5 スカラー場・ベクトル場の微分

ここでは、曲線座標系での微分演算子について、説明する。なんと言ってもよく使われる 微分演算子は、勾配と発散、回転である。カーテシアン座標系では、これらの表現は簡単 であるが、曲線座標系ではどうなるだろうか?。いろいろな方法で曲線座標系のこれらの 微分演算子を導出することができるが、これまでに求めたスケール因子を使うと非常に簡 単でわかりやすい。

5.1 勾配

スカラー場$ f$の勾配$ \nabla f$は、

$\displaystyle df=\nabla f\cdot d\boldsymbol{r}$ (28)

と定義できる。座標を $ d\boldsymbol{r}$変化させると、スカラー場の値は$ df$変わるので ある。スカラー場の変化は、勾配に座標の変化量の内積である。スカラー場の変化量はス カラー量、座標の変化はベクトル量であるため、勾配はベクトル量である。勾配の方向は、 式(28)から分かるように、スカラー場の正の変化量が最大の方向で ある。内積は、各々のベクトルの大きさと、それらのなす角の余弦を乗じた値になるから である。

ここで、曲線座標系の微少変位ベクトル $ d\boldsymbol{r}$は、式(18) に示されている。これが、式(28)が右辺の $ d\boldsymbol{r}$の項になる。次に、勾 配 $ \nabla \varphi $はベクトル量なので、係数 $ F_1,F_2,F_3$を使って、

$\displaystyle \nabla f=F_1\hat{\boldsymbol{u}}_1+F_2\hat{\boldsymbol{u}}_2+F_3\hat{\boldsymbol{u}}_3$ (29)

と表すことができる。この式の $ F_1,F_2,F_3$を求めることができれば、曲線座標系の勾 配が分かる。そのために、これと式(18)を 式(28)に代入すると

$\displaystyle df %
$ $\displaystyle =\left( F_1\hat{\boldsymbol{u}}_1+F_2\hat{\boldsymbol{u}}_2+F_3\h...
...l{u}}_1du_1+h_2\hat{\boldsymbol{u}}_2du_2+h_3\hat{\boldsymbol{u}}_3du_3 \right)$    
  $\displaystyle =h_1F_1+h_2F_2+h_3F_3$ (30)

となる。

一方、スカラー場$ f$は位置の関数であるため、独立変数 $ (u_1,u_2,u_3)$を使って、

$\displaystyle f = f(u_1,u_2,u_3)$ (31)

と書くことができる。この関数の全微分は、

$\displaystyle df = \if 11 \frac{\partial f}{\partial u_1} \else \frac{\partial^...
...\partial f}{\partial u_3} \else \frac{\partial^{1} f}{\partial u_3^{1}}\fi du_3$ (32)

である。この結果と式(30)を比べると、

\begin{equation*}\left\{ \begin{aligned}h_1F_1= \if 11 \frac{\partial f}{\partia...
...partial^{1} f}{\partial u_3^{1}}\fi du_3 \\ \end{aligned} \right.\end{equation*}

となる。これから $ F_1,F_2,F_3$を求め、式(29に代入する と、曲線座標系の勾配が

$\displaystyle \nabla f= \frac{\partial f}{h_1\partial u_1}\hat{\boldsymbol{u}}_...
...hat{\boldsymbol{u}}_2+ \frac{\partial f}{h_3\partial u_3}\hat{\boldsymbol{u}}_3$ (34)

と求められる。これで、この節の目的である、曲線座標系の勾配を求める式を得ることが できた。

この式の解釈は簡単で、$ u_2$$ u_3$を固定して $ \Delta u_1$変化させた場合の $ f$の変化は、

$\displaystyle (\Delta f)_1=\frac{\Delta f}{h_1\Delta u_1}h_1\Delta u_1$ (35)

