雑多な基本事項
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加速空洞伝送線路と共振器の回路モデル伝送線路 (導波管) と共振空洞を回路モデルで取り扱う方法を示します. 目次はじめにいわゆるリニアック (Linac: Linear Accelerator) の高周波加速空洞には,定在波型と進行波型の加速管があります.定在波で加速するのか,進行波で加速するのかの違いです.これらの加速空洞内の電磁場を正確に取り扱うためには,三次元の解析が必要です.しかし,加速空洞の物理的な理解には三次元解析が良いとは限りません.基本的な理論を理解しないで,いわゆる力技の三次元シミュレーションで設計を行うと,とんでもないことになることがあります.非常に不安定な加速器を設計しているのを見たことがあります.理論的な側面を理解するためには,本質を失わない簡単なモデルで解析してみることを勧めます. 簡単なモデルと言っても,それを簡単に導くことは簡単ではありません.こういう場合,通常は先人たちの知恵を拝借するのが良いでしょう.ここでは,定在波型加速管の特性を等価回路モデルで示します.これは二重に有用です.(1)初学者に定在波型加速管の本質を示す,(2)実際の設計でパラメーターを決定する — に使うことができます. 電圧と電流,エネルギーの流れ図のような伝送線路を考えます.片側がグランド (電圧が 0 [V] に接地) されています.もう一方の導線の電圧\(V\)の正負と電流\(I\)の正負をは図のとおりです.エネルギーの流れ\(P\)は,\(P=IV\)となります.左から右にエネルギーが流れるときには,電池は図あるいは図のように接続されています.右から左に流れる時も同様にふた通りの接続方法があります.
ここで言いたいことは,「電圧と電流の正負を決めたら,エネルギーの流れが決まる」と言うことです.伝送線路を考える場合,電圧には基準があり,電流とエネルギーは方向があることを理解しなくてはなりません.これは,ポインティングベクトルを考えたら当たり前のことです. 伝送線路と負荷接続ここでは,伝送線路とそれに負荷を接続した場合の取り扱いを示します.重要な概念は,伝送線路の特性インピーダンスと負荷のインピーダンスです. 伝送線路の特性インピーダンス伝送線路のインピーダンスの基本的な考え方を示します.インピーダンスの概念は非常に単純で,それは電圧と電流の比を表します.これは抵抗と同じですが,伝送線路の場合,少しばかり意味合いが異なります.いわゆる周波数の低い電気回路には伝送線路のインピーダンスという概念はありません.伝送線路の電圧と電流の比は,それに接続された抵抗の比になります (図). 周波数が高くなると,この伝送線路のイメージを変えなくてはなりません.伝送電路の電圧と電流の比 (インピーダンス) は,接続される抵抗では決まりません.伝送線路の形で決まります.例えば,インピーダンス50Ωの同軸ケーブルは内軸の外径と外軸の内径で決まります.これは同軸ケーブル内の進行波の電場と地場の比になります.接続する抵抗とは無関係なです. 回路モデルでは,伝送線路のインピーダンスはそこに流れる電圧と電流の比になります.図のように,左から右にエネルギーが流れている場合,伝送線路のインピーダンスは \begin{align} Z_0 = \cfrac{V}{I} \end{align}と定義されます.左から右にエネルギーが流れる場合も同じ定義です.エネルギーの流れる方向に関係なく,インピーダンスは正の値です. エネルギーの流れる方向に関係無く,伝送線路を流れる進行波の電圧と電流の比はいつも一定です.それをインピーダンスと言います. 進行波と後進波伝送線路を伝わる進行波と後進波について説明します.いずれも,Travelling Wave (これも進行波と言う) です.進行波の電圧と電流は (\(V_f, I_f\)),後進波は (\(V_r, -I_r\))で表します.電圧と電流の正負の符号は図の通りです.それぞれの電圧 (\(V_f, V_r\)) と電流 (\(I_f, I_r\)) の値が正の時,進行波は右に,後進は左に進みます.これを波として扱うためには,進行波の電圧\(V\)と電流は \begin{align} &V=V_fe^{i(\omega t-k_x x+\phi_f)}& &I=I_fe^{i(\omega t-k_x x+\phi_f)}& \end{align}です.ここで,\(\omega\)は波の角振動数,\(k_x\)は波数,\(\phi_f\)は初期位相です.指数関数の部分を \(e^{i(k_z z-\omega t+\phi_f)}\)としても,本質的な議論は変わりません.ただし,式の見通しが良い/悪いことがありますので,その場合は上手に表現を選択する必要があります. 同様に,後進波は \begin{align} &V=V_re^{i(\omega t+k_x x+\phi_r)}& &I=-I_re^{i(\omega t+k_x x+\phi_r)}& \end{align}となります.両方が存在する場合,定在波が生じます.これらの波は同じ伝送線路 (特性インピダンス: \(Z_0\)) を移動します.したがって,電圧と特性インピーダンスでを使い電流を (\(V_f/Z_0, -V_r/Z_0\)) と表現することも可能です. 伝送線路に負荷接続純抵抗を接続インピーダンス\(Z_0\)の伝送線路に純抵抗 \(Z_L\) を接続した場合を考えます.この場合,次の条件が成り立ちます.
