる.これと,式(
29)を使うと,この右辺第二項は
となる.
式(60)と式(62)より,式(57)は,
となる.このうち,右辺第一項は式(
50)の第二式より,直ちにゼロになるこ
とが分かる.回転の発散は恒等的にゼロになるからである.右辺第二式は問題で,
が
よりも早くゼロに近づけば,積分範囲を無限にとればゼロにな
る.あるいは無限遠点で
がゼロになれば,積分はゼロになる.電磁義気
学で現れる量はこの条件を満たす.要するに無限遠では何もない--ということである.
全宇宙の端は何もないと考える.こうしないと,式(
52)の積分は発散し
てしまう.このように少しだけ制限はあるものの,式(
57)は,
|
|
(64) |
となり,式(
54)が証明できた.
以上より,ベクトル場を表す微分方程式(50)の解は,式(51)
と式(52)で表すことができる.諸君はベクトル場を表す微分方程式とそ
の解を得たことになる.
先に示したように,任意のベクトル場は渦無し(irrotational)と管状
(solenoidal)
6の和であらわすことができる.すなわち,次のように
である.
任意のベクトル場は,渦無しと管状のベクトル場から出来上がっている.言い替えると,
ベクトル場は渦無しと管状の2種類がある.これを
ヘルムホルツの定理と言う.
渦無しと管状の意味を述べておいた方がよいだろう.
から作られるベクト
ル場は渦無しである.これは
から,わかる.回転がゼロなので,渦無しである.一方,
であるから,
から作られるベクトルは管状である.
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Yamamoto's laboratory著者:
山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年7月5日