となる。ここで、 $ \Delta \varphi/h_1\Delta u_1$6の極限の操作をおこなうと、これは $ \partial \varphi / h_1\partial u_1$となる。$ u_2,u_3$を固定しているので偏 微分になるのである。この偏微分が$ du_1$のみを変化させたときのスカラー場$ \varphi$の変化 率、即ち、勾配の $ \hat{\boldsymbol{u}}_1$方向成分である。ちょうど、式(34)の 右辺の第1項である。$ du_2$$ du_3$も同様である。ここでも、スケール因子が重要な役 割を果たしている。

おまけとして、7.1節に、非常に危なっかしい方法でこの勾配の 求め方を示す。

5.2 発散

ベクトル場 $ \boldsymbol{A}(u_1,u_2,u_3)$の発散 $ \div{\boldsymbol{A}}$は、ある体積要素から流れ出る フラックス7の総量をその体積で割ることにより求めら れる。これは、スカラー量になる。例えば、図7のようにベクトル場に閉 じた領域を考え、その表面から流れ出るフラックスの総量を体積で割るのである。体積要 素をどんどん小さくすると、形状に依存しないである値に近づく。そして、この体積要素 をゼロにした極限が発散と定義できる。これを式で表すと、

$\displaystyle \div{\boldsymbol{A}}=\lim_{V \to 0} \frac{\int_S\boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{n}dS}{\int_V dV}$ (36)

となる。ここで、分母は体積となり、分子は表面積とその法線方向のベクトル場の積分と なる。これは、分母分子の極限を計算しているので、ベクトル場の微分となっている。

それでは、曲線座標系の微少体積要素を用いて、その微分の内容を求めてみよう。微少体 積要素は局面からなる6面体で、図8のようになっている。この微少体積要素 のベクトル場の変化やスケール因子の変化をよく考えて、発散を求める。式 (36)を全て計算するのは紙面の都合上厳しいので、まずは $ \hat{\boldsymbol{u}}_1$方向のフラックスを計算する。図でも分かるように、ベクトル場 $ \boldsymbol{A}$ $ \hat{\boldsymbol{u}}_1$方向成分 8 $ A_1$は、一方の面では入り込み、他方では出ている。さらに、この2面で、ベクトル $ A_1$の値とスケール因子の値が異なることに注意が必要である。$ u_1$の面でのそれぞれ の値を $ A_1,h_2,h_3$とすると、$ u_1+du_1$でのそれらは、

$\displaystyle A_1(u_1+du_1)$ $\displaystyle =A_1+ \if 11 \frac{\partial A_1}{\partial u_1} \else \frac{\partial^{1} A_1}{\partial u_1^{1}}\fi du_1$ (37)
$\displaystyle h_2(u_1+du_1)$ $\displaystyle =h_2+ \if 11 \frac{\partial h_2}{\partial u_1} \else \frac{\partial^{1} h_2}{\partial u_1^{1}}\fi du_1$ (38)
$\displaystyle h_3(u_1+du_1)$ $\displaystyle =h_3+ \if 11 \frac{\partial h_3}{\partial u_1} \else \frac{\partial^{1} h_3}{\partial u_1^{1}}\fi du_1$ (39)

となる。フラックスは面積とベクトルの成分の積なので、この2面の寄与は

$\displaystyle flux_1$ $\displaystyle =\left(A_1+ \if 11 \frac{\partial A_1}{\partial u_1} \else \frac{...
...\frac{\partial^{1} h_3}{\partial u_1^{1}}\fi du_1\right)du_3- A_1h_2du_2h_3du_3$    
  $\displaystyle =\left( \if 11 \frac{\partial A_1}{\partial u_1} \else \frac{\par...
...ial u_1} \else \frac{\partial^{1} h_3}{\partial u_1^{1}}\fi \right)du_1du_2du_3$    
  $\displaystyle =\frac{\partial}{\partial u_1}(A_1h_2h_3)du_1du_2du_3$ (40)

となる。ここでは丁寧に計算したが、$ A_1h_2h_3$で一つの関数と考え $ (u_1,u_2,u_3)$を 独立変数と考えれば、もっと簡単に式(40)を求めることができる。即ち、 この関数の一次の変化量は、

$\displaystyle \frac{\partial}{\partial u_1}(A_1h_2h_3)du_1$ (41)