一見すると,矛盾した条件のようにに思えます.一般的に, \(Z_L\) と \(Z\) は異なるからです.しかし,この矛盾は反射波 (前節の後進波) を導入することで解消できます.すなわち,負荷を接続した場所\(x=x_0\)で \begin{align} Z_L &= \cfrac{V_f e^{i(\omega t-k_x x_0+\phi_f)} + V_re^{i(\omega t+k_x x_0+\phi_r)}}{I_f e^{i(\omega t+k_x x_0+\phi_f)} - I_r e^{i(\omega t-k_x x_0+\phi_r)}}\nonumber\\ \nonumber\\ &=\cfrac{V_f e^{i(-k_x x_0+\phi_f)} + V_re^{i(k_x x_0+\phi_r)}}{I_f e^{i(-k_x x_0+\phi_f)} - I_r e^{i(k_x x_0+\phi_r)}}\nonumber\\ \nonumber\\ &=Z_0\cfrac{1+(V_r/V_f)e^{i(2k_x x_0+\phi_r-\phi_f)}}{1-(V_r/V_f)e^{i(2k_x x_0+\phi_r-\phi_f)}} \label{eq:connect_Z} \end{align}となります.左辺は純実数なので右辺の指数関数 \(e^{i(2k_x x_0+\phi_r-\phi_f)}\) の値は,1 か -1 でなくてはなりません.これらのうち,物理的にありえる値は 1 に限られます.なぜならば,\(e^{i(2k_x x_0+\phi_r-\phi_f)}=-1\) の場合,\(Z_L\)が負になります.\(V_r/V_f < 1\)に注意が必要です.したがって, \begin{align} Z_L=Z_0\cfrac{1+(V_r/V_f)}{1-(V_r/V_f)} \end{align}です.抵抗が接続された場所を \(x=0\),初期位相を \(\phi_r-\phi_f=0\) として,一般化できます.すなわち,伝送線路の端に純抵抗を接続した場合,進行波と反射波は常に同相です. 一見矛盾した要請,すなわち伝送線路と負荷のインピーダンスが異なりそれぞれ電流と電圧の比が決まっていても,自動的に境界条件は満足されます.言い方を換えれば,境界条件を満足させるために反射波が生じます. 複素インピーダンスを接続先の例では,伝送線路に抵抗 (インピーダンスが純実数) を接続しました.これを発展させ,インピーダンスが複素数,すなわちキャパシタンスやインダクタンス成分がある場合について取り扱います.この様子を図にしめします.この場合でも,先の議論は成り立ちます.唯一異なるのは,反射波と進行波の位相です.ここでは,同相になりません.式で表すと, \begin{align} Z_L=Z_0\cfrac{1+(V_r/V_f)e^{i\phi}}{1-(V_r/V_f)e^{i\phi}} \end{align}です. 伝送線路からみたインピーダンス次に,負荷から距離\(\ell\)離れた場所からインピーダンスを考えます.図に示すように,伝送線路の端に複素インピーダンス \(Z_L\) の負荷を取り付けます.そして,図中の a — a から負荷側を見た場合のインピーダンス (電圧と電流の比) を計算します.具体的には, \begin{align} Z_{a}=\frac{V_f(a)+V_r(a)}{I_f(a)-I_r(a)} \end{align}伝送線路に空洞共振器接続本説では,伝送線路の空洞共振器を接続した場合の回路論的な取り扱いを示します.加速器では,導波管と加速空洞の結合を取り扱う場合のモデルになります. 空洞共振器回路の直列共振回路を用いて,共振器および外部との接続を表す特徴的な量 (共振周波数,Q値,外部Q値) の基礎的な話をします. 共振周波数とQ値ここでは,空洞共振器を回路素子 (インダクタンスとキャパシタンス,抵抗) を用いて取り扱う.空洞共振器を特徴づける量は,共振角振動数\(\omega_0\)とQ値です.これらの量を回路素子で表すことを考えまう.共振の角振動数\(\omega_0\)は \begin{align} \omega_0 = \cfrac{1}{L C} \end{align}です.Q値は蓄積エネルギー\(U\)と消費電力\(P\)の比なので, \begin{align} Q_0 &= \cfrac{\omega U}{P} =\cfrac{\omega L I^2}{I^2 R} =\cfrac{\omega L}{R} \\ &\qquad\qquad \text{or} \nonumber \\ & = \frac{1}{\omega C R} \end{align}となります.空洞では空間の電場と磁場の形で,蓄積エネルギーは蓄えられます.消費電力は空洞壁を流れる電流によるジュール熱損失です (RFの壁損失). ここで,回路モデルの変数 \(L,\,C,\, R\) が3個に対して,共振空洞を特徴づける量 \(\omega_0,\,Q_0\)の2個である — ことに疑問に思う読者もいるでしょう.シャントインピーダンスと言う量を付加して,両者の数を一致させることもありますが,ここでは不一致を容認します.実際の計算では,R=1 にしたり,比で表すことになります.ここでは,こんなものだと思ってください. 外部Q値共振空洞は外部の伝送線路と接続することにより,内部にエネルギーを蓄えます.それは,共振回路から見ると,図に示すように抵抗\(r_s\)が直列に接続されたように見えます.これは,接続部からエネルギーが流れる (失われる) ことから容易に想像がつきます.これによる損失電力は外部Qと呼ばれ量, \begin{align} Q_{ext}=\cfrac{\omega L}{r_s} = \frac{1}{\omega C r_s} \end{align}で特徴づけられます.