共同研究
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電磁気学インダクタンス電気回路で現れるインダクタンスの理論について,説明します. 目次はじめに理工系の電気や電子,物理を学んだ者はインダクタンスについて学習したはずです.それにもかかわらず,インダクタンスの物理的な意味を理解しているほとんどいません.それもそのはずで,世の中の教科書や WEB サイトを見ても,どれもこれも物理的な意味の説明が書かれていません.そこで,ここでは誰でもが直感的に分かる説明をします. しばしば使われる良くないインダクタンスの定義インダクタンスには,いろいろな定義があります.ここでは,しばしば教科書に書かれている代表的な(1)磁束から(2)電圧から — の定義について,その問題点を指摘します. 磁束から定義磁束\(\phi\)から定義されるインダクタンス\(L\)は, \begin{align} LI \nonumber &= \phi \\ &=\int \vm{B}\cdot\vm{n}\diff S \label{eq:diff_phi}\\ \end{align} です.ここで,\(I\)はコイルに流れる電流,\(\vm{B}\)は磁束密度です.積分範囲は,回路(コイル)を囲む任意の面です.この定義を用いると,最初の議論の展開が簡単になり便利です. しかし,式 \eqref{eq:diff_phi} の定義には,ふたつの大きな問題があります.最初の問題は,式の意味が分かり難いということです.この式は電流と磁束の関係を表していますが,電流はわかるが磁束って何?? これらの関係を表すインダクタンスのイメージは?? ということになります.二つ目の問題は,実際のインダクタンスの計算が大変面倒です.複雑なコイルの場合の積分面は?? 磁束からインダクタンスを定義すると,このような疑問に直面します. 特に,後者のインダクタンスの計算が問題です.図 1 に示す単純なコイルの場合は計算可能ですが,図 2 に示す複雑なコイルの場合はお手上げです.回路内部の磁束を計算する積分の面を決めることができますか? さらに,実際のコイルの線材には有限な大きさが有ります.図 3 のように幅の広い線材の場合,積分範囲はどうするのでしょうか? 式 \eqref{eq:diff_phi} の定義にはいろいろな問題が有ります. また,この式 \eqref{eq:diff_phi} から相互インダクタンスを定義しなくてはなりません.そうなると,とても分かり難い奇っ怪な議論を展開する必要に迫られます.もう,やってられないですね. 電圧と電流から定義回路に関する書籍では, \begin{align} V=L\ddiffA{I}{t} \label{eq:diff_circuit} \end{align} と書かれることもあります.ここで,\(V\)はコイル両端の電圧,\(I\)はコイルに流れる電流,\(t\)は時間です.電流の時間微分はが電圧になります.式の意味は分かりやすいですね.この定義を使うと,電磁気学を使わないで回路の話を進められます.そういう意味では便利です.もちろん,この定義では実際のインダクタンスを計算することは不可能です.実際にコイルを作って,測定することはできるかもしれませんが.そもそも回路の問題では,インダクタンスは与えられる量なので,そんなことはどうでもよいのでしょう. 式\eqref{eq:diff_circuit}の正負の異なる式「\(V=-L\diff I/\diff t\)」が書かれる場合もあります.これは,電流と電圧の方向の定義の違いです.この方向の定義はとても重要なことですが,これが書かれていない書物が結構多いです.方向の定義を書かないで式を書いているから,訳の分からないことになるのです.読む方も理解できないですね. というわけで,この式の意味をきちんと理解している人は少ないです.例えば,「電流と電圧の正負をどうなっているの?」とか「その意味は?」,「インダクタンスに正負あるの?」 --- に答えられるでしょうか. 答えは,次のとおりです.
エネルギーからインダクタンスを定義1個のコイルインダクタンス\(L\)はコイルに蓄えられる磁場のエネルギーを表す比例係数と定義します.すなわち, \begin{align} U_L = \frac{1}{2}LI^2 \label{eq:diff_L} \end{align} です.コイルに蓄えられるエネルギーは,磁場のエネルギー\(U_M\)です.式で表すと, \begin{align} U_M &= \frac{1}{2}\int\vm{B}\cdot\vm{H}\diff V \nonumber\\ &= \frac{1}{2\mu}\int\vm{B}\cdot\vm{B}\diff V\\ \end{align} となります.ここで,\(\vm{B}\)は磁束密度,\(\vm{H}\)は磁場の強さ,\(\mu\)は透磁率です.透磁率は積分の外に出しましたが,空間で透磁率が一様でない場合は,積分の中に入ります.積分範囲は,すべての空間にわたって行います.もちろん,\(U_L=U_M\)なので, \begin{align} \frac{1}{2}LI^2=\frac{1}{2\mu}\int\vm{B}\cdot\vm{B}\diff V \label{eq:diff_inductance_form_B} \end{align} となります.これがインダクタンスの定義です.こうすることにより,先の「1.2 いろいろな定義」で述べた問題が解消されます.式 \eqref{eq:diff_phi} の面積分の領域の問題が解消されます.現在は,数値計算 (シミュレーション) を用いることにより,容易に磁場計算が可能です.その結果を用いて,計算領域にわたって磁場を数値積分すれば,容易にインダクタンスを計算できます. この定義には,二つのメリットが有ります.