となる。これに、$ du_2du_3$を乗算すれば、式(40)と同じ結果が得られる。

残りの面に関しても、式(40)を $ 1\rightarrow 2 \rightarrow 3$の順にサイ クリックに入れ替えれば求めることができる。これらの全てのフラックスを合計して、局 面座標の微少体積要素で式(36)を考えると

$\displaystyle \div{\boldsymbol{A}}$ $\displaystyle =\frac{ \frac{\partial}{\partial u_1}(A_1 h_2 h_3)du_1 du_2 du_3+...
...rac{\partial}{\partial u_3}(A_3 h_1 h_2)du_1 du_2 du_3 }{h_1du_1h_2du_2h_3du_3}$    
  $\displaystyle =\frac{1}{h_1 h_2 h_3}\left[ \frac{\partial}{\partial u_1}(A_1 h_...
...{\partial u_2}(A_2 h_3 h_1)+ \frac{\partial}{\partial u_3}(A_3 h_1 h_2) \right]$ (42)

となる。これが、局面座標系の発散を求める式である。

図 7: 囲まれた領域とベクトル場
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.5]{figure/div_dv.eps}
図 8: $ u_2,u_3$面での発散
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.7]{figure/div.eps}

5.3 回転

ベクトル場 $ \boldsymbol{A}(u_1,u_2,u_3)$の回転 $ \nabla\times \boldsymbol{A}$は、面積要素の縁のベクトルの 線積分をその面積で割ることにより求められる。これは、面の法線方向に向かったベクト ル量となる。図9のように計算する面は任意で、値はその放線方向のベク トルの成分となる。通常は、計算が便利な、$ u_1$あるいは$ u_2$$ u_3$が一定のそれぞ れの面で計算する。図10に示すように、3つの面が交わるところが、 $ (u_1,u_2,u_3)$の位置を示し、その曲面の微少面で回転を計算する。そして、計算され た回転の成分は、この曲面の法線方向で表すことができる。例えば、図9 のように$ u_1$が一定の曲面の閉じた領域を考える。ここで、その領域の縁のベクトルを 線績分してその面積で割るのである。面積要素をどんどん小さくすると、形状に依存しな いである値に近づく。この一定の値が、ベクトル場の回転の$ u_1$方向成分である。これ は、$ u_2$$ u_3$一定のそれぞれの面で考えることができるので、ベクトル場のある点で 3成分の値を持つことになる。そして、これはベクトル量になる。これが、ベクトル場の 回転である。これを式で表すと、

$\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{A}=\lim_{S \to 0} \frac{\oint_\Gamma\boldsymbol{A}\cdot d\boldsymbol{\ell}}{\int_S dS}$ (43)

となる。ここで、分母は面積となり、分子は面の縁の接線方向のとベクトル場の線積分と なる。これもまた、分母/分子の極限を計算しているので、ベクトル場の微分となっている。

発散のときと同様に、曲線座標系の微少面積要素を用いて、その微分の内容を求めてみよ う。$ u_1$が一定の場合の微少体面積要素は、$ du_2$$ du_3$からなる面で、図 11のようになっている。ベクトル場の変化やスケール因子の変化をよく考え て、回転を求める。式(43)の $ \hat{\boldsymbol{u}}_1$方向の成分を計算 することにする。この式の右辺の分母の面積要素は、式(24)で示さ れているので、回転の総量を表す分子の計算を行う。これは、反時計回りにベクトル場の 接線成分を線積分することにより求められる。図から分かるように、ベクトル場 $ \boldsymbol{A}$ $ \hat{\boldsymbol{u}}_2$方向成分$ A_2$は、一方の辺では積分の方向と同じで、対向する辺で は逆になる。また、この2辺ではで、ベクトル$ A_2$の値の他にスケール因子の値も異なる ことに注意する事は発散のの計算と同じである。 $ \hat{\boldsymbol{u}}_2$方向の$ u_3$での、そ れぞれの値を$ A_2,h_3$(図11の右の辺) とすると、$ u_3+du_3$でのそれらは、