また,空洞の壁損失電力と外部に流れる電力との合計は負荷Qと呼ばれ, \begin{align} Q_L = \cfrac{\omega L}{R+r_s} = \frac{1}{\omega C (R+r_s)} \end{align}になります.これらのQ値には, \begin{align} \frac{1}{Q_L} = \cfrac{1}{Q_0}+\cfrac{1}{Q_{ext}} \end{align}という関係があります.また,カップリング \(\beta\) を用いることで, \begin{align} Q_L=\cfrac{Q_0}{1+\beta} \end{align}となります.ただし,カップリグは \begin{align} \beta = \cfrac{Q_0}{Q_{ext}} \end{align}です. 伝送線路と空洞の結合ここでは,伝送線路と空洞共振器の結合について考える.主な内容は, Edward L. Ginzton 著「Microwave measurements」の 9.1 節の内容です. 計算モデルトランスの1次側と2次側の電圧 (\(V_1,\,V_2\)) と 電流 (\(I_1,\,I_2\)) との関係は, \begin{align} \begin{bmatrix} V_1 \\ V_2 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} i\omega L_1 & -i\omega M \\ i\omega M & -i\omega L_2 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} I_1 \\ I_2 \end{bmatrix} \label{eq:Trans_matrix} \end{align}となります. トランスの二次側では, \begin{align} V_2 = \cfrac{I_2}{i\omega C}+R_s I_2 \label{eq:2nd_circuit} \end{align}が成り立ちます. 伝送線路から見たインピーダンス式(\ref{eq:Trans_matrix})と式(\ref{eq:2nd_circuit})から,トランスの一次側から見たインピーダンス(図中の a–a の左側) は, \begin{align} Z &= \cfrac{V_1}{I_1} = i\omega L_1+ \cfrac{(\omega M)^2}{R_s +i\left(\omega L_2-\cfrac{i}{\omega C}\right)} \end{align}です.この結果を用いると図の回路は以下の図に置き換えられます. 共振空胴から見たインピーダンス同様に,トランスの二次側 (b–b) から見た伝送線路の側のインピーダンスは, \begin{align} Z = -\cfrac{V_2}{I_2} = i\omega L_2+\cfrac{(\omega M)^2}{Z_0 +i\omega L_1} = i\omega L_2+\cfrac{(\omega M)^2}{Z_0\left[1 +(\omega L_1/Z_0)^2\right]}\left(1-i\cfrac{\omega L_1}{Z_0}\right) \end{align}となります.この様子を図に示します.この右辺第1項が空洞がわからみた抵抗になります.これから,負荷Qは \begin{align} Q_L &= \cfrac {\omega L_2-\cfrac {(\omega M)^2} {Z_0\left[1+(\omega L_1/Z_0)^2\right]}\cfrac{\omega L_1}{Z_0}} {R_s+\cfrac {(\omega M)^2} {Z_0\left[1+(\omega L_1/Z_0)^2\right]}} \nonumber \\ \nonumber \\ &= \cfrac{\omega L_2}{R_s}\times\cfrac {1-\cfrac{(\omega M)^2}{Z_0\left[1 +(\omega L_1/Z_0)^2\right]} \cfrac{L_1}{Z_0L_2}} {1+\cfrac{(\omega M)^2}{Z_0\left[1+(\omega L_1/Z_0)^2\right]R_s}} \label{eq:QL_form_2nd_trans_1}\\ \end{align}次に,後ほどカップリングと呼ばれる量\(\beta\)を \begin{align} \beta = \cfrac{(\omega M)^2}{Z_0\left[1+(\omega L_1/Z_0)^2\right]R_s} \end{align}と定義します.すると,負荷\(Q_L\)を表す式\eqref{eq:QL_form_2nd_trans_1}は, \begin{align} Q_L &=\cfrac{\omega L_2}{R_s}\times\cfrac {1-(\beta R_s/Z_0)(L_1/L_2)}{1+\beta} \end{align}と変形できます.空洞のインダクタンスに比べてカップリングのインダクタンスは小さいので,\(1<<(\beta R_s/Z_0)(L_1/L_2)\)です.したがって,この項を無視し,\(Q_0 = \omega L_2/R_s\)の関係を使うと, \begin{align} Q_L &=\cfrac{Q_0}{1+\beta} \end{align}です. ページ作成情報参考文献
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