2個のコイル図のように,二つのコイルがある場合の磁場のエネルギーを計算しましょう.マックスウェルの方程式で表される電磁場は線形です.したがって,重ね合わせができます.したがって,この場合の磁場が持つエネルギーは, \begin{align} U_M &= \frac{1}{2\mu}\int\left(\vm{B}_1+\vm{B}_2\right)\cdot\left(\vm{B}_1+\vm{B}_2\right)\diff V \nonumber\\ &= \frac{1}{2\mu}\int\vm{B}_1\cdot\vm{B}_1\diff V + \frac{1}{2\mu}\int\vm{B}_2\cdot\vm{B}_2\diff V + \frac{1}{\mu}\int\vm{B}_1\cdot\vm{B}_2\diff V \end{align} となります.1個のコイルの場合から, \begin{align} &\frac{1}{2}L_1I_1^2=\frac{1}{2\mu}\int\vm{B}_1\cdot\vm{B}_1\diff V &\frac{1}{2}L_2I_2^2=\frac{1}{2\mu}\int\vm{B}_2\cdot\vm{B}_2\diff V \\ &\frac{1}{2}M_{1\,2}I_1I_2=\frac{1}{\mu}\int\vm{B}_1\cdot\vm{B}_2\diff V \\ \end{align} と類推できます.最後の\(M\)は相互インダクタンスです.二つのコイルが作る磁場の内積の積分を表しています.これは相互インダクタンスと呼ばれる量で,二つのコイルの干渉を表しています.干渉の度合いは,それぞれのコイルが作る磁場の内積で評価できます.このように相互インダクタンスを定義すると,そに意味がとても分かりやすくなります. 3個以上のコイル3個以上のコイルがある場合についも,2個のコイルの場合と同じことが言えます.磁場のエネルギーは, \begin{align} U_M &= \frac{1}{2\mu}\int\sum_{i=1}^N\vm{B}_i\cdot\sum_{i=1}^N\vm{B}_i\diff V \nonumber\\ &= \sum_{i=1}^N \frac{1}{2\mu}\int\vm{B}_i\cdot\vm{B}_i\diff V + \sum_{i=1}^N\sum_{j=1}^N\frac{1}{\mu}\int\vm{B}_i\cdot\vm{B}_j\diff V \end{align} となります.言うまでもなく,それぞれのインダクタンスと相互インダクタンスは, \begin{align} &\frac{1}{2}L_iI_i^2=\frac{1}{2\mu}\int\vm{B}_i\cdot\vm{B}_i\diff V & &\frac{1}{2}M_{i\,j}I_iI_j=\frac{1}{\mu}\int\vm{B}_i\cdot\vm{B}_j\diff V \\ \end{align} です. 回路との対応前節ではインダクタンスと電流,磁場の関係を示しました.回路の問題を解くときには磁場は不要で,代わりに電圧が現れます.ここでは,先ほど定義したインダクタンスの回路の電圧や電流との対応を示します. 1個のコイル図の回路を考えます.図中に示すように電圧と電流が正の場合には,エネルギーはコイル側に流れます.負の場合には,エネルギーは電源側へ流れます.このことを頭に入れ,\eqref{align}の両辺を時間\(t\)で微分します.すると, \begin{align} \ddiffA{U}{t}=LI\ddiffA{I}{t} \end{align} となります.この値が正の場合,コイルの磁場のエネルギーが増えます.エネルギーの増加分は,電源から供給されます.したがって, \begin{align} IV=LI\ddiffA{I}{t} \end{align} です.直ちに, \begin{align} V=L\ddiffA{I}{t} \end{align} が得られます.これは,式\eqref{eq:diff_voltage}と同じです. ページ作成情報参考資料更新履歴
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