$\displaystyle A_2(u_3+du_3)$ $\displaystyle =A_2+ \if 11 \frac{\partial A_2}{\partial u_3} \else \frac{\partial^{1} A_2}{\partial u_3^{1}}\fi du_3$ (44)
$\displaystyle h_2(u_3+du_3)$ $\displaystyle =h_2+ \if 11 \frac{\partial h_2}{\partial u_3} \else \frac{\partial^{1} h_2}{\partial u_3^{1}}\fi du_3$ (45)

となる。従って、この2面(図の右と左の辺)の回転の寄与は、

  $\displaystyle A_2h_2du_2-\left(A_2+ \if 11 \frac{\partial A_2}{\partial u_3} \e...
...partial u_3} \else \frac{\partial^{1} h_2}{\partial u_3^{1}}\fi du_3\right)du_2$    
  $\displaystyle \qquad=-\left(A_2 \if 11 \frac{\partial h_2}{\partial u_3} \else ...
...tial u_3} \else \frac{\partial^{1} A_2}{\partial u_3^{1}}\fi h_2\right)du_2du_3$    
  $\displaystyle \qquad=-\frac{\partial}{\partial u_3}\left(A_2h_2\right)du_2du_3$ (46)

となる。符号に気をつけて、同様のことを図11の上と下の辺で行うと、そこ での回転の総量は

$\displaystyle \frac{\partial}{\partial u_2}\left(h_3A_3\right)du_2du_3$ (47)

となる。以上より、上下左右のすべての辺の線積分がわかった。面積要素は、 $ h_2h_3du_2du_3$と分かっている。これから、線積分を面積で割った $ \hat{\boldsymbol{u}}_1$方 向の回転は

$\displaystyle (\nabla\times \boldsymbol{A})_1$ $\displaystyle =\frac{\frac{\partial}{\partial u_2}\left(h_3A_3\right)du_2du_3 -\frac{\partial}{\partial u_3}\left(A_2h_2\right)du_2du_3} {h_2h_3du_2du_3}$    
  $\displaystyle =\frac{1}{h_2h_3}\left[ \frac{\partial}{\partial u_2}\left(h_3A_3\right) -\frac{\partial}{\partial u_3}\left(A_2h_2\right) \right]$ (48)

となる。残りの2成分は、成分を表す記号を $ 1\rightarrow 2\rightarrow 3$とサイクリック に変えれば求められる。従って、回転は

$\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{A}=$ $\displaystyle \frac{1}{h_2h_3}\left[ \frac{\partial}{\partial u_2}\left(A_3h_3\...
...-\frac{\partial}{\partial u_3}\left(A_2h_2\right) \right]\hat{\boldsymbol{u}}_1$    
$\displaystyle +$ $\displaystyle \frac{1}{h_3h_1}\left[ \frac{\partial}{\partial u_3}\left(A_1h_1\...
...-\frac{\partial}{\partial u_1}\left(A_3h_3\right) \right]\hat{\boldsymbol{u}}_2$    
$\displaystyle +$ $\displaystyle \frac{1}{h_1h_2}\left[ \frac{\partial}{\partial u_1}\left(A_2h_2\...
...-\frac{\partial}{\partial u_2}\left(A_1h_1\right) \right]\hat{\boldsymbol{u}}_3$ (49)

となる。ただ、この式は長くて憶えにくい。そこで、通常は、

$\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{A}=\frac{1}{h_1h_2h_3} \begin{vmatrix}h_...
... u_2} & \frac{\partial}{\partial u_3} \\ A_1h_1 & A_2h_2 & A_3h_3 \end{vmatrix}$ (50)

とする事が多い。

図 9: 囲まれた面とベクトル場
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.5]{figure/rot_dS.eps}
図 10: $ u_1$あるいは$ u_2$あるいは$ u_3$が一定の面
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.5]{figure/rot_dS_3.eps}
図 11: $ u_2,u_3$面での発散
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.7]{figure/rot.eps}

ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成20年3月24日


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